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読む宇宙旅行

2013年10月31日

視線を外に。日本が世界に貢献できる道筋を探ろう
-山崎直子宇宙飛行士に聞く(2)

宇宙政策委員として多忙な日を送る山崎直子さん。

宇宙政策委員として多忙な日々を送る山崎直子さん。

 「宇宙に行きたい人が誰でも行けるようにしたい」とJAXAを退職後、2012年7月から内閣府の宇宙政策委員として、日本の宇宙政策を審議する山崎直子さん。日本で20年以上蓄積されてきた「有人宇宙開発の火」を絶やしたくないという気持ちを強く持ちながら、なかなか議論が進まない。早く準備を始めなければ、いざ国際協力で有人探査を行うことになっても、日本が「残りくじ」を引かざるを得ないのでは、と焦りを持っているという。

●ISSの後、どうするのか?

 「今の日本の宇宙開発の柱は『自律性の確保』と『利用の拡大』です。有人宇宙開発については、個人的には国際協力の道を探ること、民間が参入しやすいよう環境を整えること、の2つの柱で考えています。解釈の仕方は色々あって、有人宇宙開発も自律性の確保に入るという考え方もあると思うのですが、安全保障や産業に直結する、短期的プロジェクトの優先順位が高い。長期的な取り組みが必要な有人宇宙開発の議論は、ようやく始まろうとしている状況です。

 今、一番の問題は国際宇宙ステーション(ISS)の後が見えないこと。ISSは2020年までの運用が検討されているが、その後どうするのか?蓄積された高い技術の『行き場』がないのです。日本が有人宇宙開発を継続するなら国際協力で進めざるを得ない。そうなれば国際間の駆け引きがある。どの国も主要部分や得意な技術を担当したがる。いい立ち位置をとるためには、今から準備しないと乗り遅れ、残りくじを引かざるを得なくなる可能性がある」(山崎さん)

●NASA有人小惑星探査計画は「対中国」の宇宙外交?

 今、世界はどんな状況にあるのだろう。NASAはポストISS計画として2020年代半ばに小惑星を無人宇宙機で月の周回軌道まで運び、別の宇宙船で宇宙飛行士を送り小惑星探査をする計画について予算を要求した。しかしこの計画、本当に実現できるのか?

NASAの小惑星有人探査の想像図。小さな小惑星を月軌道まで無人宇宙船で運んだ後、宇宙飛行士が探査を行う。(提供:NASA)

NASAの小惑星有人探査の想像図。小さな小惑星を月軌道まで無人宇宙船で運んだ後、宇宙飛行士が探査を行う。(提供:NASA)

 「小惑星探査機『はやぶさ』がそうだったように、実際に小惑星に行ってみないとわからないことがある。回転している天体に速度を合わせ掴んで運ぶには、難易度の高い技術が必要です。だからこそ小惑星探査で実績がある日本が貢献できると思うのです」

 NASAが小惑星有人探査を打ち出した背景には、中国の存在がある。中国は2020年代半ばに、月に人を送る計画を立てているが、その時米国が何もしていないのはマズイ。中国が月なら米国はその先を行くべき。しかし小惑星まで人を往復させるのは難しい。ならば月軌道まで小惑星を運んでくればいい・・・

 「宇宙外交です。パワーバランスを見ている。今、中国の動きに世界が注目しています。中国は月探査だけでなく、独自の宇宙ステーションを2020年頃に完成させる計画で、さらに他国の宇宙飛行士を訓練するなど、交流しましょうと各国と協議を始めています。中国に対して日本はどういうスタンスをとるのか。情報を集めて分析して、判断しなければならない」

●視線を外へ

 世界の有人宇宙開発をめぐる状況は刻々と変化している。そして今、山崎さんが一つの大きなマイルストーンになると期待する会議が来年1月に開かれる。

 「将来の宇宙探査に向けて、初の閣僚級国際会議『国際宇宙探査フォーラム』が2014年1月、ワシントンDCで開かれます。第2回となる 2016年は日本で開催する予定です。今後に向けて最初の布石となる『声明』を出すはずです。国際協力で宇宙探査をするためのいいスタートになればと期待するとともに、日本や各国がどういうスタンスをとるのか、注目です」

 山崎さんは、宇宙利用は必要とした上で、議論が国内の話題に集中しすぎていることを懸念する。外に目を向け、「世界の中の日本」という視点をもつべきだと。

 「せっかく若田飛行士がISSの船長になり、貨物船『こうのとり』が貢献し、世界レベルの知見や技術が高まっても、それぞれが単発であり横の連携がはかれていない。連携をはかった上で『一歩先の戦略を持つ必要がある』」と山崎さんは主張する。

 例えば、と例にあげてくれたのは、この夏打ち上げに成功したイプシロンロケットや、新しく開発を始める新型基幹ロケット、準天頂衛星や地球観測衛星など日本が誇る人工衛星やその利用手法、人材育成システム。さらに有人宇宙技術をもパッケージし、世界のユーザーのニーズや課題をひろい、問題解決を一緒に行っていく。視線を中だけでなく、外に向けること。「国際状況の中で日本が貢献していく道筋を探りましょう」山崎さんは何度もくり返した。