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ライター 林 公代 Kimiyo Hayashiライター 林 公代 Kimiyo Hayashi

「ひまわり8号」—ゲリラ豪雨をもたらす雲はこれだ!

今年の夏も暑かった!ゲリラ豪雨(局地的大雨)は頻発しているし、台風が日本列島に接近、上陸。お天気がますます気になる今日この頃、生活に直結する天気予報のしくみや気象衛星について知る絶好のイベントが行われた。東京・銀座にある「METoA Ginza(メトアギンザ)」で8月19日に行われた「ひまわり8号・9号」トークイベントだ。

昨年7月7日に運用を開始したひまわり8号は、7号に比べて観測能力が大幅にアップしたと言われる。どこがどんなふうに?天気予報に実際にどう貢献しているの?今年「ひまわり9号」が打ち上げられるにあたり、宇宙好き、かつめちゃくちゃ詳しい子供たちを前に気象庁職員や衛星エンジニア、気象予報士らが真剣勝負。2時間半の内容は大人たちにとってもヒジョーに面白く、勉強になった。ポイントを紹介します。

「ひまわり・なんでも・調査隊!~ひまわり8・9号のひみつを探る」(日本宇宙少年団(YAC)主催)の様子。YACの宇宙兄さんズがイベントを楽しく盛り上げる。

台風や、激しい雨を降らせる積乱雲をいち早く見つけるために。

最初に登場したのが、気象衛星ひまわりを運用する気象庁の安井一樹さん。まず、「ひまわり8号」のどこがスゴイのかについて。性能アップした点は多々あるが、特筆すべきは観測回数が増えたこと。「地球全体の丸い画像は(7号では)1時間に1回だったのが、1時間に6回(つまり10分に1回)に。6倍たくさん撮れるようになりました。さらに日本の周りについては1時間に24回(2分半に1回)。地球全体を観測しながら、日本の周りの雲の画像をとれるようになったのです」。さらに解像度が2倍になったため、これまでぼんやりしか見えなかった雲の様子が、くっきり観測できるようになったという。

ひまわり8号の観測機能について説明する 気象庁観測部気象衛星課運用管理班 安井一樹さん。

そもそも、なぜ宇宙から気象衛星を使った観測を行うのか。一番の目的は「台風」だった。台風は日本のはるか南の海域で発生し、発達しながら日本に近づいてくる。しかし、台風が発生する場所には陸地がなく、レーダーなどの観測機を設置できない。人工衛星を使えば宇宙から観測できる。つまり台風観測は気象衛星からのデータが頼りなのだ。

ひまわり8号が観測を開始した2015年7月7日の画像。日本の南の海域に台風が3つ見えている。
ひまわり8号の台風観測画像。日本付近の画像はこれまで30分に一回の観測だったのが2分半に1回になり、動きを詳細に把握できるとともに、解像度が2倍になった。台風の目、その周りの積乱雲が発達する様子を詳しく見ることができる。

ひまわり8号は、日本から遠く離れた場所で台風が発生する様子を早い段階からとらえ、日本列島に近づく前に、台風の強さやスピードを教えてくれる。「2分半ごとに台風をクローズアップして追いかける機能もあります。台風の中心にある目や、その周りの雲の動きをとらえ、台風がどのくらいの大きさでどんな強さか知ることができます」(安井さん)

ひまわり8号がとらえるのは台風だけではない。最近、「突然」、「狭い範囲で」、「激しく」雨が降る局地的大雨が増えている。いわゆる「ゲリラ豪雨」だ。その原因は急激に発達する積乱雲。「小さな雲が突然もこもこと大きくなります。その様子がひまわり8号で克明に捉えられています。今後、急激な雨を降らせる雲がどこにあって、どこに雨が降るかをお知らせできるのではないかと開発を進めています」と安井さん。

一つの積乱雲が発生後、急成長して大雨を降らし衰弱するまでは長くて約1時間しかない。つまりいかに早く局地的大雨をもたらす積乱雲をとらえて予報につなげられるか、時間との勝負になる。ひまわり8号の膨大な観測データから、積乱雲が発達していることを自動で検出し、さらにアラームが出るような「自動検知ソフト」があれば使いやすい、という声が現場の予報官からあがっていると以前の取材で伺った。(参照:ゲリラ豪雨に挑む!気象庁「天気予報の現場」で聞く、ひまわり8号の舞台裏)そのための研究が気象庁内部で進んでいた!貴重な映像を安井さんは、見せてくださった。

関東の北にある積乱雲。左の白黒画像ではどの雲も同じように見える。右は色付けした画像で、黄色く表示した雲の下では激しい雨が降る可能性がある。赤い雲は空の高いところにある雲で雨を降らせる雲ではない。色付けすることで、わかりやすくなる。

「ひまわり」の観測画像では雲は一様に白くうつる。そこで急激な雨をもたらす積乱雲に色付けをして目立たせた。激しい雨を降らせる可能性がある雲を黄色く表示している。「ひまわり8号の観測画像からこのような画像を作ることができることがわかりました。実際に予報にどう生かせるか、今は確認中の段階です。実際に積乱雲が発達して大雨が降るまでは数十分なので、なるべく早く予報を出すことが必要だと思います」(安井さん)

局地的大雨をもたらす積乱雲以外にも中国から飛来する黄砂や、北海道の流氷など画像データから特定の対象を見やすくする研究が進行中であり、初めて見る貴重な映像を参加者たちは食い入るように見つめていた。

中国から飛来する黄砂が濃い赤で表示されている。(提供:気象庁)
北海道付近の流氷や雪。(提供:気象庁)

天気予報は気象衛星だけでなく、地上に設置されたレーダーやアメダスなど様々な観測機器から集めた情報をスーパーコンピュータに入力、計算。はじき出された数値予報をもとに最後は予報官によって作成される。現在、天気予報の当たる確率は「約80点」。膨大な観測データから重要な情報を素早く読み出し、実際の天気予報に生かすための研究が進められている。

衛星づくりの舞台裏

続いて、ひまわり8号を製作した三菱電機・磯部昌徳さんから衛星づくりの舞台裏についてのお話。地上と異なり、空気がない真空で、日向と日陰の温度差が激しく、放射線が飛び交う厳しい宇宙環境で、決して壊れない人工衛星をどう作るのか。衛星は宇宙で故障しても修理に行けない。天気予報は地上の人たちの生活に直結するため、失敗は許されない。たくさんの試験をすべて100点満点でクリアしてきた例が紹介された。「ひまわり8号を作るのに大変だったのは?」という子供たちの質問に対して磯部さんは「とても精度の高いカメラを載せているため、少しの振動でも手ぶれのような状態になってしまう。カメラをきちんと地球に向けてできるだけ動かないように設計するのが大変だった」と回答。観測機が高性能になればなるほど、安定して動かす衛星本体の開発も苦労の連続なのだ。

ひまわり8号のプロジェクトマネージャーを務めた三菱電機の磯部昌徳さん。-150度から200度という宇宙の過酷な熱環境を模擬した巨大なスペースチェンバで行う試験は、1~2か月も続く。

ひまわり8号で「天気予報が伝えやすくなった」

そして「ひまわり8号」などの膨大な気象データを見ながら、実際に私たちにお天気をわかりやすく伝えてくれるのが気象予報士のみなさん。日テレニュース24の気象キャスターで気象予報士の藤森涼子さんが、天気予報の現場話を楽しく話してくれた。

気象予報士の国家試験は合格率4~5%とかなり難しい試験である。しかし「何歳でも受けられます」と藤森さん。最年少は12歳11か月の中学1年生(2012年合格時)!藤森さんの話で興味深かったのは、気象キャスターの仕事のやりがい。お天気情報はだいたい1時間のニュース番組の最後の4分ぐらい。短いけれど「4分間の内容は全部任せてもらえる。台風の話をするか猛暑の話をするか、どの画面を出すか。ニュースキャスターは記者が書いた原稿を読むが、お天気の解説は自分で原稿を書き、自分の言葉で伝えることができます。だから4分間の番組でも何時間も準備をします。楽しくやりがいのある仕事です」。

気象友の会理事で気象予報士の藤森涼子さんは、天気予報を番組で伝えるまでの仕事を写真とともに紹介。ちなみに天気予報の原稿は手書き。「内容が頭に入るから」(藤森さん)だそうです。

イベント後に藤森さんに「ひまわり8号」になって天気予報の伝え方が変わったかを聞いた。「テレビでは24時間の雲の流れを動画で見せることが多いが、動きがなめらかになって、解説がしやすくなりました。また日本付近で急に発達する積乱雲やゲリラ豪雨の実況監視が従来と全然違います。今まではレーダーを見て実況監視をしていました。今はレーダーと合わせてひまわり8号の画像を見て、『ここにこの雲があるからゲリラ豪雨が起こったんですね』とか『ここで積乱雲が発生しているから、これから大雨が降るかもしれません』と伝えられます。」

藤森さんが仕事をする日テレ気象センターにはひまわり8号の観測データが送られてくるが、データは10分に1回更新される。「たとえば9時に放送する天気予報だったら、直前に送られてきたデータまで見ます。最新のデータを使って、ほぼリアルタイムで解説できるようになりました」。

確かに、この原稿を書いている8月21日朝10時半、関東地方には台風9号が接近中だが、気象庁の気象衛星(高頻度)ウェブサイト(欄外参照)では、約5分前の日本付近の台風の様子が見られる。さらに2分半ごとにデータが更新されていて、刻々と変わる台風の状況を一般の私たちも把握できる。「ひまわり8号」の観測頻度の高さ、そして情報更新頻度の高さは、ほんとに驚異的だ。

気象予報士、藤森さんは外で雷にあったときの姿勢についても教えてくれた。雷が鳴り、近くに建物がなかったら「木から約4m離れ、足をそろえてしゃがみ、目を閉じて耳をふさぐこと」。覚えておこう!

銀座の中の宇宙 面白イベントは続く

METoA Ginzaでは9月末まで「Space in Ginza — 銀座の中の宇宙」を展開中。参加型の宇宙の展示・映像や、宇宙をイメージしたスイーツ(一階カフェ)が楽しめる。8月末には国際宇宙ステーション滞在中の大西卓哉JAXA宇宙飛行士との中継イベント、9月には宇宙食や宇宙での美容と健康をテーマとしたJAXAトークイベントも開催されるので是非!

三菱電機イベントスクエア「METoA Ginza」で開催中の「Space in Ginza — 銀座の中の宇宙」。アーティストたちが宇宙を題材に制作した魅力的な作品が展示されている。9月下旬まで。