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読む宇宙旅行

ライター 林 公代 Kimiyo Hayashiライター 林 公代 Kimiyo Hayashi

「世界最低性能」で安く、お手軽に宇宙へ。
民間初のロケット「MOMO」7月末リフトオフ!

7月末、日本の宇宙開発の新たなページが開かれる。民間初のロケット「MOMO」が打ち上げられるのだ。しかも北海道から!

観測ロケットMOMOのイメージ図。全長10m、直径50cm。1号機は宇宙空間への到達実証と通信実証などを行う。(提供:インターステラテクノロジズ)
MOMO発射台(イメージ図)。打ち上げは北海道大樹町から。(提供:インターステラテクノロジズ)

超小型衛星は大学や高校でも作る時代になった一方で、ロケットは技術的にかなりハードルが高い。世界を見ても衛星打ち上げ国は多いが、ロケットを打ち上げている国は約10か国と格段に少ない。

その高いハードルに挑むのがインターステラテクノロジズ(IST)。ホリエモンこと堀江貴文さんが出資する社員14名の宇宙ベンチャーで、社長は稲川貴大さん(30歳)。稲川社長は大学時代は鳥人間に没頭し(鳥人間界では「いな様」で知られる)、2013年3月末、卒業直前に北海道にロケット打ち上げの手伝いに行ったところ、初対面の堀江さんにロケット開発に誘われる。内定していた会社を入社式当日に辞退し、ISTに入社したのはその数日後だ。さらにISTに入社した翌年には、社長になってしまった。「これだ!」と思ったことに飛びつく速さと実行力は宇宙級なのだ。

MOMOロケットの実物大模型とIST社稲川貴大社長(左)と出資者であり約10年前にロケット開発を始めた堀江貴文さん。

MOMOのコンセプトは「最高性能のフェラーリから、ホンダのスーパーカブへ」。「従来、国の宇宙機関によって開発されてきたロケットは高性能を追求する傾向が強く、結果的に高価格だと(我々は)考えている」と稲川社長は言う。しかし、そもそもロケットは宇宙に物を運ぶ「運び屋」。とにかく安く、手軽に宇宙に物を届けたいユーザーにとって高級車で荷物を運ぶ必要はなく、バイク便でいい。だから、MOMOはあえて「世界最低性能」をうたう。荷物を運ぶという要求を満たす最低限の性能があればいいという、合理的な考えだ。「国の観測ロケットの正確な数字は公表されていないが、(打ち上げ費)2億~7億と言われる。我々は5000万円以下を目指す」(稲川社長)。つまり、一桁安い打ち上げ費を実現しようとしている。

同社は北海道大樹町が本拠地だが、東京にも地下工場がある。昨年訪ねたところ、油のにおいがぷーんと漂う現場で若き工場長が黙々と物づくりに励んでいた。材料はホームセンターやネットで調達、つまり「汎用品」を使いほぼ自分たちで作る。「職人技は必要ない、誰でもできる技術に落とさないと量産できない」という稲川社長の言葉が印象的だった。

発射ボタンは「ウルトラハット」で。一般客の見学席あり!

注目の打ち上げは、2017年7月29日(土)10時20分から17時(予備日は7月30日)。場所は北海道広尾郡大樹町。打ち上げ後、120秒間で高度40kmに到達、エンジンを切り、慣性飛行で高度100kmへ。放物線飛行(無重力状態)後に着水。約7分間の飛行で無重力状態は約4分。水平距離にして約50km彼方へ着水する予定だが、今回は回収は行わない(2号機からは回収予定)。

7月6日に行われた記者会見で堀江貴文さんは「ロケットを始めて10年以上。うまくいかない部分もあって延期に次ぐ延期でやきもきしたが、技術的な問題はほぼクリアし宇宙に到達できる目途がたった。しかしロケット開発は事故や失敗がつきもの。これがベンチャー企業でいう『デスバレー(死の谷)』。越えなければいけない場所。たとえうまくいかなくても、あきらめない」と語った。今が「死の谷」を超える正念場だ。

私が注目しているのは「発射ボタン」。実は、このMOMO打ち上げに、より多くの人に参加してもらおうとIST社は昨年、クラウドファンディングを募った。2か月間で733人から2270万円を調達(私も出資した一人)。発射ボタンを押す権利を1000万円で購入した人がいて、話題になった。

その方は芹澤豊宏さん。建築・不動産の会社ニーズ・コーポレーションの社長で「広告宣伝費」として(つまり経費で)、社長判断で「ぽちった」という。会見後に芹澤社長に話を伺うと、「実は特注の発射ボタンをIST社にリクエストしているんですよ。」と教えてくれた。それは懐かしのTV番組「アメリカ横断ウルトラクイズ」の帽子「ウルトラハット」つきボタン。解答ボタンを押すと帽子の「?」マークがぴょこーんと立ち上がる、あのボタンだ!稲川社長に確認したところ「現在、製作中」とのこと。しかもこのボタン、ちゃんとカウントダウン「ゼロ」までに押さないと、発射シーケンスが止まってしまうという重要ボタンだとか。注目したい。

そして、日本初の民間企業単独による宇宙ロケット打ち上げ、という記念すべき瞬間を多くの人と共有しようと、IST社は見学用の特設会場を用意している。その名も「SKY HILLS」。ロケットの射点が眺められる唯一の公式スポットであり、ロケット開発に関わったメンバーがMOMO開発秘話を話してくれる。また地場食材を使った飲食店の出店などもあるそうで、カウントダウンに向けて全国から集まったファンで盛り上がりそうだ。SKY HILLSでの見学申し込みは7月26日まで。私も現地取材をする予定だが、宿をとるのが大変だった。気になる人はぜひ、早めに確保を。

1000万円で「発射ボタンを押す権利」を購入した芹澤豊宏さん(右端)。

堀江氏も「ロケット打ち上げはド迫力で見えるはず。理屈でない高揚感を得られる。ぜひ見に来てください!」と歴史的打ち上げの見学を呼びかけている。

目指すは「超小型衛星」打ち上げロケット

さて、MOMO打ち上げは始まりにすぎない。本命はその先だ。MOMOは高度100km以上の宇宙にタッチして帰る、放物線飛行。つまり、地球を回る周回軌道には乗らない。次に狙うのは、超小型衛星をたとえば高度約500kmの宇宙に運ぶ軌道周回用ロケットだ。

現在、世界中で超小型衛星の開発が進んでいるが、ロケットが圧倒的に足りない。というより、超小型衛星打ち上げ専用のロケットがないのだ。大型ロケットに相乗りさせてもらうか、一度に多数の超小型衛星を打ち上げる海外のロケットに頼るしかない。これでは、打ち上げの時期も選べず、目的の軌道に運んでもらうこともままならない。そこで現在、超小型衛星専用のロケット商用化を目指し、世界の複数のロケットベンチャーが開発競争を激化している。IST社は2016年に超小型衛星打ち上げ用ロケットの基礎開発をスタート、2020年には商業打ち上げをしたいと目標を掲げる。100kgの衛星を数億円で打ち上げる計画だ。

そのために、まずは観測ロケットMOMOを事業化させることが第一ステップ。今回の打ち上げでは無線実験が含まれるが、電波を使用するに当たって現在は「実験用」周波数を割り当てられている状況だ。成功を重ねることで、総務省から「商用」周波数が割り当てられる予定であり、その後、晴れて科学実験や高層大気の観測、イベント、エンタテイメントなど多様なビジネスでMOMOを使ってもらえるようになる。

そして観測ロケットMOMOのビジネスを軌道にのせた後、資金調達を経て超小型衛星用ロケット開発・打ち上げにまい進するという考えだ。堀江氏はさらに「小惑星を狙っていきたい。小惑星の資源を集め太陽系から外にでるような探査機のシステムを作りたい。また大型化を進め人を宇宙に運びたい。とにかく地上から人や物資をなるべく安く、みんながバンバン使える価格帯で送り出すロケットシステムを作ることがミッション」と壮大な夢を語る。

北海道から宇宙を目指せ

このプロジェクトは、北海道からの打ち上げという点でも新しい。だが、北海道大樹町では「北海道にロケットの発射場を設けたい」という活動を32年前から始めているという(稲川社長が生まれる前から!)。確かに私も約30年前に大樹町を訪れた際、「北海道スペースポート」という言葉を耳にした。NPO法人HASTIC(北海道宇宙科学技術創成センター)の特任理事で北海道大学教授の伊藤献一さんに話を伺ったところ、海外の商用宇宙機を大樹町から飛ばすことも見据えているという。2016年11月に成立した宇宙活動法もMOMO打ち上げや北海道スペースポートの追い風になった。

2013年8月の「すずかけ」打ち上げ。高度6535mに達し、海上で機体回収。2011年から7機の打ち上げ実験を行っている。(提供:インターステラテクノロジズ)
姿勢制御飛行実験も頻繁に行ってきた。画像は「LEAP2」(提供:インターステラテクノロジズ)
メンバー集合写真。楽しそう!(提供:インターステラテクノロジズ)

実はMOMOの打ち上げは昨年に予定されていた。しかし、エンジンの異常燃焼が起こり、原因を特定し不具合対策を進めたために打ち上げが遅れた。小規模な試験も合わせるとロケットエンジンの燃焼試験は150回以上重ねている。「ロケットは難しい。机上で計算では合っていても実際に作り試験すると不具合が出る。これから部品をくみ上げて統合試験を行うため、どんな不具合が起きるか読めない。物づくりメーカーとして気を抜かず、丁寧な仕事をしていきたい」と稲川社長は気を引き締める。

30歳の社長が率いる小さな会社の偉大なる第一歩。経済産業省製造産業局宇宙産業室長の靏田将範氏は「(宇宙に近づく手段が不足している現状で、MOMOが)成功すれば、宇宙産業のランドスケープを一変させるだろう」と大きな期待を語った。最初はすんなり成功しないかもしれない。その挑戦を応援し続けたい。

  • 本文中における会社名、商標名は、各社の商標または登録商標です。