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ライター 林 公代 Kimiyo Hayashiライター 林 公代 Kimiyo Hayashi

電波天文学の「聖地」NOBEYAMA—世界最大級アンテナのてっぺんへ!

八ヶ岳のふもと、標高1350mの野辺山高原に、ミリ波の観測で世界最大を誇る電波望遠鏡があるのをご存じだろうか。国立天文台野辺山宇宙電波観測所の45m電波望遠鏡(以下、45m望遠鏡)だ。パラボラの口径45m、重さ700トン、高さは最大50mを超える。この巨大望遠鏡が観測を本格開始したのは、1982年。それまで口径6mの電波望遠鏡しかもっていなかった日本が、いきなりミリ波の観測で「世界最大」の電波望遠鏡を作ったことに、世界中が驚いたという。それから36年。今も45m望遠鏡は現役であり、ブラックホールの発見など世界第一線の科学成果を上げ続けている。

このコラムでは昨年末から、南米チリのアルマ望遠鏡取材レポートをお届けした。アルマ取材で「日本の電波天文学は野辺山で培われた」という声をたびたび聞いた。どうやら野辺山は日本の電波天文学の聖地のようだ。これは行かねばならない!というわけで4月某日、DSPACE取材班は「日本の電波天文学の聖地」巡礼の旅に出た。

八ヶ岳連峰と45ⅿ望遠鏡。(提供:国立天文台)

45m望遠鏡のてっぺんへ

国立天文台野辺山宇宙電波観測所の45ⅿ電波望遠鏡。三菱電機株式会社が製造を担当。
真下から見上げる。訪問時はメンテナンス中でパラボラは上を向いていた。

電波望遠鏡の聖地は、信州野辺山高原・矢出川公園の隣にあった。受付から入るとすぐ、「携帯電話の電源を切って下さい」という看板が。スマホの電波が観測の邪魔をしてはならぬ!と慌てて電源を切る。そして45m望遠鏡の足元へ。第一印象は「でかい!」、そして「きれい!」。白く輝く姿は、とても36年間も観測を続けてきたとは思えないほどピカピカだ。野辺山宇宙電波観測所の立松健一所長によると「45m望遠鏡ができたことで、世界的な研究が初めてできるようになりました。だが36歳は人間でいえば中年。現役で最先端の研究を続けるためには技術的な戦いが必要です。そこで2015年に改修を行いました」とのこと。

45m望遠鏡が観測するミリ波は、水蒸気に吸収されてしまう。西にそびえる八ヶ岳が季節風の湿りを受け止め、乾いた空気を送り込む野辺山が観測に最適であることから、日本中の候補地からここ野辺山に大望遠鏡は建設された。しかし夏の紫外線、秋の台風、冬の寒気(-25度以下になることも!)など厳しい自然に長年晒され、望遠鏡は錆びや、水垢など汚れがたまってしまった(主鏡面には苔も生えたとか)。2015年の改修(=「若返り作戦」)では様々な改修が行われたが、その一つが架台の再塗装だったのだ。

訪問した木曜日は、望遠鏡のメンテナンスが行われている日だった。望遠鏡のてっぺん付近でヘルメットをかぶり作業している方々が見える。技師で望遠鏡チームのリーダーである半田一幸さんの案内で、私たちも登らせていただくことに。ヘルメットをかぶり、いざ出発!ずんずんと階段を上がって行く。

パラボラアンテナまでは4階建てになっていて、写真右下にある階段から上ることができる。
ヘルメットをかぶり階段を上る。下を見ると怖い・・・。
階段の途中からの景色。信州大学農学部の農場の中に、小さなアンテナたち(電波ヘリオグラフ)が。

はぁはぁと階段を上っていくにつれ、野辺山宇宙電波観測所の全体が見えてくる。この観測所には45m望遠鏡だけでなく、84台のアンテナをつないで太陽の画像を撮る「電波ヘリオグラフ」や、60年以上にわたり太陽を観測する「太陽電波強度偏波計」など様々な望遠鏡がある。お行儀よく並ぶアンテナたちが可愛い。そして高原をふく風の気持ちいいこと!

ついにパラボラの真下に!パラボラ面に出るには写真左側の細い通路を上がります。

高く上がるにつれて、足元が見えて怖くなる・・高所恐怖症のため、リタイヤする人約一名。上の写真はリタイヤした人が撮ってくれました。パラボラアンテナのすぐ下に、ぎゅうぎゅう詰めに立つ取材班!

ここから、更にパラボラアンテナの上に行くには、人一人が通るのがやっとの細い通路を登らなければならない。上っていくカメラマンを下から見上げるとこんな感じ・・・。

主鏡表面。メンテナンスの方たちがこの上で作業をしていたそう。

そして望遠鏡のてっぺんへ!撮影したカメラマンによると、パラボラ面は輝いて別世界のようだったそうです(だけど、通路が狭くて写真撮るのが大変だったとか)

45mアンテナは畳大のパネルを600枚も敷き詰めてあるという。つまり600畳!しかも巨大でありながら、鏡面精度はおよそ100マイクロメートル。髪の毛1本ぐらいのゆがみしか許されない。2015年に行われた改修で、パラボラ面の微小な凸凹面を検出、調整し、鏡面精度を倍近くあげたそうだ。

パラボラアンテナは大きくなればなるほどたくさんの電波を集められる一方、自分の重さでたわみやすく、風の影響も受けやすくなる。そこで主鏡(パラボラ)がたとえゆがんでも、ゆがんだ結果が別のパラボラの形になる(ホモロガス変形)構造設計を採用した。観測中に変形するパラボラの焦点位置に対応して副鏡を自動的に動かし、電波を効率的に集めているのだ。ミリ波の望遠鏡でこの方法を採用したのは野辺山45m望遠鏡が世界で初めてだ。また、熱対策としてアンテナの中に大きな換気扇があり、空気を循環させることで熱変形を抑制するという。アルマ望遠鏡でも使われている技術は、この45ⅿ望遠鏡が元祖だった。当時の最先端技術がぎっしり詰まっているのである。

これらの高い技術や地域社会・産業への発展への貢献が「歴史的業績」と評価され、2017年に45m望遠鏡は電気電子通信における国際的な学会の「IEEEマイルストーン」に認定された。アポロ月宇宙船も認定された世界的な名誉ある賞だ。

贈呈された「IEEEマイルストーン」銘板。「45m望遠鏡の革新的な技術が電波天文学の進歩に大きな貢献をした」と記されている。

45m望遠鏡の内部へ

技術が詰まっているのは、望遠鏡の外側だけではないという。今度は望遠鏡内部へ。下部機器室1階には、望遠鏡の主鏡や副鏡などを制御する装置が並んでいた。

お隣の受信機室には目玉である最新受信機「FOREST(フォレスト)」があった。立松所長の説明によると「望遠鏡はなかなか買い換えることができないが、受信機はどんどん新しいものを入れて感度を高めることができる」。FORESTを開発、稼働したことで高解像度の広域観測が短時間で可能になった(今まで2~3か月かかっていた観測が一週間程度に)。そして画期的な観測成果があげられているのだ(詳しくは次回)

案内して下さった半田一幸技師。野辺山の観測所で仕事をして35年目のベテラン。制御装置の前で。
2015年から本格的稼働が始まった、新型受信機FOREST。写真左側のビーム伝送系から導かれてきた電波が受信機へ。4素子での観測が可能となり(従来は1素子)、観測時間を大幅に短縮。
電波望遠鏡のしくみ。宇宙からやってきた光を主反射鏡でキャッチ、副反射鏡に集めて、ビーム伝送系で受信機に電波を導く。(提供:国立天文台)

受信機室の横にちょっとユニークな部屋があった。「ケーブル巻取り室」。中にはケーブル巻取り機構によって、ケーブルが美しく束ねられている。電波望遠鏡は様々なメカの塊。ものすごい数のケーブルがある。アンテナがどんな方向に回転しても、ケーブルが切れたりこんがらがったりしないように、1本ずつ白いリングにつりさげられているのだ。細部に工夫が凝らされているんですね。

隅々まで工夫が凝らされ、進化を続ける45m望遠鏡を使って、どんな科学成果があげられているのか、次回じっくり紹介します!

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