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ライター 林 公代 Kimiyo Hayashiライター 林 公代 Kimiyo Hayashi

民間有人宇宙船クルードラゴン成功!—デザインで比べる進化と新宇宙時代

5月30日午後3時22分(現地時間)、クルードラゴン打ち上げ成功!1回目の打ち上げは発射直前に天候条件で延期になったが、2回目は青空の中を突き抜けた。(提供:SpaceX)

本当に打ち上がった!あっけないほどスムーズに。5月31日午前4時22分(日本時間)、二人のベテランパイロット、ダグ・ハーリー飛行士とボブ・ベンケン飛行士を乗せたクルードラゴンは米国フロリダ州NASAケネディ宇宙センター39A発射台から打ち上げられた。84回目となるファルコン9ロケットの燃焼は正常で、クルードラゴンを予定軌道に投入。打ち上げは成功した。

39A発射台と言えば、アポロ宇宙船やスペースシャトルが打ち上げられた由緒ある発射台。人類の宇宙開発の歴史は、この発射台から作られたといっても過言ではない。そしてこの打ち上げもまた、歴史に刻まれる打ち上げとなった。二つの意味で。

一つはNASA長官が耳タコになるほど繰り返した「アメリカの宇宙飛行士を、アメリカの宇宙船で、アメリカから打ち上げた」こと。2011年のスペースシャトル退役後9年間、アメリカは独自の宇宙船をもたず、ISS(国際宇宙ステーション)への宇宙への足をロシアのソユーズ宇宙船に頼らざるを得なかった。自分の足をようやく手に入れることができたのだ。しかもソユーズ宇宙船は3人乗りだったが、クルードラゴンは7人乗り(ISSへの宇宙飛行士輸送は4人)。宇宙へ飛び出す人が倍増することが期待できる。

ISSへ接近するクルードラゴン。打ち上げ後に「エンデバー」と命名された。ドッキングは自動で。(提供:NASA/SpacX)

それと関連するもう一つの意味が、「新しい宇宙時代の幕開け」だ。民間の有人宇宙船がISSドッキングに成功したのは初めて。クルードラゴンはスペースシャトルのようにNASAが所有する宇宙船ではない。2010年にNASAが設立した「コマーシャルクループログラム」のもとに開発された有人宇宙船だ。2014年、最終コンペでNASAはスペースXとボーイングに委託することを決定。NASAは安全審査を行うが、宇宙船完成後は輸送サービスを購入し、顧客の一つとなる。両企業はこの宇宙船を宇宙旅行などビジネスに使い、多数の顧客を得ることが可能になり、宇宙の商業化を促進する。アクセス手段が増えれば可能性が広がる。宇宙ホテル建設など地球周回低軌道を利用する、「新宇宙時代」の始まりを意味するのだ。

宇宙業界のレジェンド・ボーイングVS革命児・スペースXの有人宇宙船開発競争はスペースXが勝利を収めた。クルードラゴンを使った宇宙旅行については、3月のコラム(参照:元NASAプロ集団が進める「宇宙旅行」と「商業宇宙ステーション」)で紹介したAxiom spaceが、2021年10月に3人の宇宙旅行を計画している。

発射約19時間後にドッキング。ISS入室後に記念撮影。前列右がダグ・ハーリー飛行士。左がボブ・ベンケン飛行士。(提供:NASA)

クルードラゴンは、多数の関係者の努力(エンデバー)で成し遂げられたこと、二人の宇宙飛行士が最初の宇宙飛行で搭乗した宇宙船がスペースシャトル・エンデバー号であったことから「エンデバー(Endeavour)」と名付けられた。エンデバーがいつ帰還するかはまだ発表されていないが、ISSを離脱後、無事にフロリダ沖に着水するかどうかも見どころだ。安全上の最終確認を経てクルードラゴンの有人テスト飛行(Demo-2)は終了。次から本格的な運用が始まるが、その第1号(Crew-1)に野口聡一宇宙飛行士が搭乗する。

会見では「アメリカの復活」を声高に強調していたNASA長官も、次の飛行では「日本人が搭乗することになる」と国際協力をアピール。さらに、女性のシャノン・ウォーカー飛行士、アフリカ系アメリカ人初のISS長期滞在を務めるビクター・グローバー飛行士など多様なメンバーが飛ぶ。NASAテレビで野口飛行士は「ダイバーシティが強靭さにつながる」とコメントしていた。現在のアメリカや国際社会にとって、非常に重要なミッションになるはずだ。

デザインが示す新宇宙時代

クルードラゴンの初飛行は打ち上げ数時間前からISSにドッキングするまで、長時間にわたりエンドレスで世界中に中継された。誰もが感じたのが、デザインのかっこよさではないだろうか。白い宇宙服、宇宙飛行士を発射台に運ぶテスラのスーパーカー・モデルX、白と黒に統一され、無駄なものが一切ない船内。宇宙飛行士をサポートするスタッフの黒い衣装(SNSでは「NINJAS」と話題に)も含めてトータルにデザインされている。「こんな宇宙服を着て、こんな宇宙船に乗ってみたい!」と誰もが憧れる宇宙を世界に示した。

その一例をスペースシャトルやロシアのソユーズ宇宙船と比較してみよう。例えば宇宙船に乗り込むときの宇宙服。

クルードラゴン船内宇宙服。白と黒で統一。無駄なポケットは一切なし。某有名デザイナーによるデザイン+スペースX社内で開発・製造。ヘルメットは3Dプリンターで製作。手袋はタッチパネル仕様。(提供:NASA)
シャトル最後のミッションSTS-135の宇宙飛行士たち。前列左がクルードラゴンにも搭乗したダグ・ハーリー飛行士。パンプキンスーツと呼ばれ、ポケットがいっぱいでダボッとしている。(提供:NASA)
ロシアのソユーズ宇宙船用宇宙服、ソコルスーツ。着用するとやや前かがみになるのが特徴。発射台へ向かう最後の敬礼儀式は四角くマーキングされた場所で。発射台へは左奥に見えるパープルに塗られたバスで向かう。(提供:NASA)

どの船内宇宙服も個性があって好きなのだが、やはりクルードラゴンの宇宙服はスタイリッシュだ。発射台に向かう車も注目ポイント。スペースXはCEOイーロン・マスクの自動車メーカー・テスラのモデルXのNASAバージョン。乗ってみたい。

発射台に向かう前、家族とバーチャルハグ。新型コロナウイルス感染防止のためだが、一番胸がきゅんとなったシーン。ちなみに両飛行士とも奥様は宇宙飛行士の「宇宙家族」。後ろに見えるテスラのスポーツカーにはNASAのロゴが。(NASAテレビより)
スペースシャトル時代はアストロバンと呼ばれるシルバーのバスで発射台へ。流線型のデザインで当時は最先端だったのかもしれない。(提供:NASA)

そして、圧倒的な違いを見せつけたのが、操縦席だ。

クルードラゴン「エンデバー」操縦席。スイッチも操縦桿もない。操作はタッチパネルで行うが、基本は自動操縦。奥に窓が見える。(提供:SpaceX)
ダグ・ハーリー飛行士(左)が最初の宇宙飛行で搭乗したスペースシャトル・エンデバー号の操縦席。機械的スイッチに囲まれワイヤーが浮かび、紙の書類がクリップで留められている。(提供:NASA)
ソユーズ宇宙船内はさらに旧式のスイッチ。ソユーズは数十年にわたり改良を重ねているため、iPadも活用していると聞くが、基本はこれ。スコット・ケリー飛行士がロシア・星の街で訓練中の一枚。(提供:NASA/Bill Ingalls)

ややマニアックだが、座席の違いも興味深い。

宇宙服を与圧しているところ。宇宙船に気密漏れがあった場合、宇宙服内の空気で呼吸。手袋が少し膨らんでいる。座席は最高品質のカーボンファイバー使用と報じられている。(提供:NASA/SpaceX)
ロシアのソユーズ宇宙船のシートは、一人ずつ石膏で型を取ったライナーを入れているため、打ち上げや着陸時の衝撃に耐えることが可能。お母さんのお腹の中にいる胎児のよう。ちなみにこの3人は現在ISSに滞在中。(提供:NASA/GCTC/Andrey Shelepin)

技術の革新はデザインを進化させ、なんの説明もなくても一般の人たちに「宇宙の新しい時代が来た」と感じさせる。そのあたりも革命児スペースXの戦略なのだろう。

ボーイング社のスターライナーの宇宙服はこれ。無人テスト飛行を再度行ってから有人テスト飛行となるが、ライバルがいるからこそコストダウンやサービス向上が見込まれる。ぜひキャッチアップして、スペースXとは異なる魅力を見せてほしい。

ボーイング社スターライナーの船内宇宙服は青が基調。真ん中がダグ・ハーリー飛行士と共に最後のシャトルミッションに搭乗したクリストファー・ファーガソン氏。現在はボーイング社の社員として宇宙船開発をけん引し、有人テスト飛行に搭乗予定。(提供:NASA)
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