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ライター 林 公代 Kimiyo Hayashiライター 林 公代 Kimiyo Hayashi

「職業宇宙飛行士だけが宇宙に行く時代でない」星出船長語る宇宙旅行時代

8月6日、JAXAヒューストン事務所で記者会見を行った星出彰彦宇宙飛行士。3月に髭を剃ってさっぱりにっこり。(提供:JAXA)

約2か月間の宇宙飛行を終え、民間宇宙船クルードラゴン「エンデバー」が帰ってきた。2020年8月3日午前3時48分(日本時間)、フロリダ州ペンサコーラ沖のメキシコ湾へ着水。帰還したクルードラゴンカプセルには、大気圏を再突入する際に数千度もの熱環境にさらされた痕跡がありありと残る。大気圏再突入時の機体の様子について、搭乗した二人の宇宙飛行士の一人、ボブ・ベンケン飛行士は「機械というより、唸り声をあげる動物のようだった」と表現する。

着水後、見物目的とみられる多数のボートに取り囲まれるクルードラゴン。(提供:NASA/Bill Ingalls)

私はパラシュートがちゃんと開くだろうか、着水後海に沈んだりしないだろうかとハラハラしながら生中継を見ていたが、帰還の様子を極めて冷静に見ていた男がいる。2021年春ごろ、クルードラゴン運用2号機「Crew-2」に搭乗してISS(国際宇宙ステーション)に行くことが決まった星出彰彦宇宙飛行士だ。星出さんが乗るのは、まさしく今回帰ってきたエンデバー号になる予定。(今後の点検や審査で安全性が保証されればの話だが)

エンデバー号には大気圏再突入時に激しい環境をくぐりぬけてきた痕跡が残る。(提供:NASA/Bill Ingalls)
回収船に引き揚げられてからハッチオープンまで時間がかかった。宇宙船の外壁と宇宙飛行士が乗る区画の間の推進剤に含まれる有害物質を飛行士たちが吸い込まないよう、処理する時間を要したとのこと。(提供:NASA/Bill Ingalls)
ハッチが開いた時のクルードラゴン船内。笑顔にはやや疲れもにじむ?左がボブ・ベンケン飛行士、右がダグ・ハーリー飛行士。次回からは4人が搭乗予定で9月下旬に野口飛行士が、2021年春に星出飛行士がここに!(提供:NASA/Bill Ingalls)

「(クルードラゴン『エンデバー』の帰還は)、ヒューストンの自宅でテレビを通して見ていました。着水に全く不安はありませんでした。どちらかと言えば仕事モードで、自分が乗っていたらどんな作業をやるのか、こういう手順でこういうデータが見られるんだよなということを頭におきながら見ていました」

帰ってきた同じ機体(エンデバー)に乗ることが「さらに楽しみになりました」と2020年8月6日に行われた記者会見で、星出飛行士は笑顔で語る。

7月28日にNASAから発表されたリリースによると、2020年9月下旬に予定されているNASAのSpaceX「Crew-1」ミッションの打ち上げ(野口聡一宇宙飛行士が搭乗)を成功させた後、「Crew-2」は2021年春ごろの打ち上げを目指す、とのこと。

民間宇宙船クルードラゴンにアメリカ人以外で初めて野口飛行士が搭乗し、続くフライトに星出飛行士が乗る。2号続けて日本人が活躍する姿を見られるのは嬉しい限り。

「Crew-2」メンバー。左からメーガン・マッカーサーNASA飛行士、シェーン・キンブローNASA飛行士、星出彰彦JAXA飛行士、トマ・ペスケESA飛行士。(提供:NASA)

「Crew-2」のメンバーが星出さんから紹介された。クルードラゴンのコマンダー(船長)はシェーン・キンブロー宇宙飛行士。スペースシャトル、ソユーズ宇宙船に搭乗し3回目の飛行。星出飛行士とはNASA宇宙飛行士養成クラスの同期生であり、気心の知れた仲。

NASAメーガン・マッカーサー飛行士は2009年のハッブル宇宙望遠鏡の修理ミッションで12日間の宇宙飛行を経験。その後スペースシャトルやISSの交信担当(キャプコム)としても活躍。星出飛行士もキャプコムをしばしば担当しており「私にとっては先輩。交信担当の訓練で色々教わった」そう。実はマッカーサー飛行士はクルードラゴン初の有人飛行を行ったボブ・べンケン飛行士の妻でもある(ベンケン飛行士は船内情報など色々なアドバイスをし妻の飛行をサポートしたいと会見で言っていた)。夫婦そろってクルードラゴンに乗るなんて、羨ましいというかカッコよすぎる。

トマ・ペスケ飛行士はフランス人でESA(欧州宇宙機関)に所属する宇宙飛行士だ。2016年11月から196日間のISS長期滞在経験がある。星出飛行士とはフロリダ沖の海底訓練(NEEMO)を共にした仲。つまり、「Crew-2」のメンバーは星出飛行士にとって親しい友人、素晴らしい仲間であり、チームの一員であることを誇りに思うとツイートしている。

民間宇宙旅行客を迎える可能性も—安全に気を付けつつ楽しむ

ISSと地球。左下に見えるのは「きぼう」。こんな風景を誰もが楽しむ時代が開かれようとしている。(提供:NASA)

ところで、星出飛行士はISS到着後、ISSでコマンダー(船長)を務めることが決まっている。クルードラゴンでISSに向かう4人に加えてロシアのソユーズ宇宙船で到着する3人、合計7人の宇宙飛行士の命を預かる立場になる。

さらに注目は、星出船長がISS滞在中に、宇宙旅行客が訪れる可能性があること!野口さんら「Crew-1」ミッションが飛行に成功すれば、スペースXはクルードラゴンで宇宙旅行などの商業飛行をスタートするだろう。すでに2021年秋に3人の民間宇宙旅行客をクルードラゴンで運ぶことを発表している企業もあるし、トム・クルーズがISSで映画のための撮影をすることをNASA長官がツイートしている。(星出さんが宇宙滞在中だったら!と妄想が膨らむ)

この点について、記者会見で星出さんに聞いてみた。「宇宙旅行者がISSに来る可能性はあります。ISSに限らず、私は(一般の人が)どんどん宇宙に行くといいと思います。職業宇宙飛行士だけが宇宙に行く時代ではないし、そうあってはならない。さまざまな分野、バックグラウンド、アイデアをもった方が宇宙に行って色々な文化を作り上げて欲しい。それが本当の意味での宇宙活動を広げていくことだと思うし、そうあるべきです」

と、宇宙が開かれた場所になるべきだと強調。もし、星出さんが船長の間に宇宙旅行客がISSを訪問したら?

「安全に気を付けつつ、宇宙を楽しみいい経験をして、地球に戻って欲しい」(星出さん)。

2012年、2回目の長期滞在中の星出さん。ノー残業で多数の仕事をこなした最大の要因は密なコミュニケーション。(提供:NASA)

星出さんのコマンダーとしてのモットーは「安全に気を付けつつ、楽しもう」だという。これはスペースシャトルでの宇宙飛行(2008年)、ISS長期滞在(2012年)という2度の宇宙経験、そして海底(NEEMO)や洞窟(CAVES)での極限環境訓練でコマンダーを務めた経験から星出さん自身が会得したこと。「危険な中でのミッションは安全にまず気を付ける。でもユーモアをもって人間らしく、楽しむ心を忘れないことが大切」。星出船長に見守られながら宇宙旅行する旅行客は、不安なく思い切り宇宙を満喫できるに違いない。

星出さんによると、クルードラゴンの安全性は2019年の無人飛行から継続して検証がなされているが、野口さんが搭乗する「Crew-1」は初めて4人乗りになる。「(2人が4人になって)どれだけ窮屈か、どこに不都合があるかがわかってくるだろう」という。

今後のクルードラゴン訓練については、緊急時にどうやって作業を進めるのか、宇宙服はどうやって気密が保たれるのか、クルードラゴンのどこに物が収納されるのかなどシステム訓練が始まり、1~2か月後にはクルー4人の協調作業や運用訓練が本格化するだろうとのこと。新型コロナウイルス対策のもと、制約がありながら訓練は続けられている。

「民間宇宙船であるクルードラゴン、スターライナー、NASA月探査計画(ゲートウェイ、アルテミス)など色々な計画が進み、新しい時代の到来を肌で感じている。その中で宇宙飛行士として活動できることは光栄であり、わくわくしている」と星出飛行士。

一時期のトレードマークだった髭を「そろそろ剃りたいな」と3月に剃り、さっぱり若返った星出さん。訓練の過程もぜひ公開し、宇宙に向かう興奮を私たちと共有してほしい。

Bon Voyage!

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