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ライター 林 公代 Kimiyo Hayashiライター 林 公代 Kimiyo Hayashi

「一緒に飛ぼう!みんなのミッション」
—野口飛行士と宇宙へ

11月9日夜(現地時間)、NASAケネディ宇宙センター(KSC)の整備棟を出て発射台に移動するクルードラゴン「レジリエンス」号の前で。右端が野口飛行士。(提供:NASA/Joel Kowsky)

「ぼくたち、Crew-1のミッションパッチには、(ほかのパッチに書かれているような)宇宙飛行士の名前はありません。皆さん自身が自分の名前をいれて、自分のミッションと思えるように」「一緒に飛ぼう!」

いよいよ11月16日(月)9時27分(日本時間)、NASAケネディ宇宙センターから野口聡一飛行士らCrew-1チームがクルードラゴン「レジリエンス」号で飛び立つ。冒頭は、野口飛行士が記者会見で語った言葉。いやぁ、泣けました・・。

KSC整備棟内のレジリエンス号前で。Crew-1の宇宙飛行士たち。(提供:SpaceX CC BY-NC 2.0

クルードラゴン運用初号機Crew-1の4人は発射約1週間前の11月9日(月)朝4時ごろ(日本時間)、ケネディ宇宙センターに到着。直後の会見で、ミッションパッチに宇宙飛行士の名前が書かれていないのは、「Crew-1はみんなのミッションだから」と語ったのだ。

「『みんなのミッション』という言葉は、野口さんのどんな想いから生まれたのだろう」。11月10日に行われたJAXAの記者会見で尋ねると、野口さんはとても丁寧に答えて下さった。

「今年2020年は厳しい一年だったと思います。新型コロナウィルスはもちろんですが、アメリカでは人権に関する動きがありました。日本では災害があったり五輪の延期があったり。それぞれに苦しい思いや割り切れない思いを抱えてきた一年だったと思う。そんな皆さんに新しい息吹、展望を届けたい。私たち宇宙飛行士4人の共通した願いです」。その願いが宇宙船『Resilience(レジリエンス、回復する力という意味)』の名前の由来でもあると語る。

「さらに我々4人だけでなく、NASA、JAXA、国際パートナーの協力がこのミッションに繋がっています。応援して頂いている日本の皆さん、それから打ち上げ応援に(フロリダに)来たいと思いながら色々な理由で来られなかった人が非常に多く、みんなの気持ちも含めて一緒に飛ぼうじゃないかと。そういう想いでミッションに臨みたい」

実は、私も野口さんの3度目の宇宙への旅立ちを取材&レポートしようとNASAに取材申請し、許可を得ていた。だが諸々の事情で断念し悔しい思いを抱えていた。そんな数多の人の想いを全部引き受けて下さっているような、野口さんの言葉(涙)。確かに2020年はたくさんの厳しい事実に直面した年だった。誰もがうまくいかない理不尽さを抱え、苦しんだことだろう。

野口さんたち宇宙飛行士も決して例外ではない。訓練はオンラインになり、隔離期間も長く、思い通りに進まず不安や不自由さを感じてきたに違いない。だが、宇宙への歩みを止めず、忍耐強く着実に努力を積み上げた結果、地球の重力圏を突破していく。

Crew-1のミッションパッチ。クルードラゴンDEMO-2ミッションなど多くのミッションパッチには周りに宇宙飛行士の名前が入っているが、このパッチにはない。自分の名前を書き込もう!(提供:NASA/SpaceX)

「このミッションが日本の皆さんに夢と希望と感動を分かち合えるよう、全集中で頑張りたい」

さりげなく大ヒット漫画・アニメ「鬼滅の刃」の「全集中」という言葉を使うあたりが、野口さんらしい。漫画を読んでいるのですか?と記者から問われると「娘の影響で『鬼滅』は読んでいます。仲間と一緒に力を合わせるところなどすごく面白い。我々4人も専門性を高め、みんなに明るい未来を感じて欲しいという目標に向かって、一致団結して『全集中で』頑張りたい」とにっこり。

間近で見たロケット、宇宙船、宇宙服

KSCにて。正面に見えるのが「レジリエンス」号。新品で綺麗。中央の野口さんが立つあたりが出入り口。両横に窓。(提供:SpaceX CC BY-NC 2.0

ケネディ宇宙センターに到着後、野口飛行士は自分たちが乗るロケットと宇宙船「レジリエンス」号、そして自分が着る宇宙服を見学したという。

「完全に整備が終わって、発射台に向けて整備棟から出てくる(ロールアウトと呼ぶ)のを見るのは感慨深い」と野口さんは語る。夜、真っ暗な発射台で光に照らされたロケットはまばゆいぐらいに白く輝いていたという。スペースXはロケットを再利用することで知られるが、Crew-1クルーが乗るロケットも宇宙船も新品で「塗装がすごく綺麗だった」と会見直後のインスタライブで語っている。

11月9日夜(現地時間)、KSCの39A発射台に運ばれた「レジリエンス」号+ファルコン9ロケット。「まばゆいぐらい白く輝いていた」と野口さん。 (NASA/Joel Kowsky)

野口さんは3度目の宇宙飛行だが、宇宙船のロールアウトを見るのは意外にも初めてだという。「スペースシャトルは発射3週間前に発射台に移動するし、ソユーズ宇宙船では搭乗する宇宙飛行士は自分が乗るロケットのロールアウトを見てはいけないという不思議なゲン担ぎがある」のがその理由だ。

「宇宙飛行士にとって、自分のミッションのために発射基地入りするのは格別な気持ち。あとは打ち上げに向けて最終仕上げに入る。『いよいよこの日が来たな』と。小学生が運動会の前に寝られないのと同じでわくわく感に包まれているし、緊張感もある」。怖さはないかと問われると、「恐れよりも挑戦で得られる成長の方が上回る」と答える野口さん。不安要素やリスクは徹底的に検証し、納得した上で挑戦するその顔は、期待と希望に満ち溢れている。

3つの異なる帰還場所は「人類初」

ところで野口さんは3回の宇宙飛行で3つの異なる宇宙船に乗る。初飛行はスペースシャトル、2回目はロシアのソユーズ宇宙船、そして3回目はアメリカの民間宇宙船クルードラゴン。これはアメリカのジョン・ヤング宇宙飛行士(ジェミニ、アポロ、スペースシャトルに搭乗)以来38年ぶりの快挙。さらに野口さんの場合、帰還の場所が3つの宇宙船で異なる。シャトルは滑走路に、ソユーズ宇宙船は地面(砂漠)に、そしてクルードラゴンは海上に。これは「人類初」らしい。

「日本の有人宇宙飛行においても大きな意味があるだろう」と言いつつ「これからは3種類、4種類と違う宇宙船を経験していく時代になるだろう。僕はたまたま第一号。『切り込み隊長』を仰せつかったので、全集中で臨みたい」。また全集中で笑いをとる野口さん、絶好調です。

異なる国や官・民と異なる組織の宇宙船、宇宙服を体験してきた野口さんの比較の話は非常に興味深い。たとえば記者からの質問が集中したのは、宇宙船や宇宙服の違いについて。

2020年9月、カリフォルニア州ホーソーンにあるスペースX社で。着脱が簡単で軽い宇宙服スターマンを着て。(提供:SpaceX CC BY-NC 2.0

「SpaceXの宇宙船は圧倒的に設計が新しい。我々の世代の宇宙船です。船内のインテリアがモダンかつシックで機能的。操作はワイヤやスイッチ類がなくタッチパネル。シンプルかつエレガントだし、パネルデザインだけでなく運用の考え方や手順書もシンプルです」(野口さん)

宇宙服については「スペースシャトルの船内宇宙服は、チャレンジャー号の事故後、宇宙飛行士を守るためにどうするかを考え後付けで作った。(宇宙船から脱出するための)パラシュート装備があるためすごく重い。一方、ソユーズ宇宙船のソコル宇宙服とクルードラゴンのスターマン宇宙服は、人間の身体を守るために最低限何が必要かに特化している。軽いし着心地がいい。スターマン宇宙服は(ソコル宇宙服より)軽く、着脱が圧倒的に楽。一番着やすく、宇宙に行くのに楽な宇宙服になっている」

野口さんらCrew-1ミッションが成功すれば、クルードラゴンを使った宇宙旅行にGoサインが出る。宇宙旅行者が着ることも考慮して、着脱が楽な宇宙服になっているのだろう。宇宙服については、野口さんのYouTubeでの解説がとても分かりやすく面白い。必見です。(欄外参照)

打ち上げから8時間半後にはISSにドッキング。
搭乗券を用意して飛び立とう

39A発射台に立つファルコン9ロケット。全長約70m。先端の「レジリエンス」号に野口さんらが乗り込む。(提供:SpaceX CC BY-NC 2.0

打ち上げは11月16日(月)朝9時27分(日本時間)に予定されている。NASAテレビでは朝5時半から中継される予定だ。打ち上げ約4時間前はちょうど宇宙服を着る時間帯なので、是非チェックしよう。その際に手元においておきたいのがCrew-1ミッションへの搭乗券(ボーディングパス)。NASAサイトから入手可能だ。(欄外参照)

ぜひボーディングパスをゲットして、ミッションパッチに名前を入れて、自分が乗り込む気持ちで野口さんの打ち上げを見守りましょう。18時20分の予定だ。Go!Crew-1.

NASAウェブサイトから自分の名前を入れてCrew-1のボーディングパスをダウンロードできる。
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