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ライター 林 公代 Kimiyo Hayashiライター 林 公代 Kimiyo Hayashi

新型ロケットH3、初公開!
世界から頼られる「宇宙への足」に

2021年度の打ち上げを目指し開発が進められる日本のロケット・H3。2021年1月23日、プレスへの初お披露目が愛知県にあるMHI(三菱重工)のロケット工場で行われた。「宇宙への足=ロケット」なしに、宇宙活動は実現しない。低コストで、確実に、計画通りのタイミングで打ち上げてくれる「頼れるロケット」、それがH3だ。さっそく、どんなロケットか見ていこう。

山手線の車両二つ分の巨大な機体が横たわる

1月23日にプレス公開されたH3ロケット試験機。1段のLE-9エンジン側から見たところ。右にはH-IIAロケットが。

名古屋駅に集合後、バスで約1時間、南へ。三菱重工名古屋航空宇宙システム製作所 飛島工場に到着。ヘルメットをかぶりエアシャワーを浴びて工場内に入ると、巨大なロケットが横たわっていた。公開されたのは、試験機1号機の1段と2段。1段は直径5.2m×長さ37m。山手線の車両約二つ分。2段は直径5.2m×全長12m。二つ合わせて49m。ざっくり50mほどの長さのロケットが横たわっているのは壮観な眺めだ。

H3ロケット試験機1号機のうち、今回公開されたのは1段と2段。衛星を覆うフェアリングや両脇の固体ロケットブースタはそれぞれ別の企業で製造され発射場に出荷される。(提供:JAXA)
段間部と2段。内部に2段のエンジンが見える。女性は身長約160cm。2段が太くなったのがH3ロケットの見た目の特徴の一つ。

JAXA・H3プロジェクトマネージャ、岡田匡史さんにH-IIA/H-IIBロケットとの見た目の違いを聞いた。「まずは、2段が大きくなったこと。直径が5.2mあります」。これまで日本最大のロケットは、貨物船「こうのとり」を打ち上げたH-IIBロケットだった。H-IIBの1段は直径5.2mとH3と同じだが2段は直径4m。「そのくびれがグラマラス」というロケット野郎の声をよく聞いたものだが、H3にくびれはない。直径5.2mのずん胴君なロケットだ。

「1段のLE-9エンジンは3基つけることもできます」と語るH3プロジェクトマネージャ、岡田匡史さん。

岡田プロマネが見た目のもう一つの特徴に上げたのがエンジン。H3ロケット試験機1号機は1段に2基のエンジンが搭載される。「H-IIBも2基搭載していましたが、H3は3基エンジンを搭載できます。搭載する場所がないように見えるかもしれないが、エンジンの配置を変えられるんです」と。上の写真で上部に位置するエンジンをはずして正三角形にエンジンを配置することができるそう。

H3ロケットは搭載する衛星によって、様々なバリエーションがあり、1段にエンジンを3基搭載する際は、両横に固体ロケットブースタがつかない。「日本では見たことのない、すっとした形になって飛んでいきます」(岡田プロマネ)。ロケットというと、両横に推力の大きな固体ロケットブースタがあって、バリバリと空気を震わせる固体ロケット特有の音が魅力でもあったけれど、液体燃料を使った主エンジン3基だと、どんな音がしてどんな打ち上げ風景になるのだろうか。

H3ロケットのラインナップ。1段エンジン3基搭載タイプは左端。太陽同期軌道(高度500km)に4トン以上を打ち上げ。固体ロケットブースタ(SRB-3)の数、フェアリングの長さが異なるタイプがあり、右端のタイプは静止トランファ軌道に6.5トン以上の打ち上げを目指す。(提供:JAXA)

ちなみにエンジン(LE-9)は試験中に起こったトラブルを受け開発中だ。写真のエンジンは実験用エンジンであり、今後開発が修了したエンジンに付け替えられることになる。岡田プロマネによると「見た目はそれほど変わりません。これも200秒以上燃焼試験を行ったちゃんとしたエンジンです(笑)。打ち上げ時に搭載されるエンジンは金属のごつい配管がもうちょっとすっとした感じになるでしょう」とのこと。

自動車製造にも使われる「ロボット」がロケット製造に活躍!

今回のロケット公開で、私は見たいものが二つあった。一つは、ロケット製造に新しく導入されたという「ロボット」。そして、機体に描かれる「JAPAN」という文字だ。

H3ロケットの目的は、日本の主力基幹ロケットとして「自立性を確保すること(つまり、政府の衛星を打ち上げること)」、同時に「国際競争力のあるロケット」として世界の市場に打って出ること。そのため、H3ロケットを使って宇宙ビジネスを行うことになる三菱重工がロケット開発をリードした。従来のロケット開発はJAXAが主体だったから、大きなターニングポイントである。

今、世界のロケット市場は激しい競争のさなかにある。スペースXはロケット市場に価格破壊をもたらし、低コスト化を進めた。どんなに高性能なロケットを作ったとしても価格が高ければ使ってもらえない。そこでH3ロケットは「低コスト」で「信頼性」があり「変化に柔軟に対応する」という3つのコンセプトを実現することが求められたのだ。

低コスト化については設計・製造・運用の各段階で「からぞうきんを絞るような」あらゆる挑戦が行われた。その一つが製造現場の自動化。ロケットは一品物であり、「職人芸の世界」だとかつて言われた。指先から伝わる微妙な違和感からコンマ数ミリの狂いを探り当てる・・。そのロケット製造現場に初めてロボットが導入された。「ロボットがロケットを作る?」。具体的には鋲を自動で打つロボットやバルブを自動で組み立てるロボットがいるという。どんなロボット?気になるではないか。

低コスト化を目指し、ロボットや3D造形など新しい生産プロセスへの挑戦が行われた。(JAXA記者説明会の資料より。提供:JAXA・MHI)

そこで、ロケット工場に入るや否や鼻息荒く「鋲を打つロボットはありますか?」と尋ねた。MHIのH3ロケット・プロジェクトマネージャ奈良登喜雄(ならときお)さんは「打鋲機は隣のエリアに置いてあります」と静かに仰った。が、打鋲ロボットが仕事をした箇所を説明して下さった。

打鋲ロボットが鋲を打った場所を示して下さったMHIのH3ロケットプロマネ・奈良さん。

写真で奈良プロマネが指さしているのが、ロボットが打った鋲。等間隔できっちり並んでいる。ここは1段と2段のつなぎ目にあたる「段間部」。直径5.2mと大きく、多数の鋲を手作業で打つのは時間がかかる。コストの大半は人件費である。「自動打鋲機を導入して手作業を減らしコストを下げようとしています」(奈良プロマネ)

H-IIA・Bロケットの段幹部にはCFRPが用いられていた。だが直径が大きくなったH3の段間部をCFRPで製造するには新しい設備を導入する必要がありコストがかかる。そこでH-IIロケットで用いていたアルミ構造にし、ロボットを導入。やや重くなるがコストを重視。(JAXAの記者説明会資料より。提供:JAXA)

自動打鋲ロボットは、他の分野で用いられてきたという。「弊社では航空機のパネル等で使われてきました。ただし色々なタイプがあるので、構造に合わせてロケット用にする必要がありました」。実際に使ってみてどうですか?「最初から放っておいてもうまくいく、というわけにはいかず、やってみて直したりと調整に苦労しました。習熟してくればコストは下がっていくと思います」(奈良プロマネ)。JAXA岡田プロマネは「MHIさんが本当に頑張って(打鋲ロボットを)導入された。今はまだ試作段階だが、条件出しができたので今後はボタン一つでだーっと鋲を打てる日が来ると思っている」と期待する。

もう一つの目的は、ロケットに描かれた「JAPAN」の文字を見ること。H-IIA・Bロケットまでは機体に「NIPPON」と描かれていた。H3は世界に打って出ることを目的にする。その意気込みが「JAPAN」なのだ。その文字を間近に見たい・・が見当たらない。聞けば「今日は真上を向いています」。ということで、MHIさんから提供して頂いた写真をどうぞ。

H3ロケットは「JAPAN」の文字も特徴の一つ。右のH-IIAロケットと比べるとその大きさの違いがよくわかる。(提供:MHI)

低コスト+信頼性を両立するために

H3試験機1号機フライトシーケンスCG。(提供:JAXA)

H3ロケットの開発が始まったのは2014年4月。H-IIAロケットは約98%と世界トップレベルの高い成功率を誇るものの、人工衛星の大型化や小型衛星の大量打ち上げ、国際的な価格競争、設備の老朽化など様々な課題が見えてきたことが新型ロケット開発の背景にある。

H3ロケットはH-IIAロケットとどう変わるのか。例えば「ロケットに衛星を載せたい」と注文を受けてから打ち上げまで2年かかっていた時間を1年に。打ち上げ間隔が2か月だった期間を1か月に。ロケット本体価格はH-IIAの約半額の50憶円を目指している。

低コストについては「今の市場はスペースXがコストをかなり下げ、厳しい状況にある」とMHI奈良プロマネは語り、コストを更に削減する努力は継続するものの、コスト以外の面で売り込むという。それは「信頼性」だ。具体的には98%という高い打ち上げ成功率と、時間通りに打ち上げる「オンタイム打ち上げ」。

信頼性と低コストを実現するため、設計・製造・運用であらゆるチャレンジが進行中だ。設計段階ではロケットの電子部品の90%に車載用電子部品を採用した。また、開発中のLE-9エンジンはこれまでH-II、H-IIA、H-IIBロケットの2段で使われてきた信頼性が高い「日本のお家芸」(岡田プロマネ)エンジンを採用。仕組みがシンプルであることから部品点数が(H-IIAのエンジンに比べて)2割削減でき、低コスト化が可能。また異常燃焼しにくいことから有人ロケットにも適していると言われる(期待!)。ジャンボジェットエンジン5機分に相当する大推力を出すために格闘中である。

射場作業も革新した。点検作業は自動化を行い、従来は1日かかっていたバブル点検を15分に、発射管制作業を行う人員はこれまでの100~150人から約30人へ。画期的なのは発射直前の作業。従来は発射台に近い、地下の「ブロックハウス」に長時間こもってカウントダウン作業を行っていた。だがブロックハウスを撤廃、射点から約3km離れた管制棟を新たに設置。遠隔で機能点検やカウントダウン作業を実施することになったのだ。

開発の舞台は種子島へ 修羅場が待っている

いよいよ舞台は種子島へ。抱負を語る二人のプロマネ。

今後、開発の舞台は種子島にうつる。MHIの奈良プロマネは「やっと形になった。節目であり感慨深い。射場では課題が出てくることも覚悟している。一つ一つ解決して完成させ、打ち上げを成功させたい」と決意を語る。

岡田プロマネは「よくぞここまで来たなという感じ。でも送り出して『頑張ってこい』ではなく、種子島で待ち構えるわけで『これからだぞ』という感じ。修羅場もあるでしょう」。

修羅場とは?「過去の経験から、ロケットシステムの統合はすごく難しい。1段・2段、固体ロケットブースタや衛星フェアリングは別々の場所で開発し、まだ縦に組み付けたことがない。移動発射台にまず1段をすえ付つけ、その上に2段をまっすぐつけて、固体ロケットブースタを取りつける。このへんからきわどい話になってきます(笑)。ケーブルがちゃんと外れるかなど、すごく大規模な様々な試験が待っていますし、その後、燃料が上にある状態で燃焼を行う試験もあってドキドキします。それらを通過しないと打ち上げには至らない」

岡田さんは1989年、NASDA(現JAXA)入社。数年後に種子島宇宙センターで当時開発の最終段階だったH-IIロケットの開発や試験機打ち上げに携わる。エンジン燃焼試験中に爆発、エンジン落下という厳しいトラブルも経験している。「(今回は)最初から最後まで携わり、構想が形になる凄さを感じています。いよいよ大きな勝負に出る。成功に向かって頑張っていく」と引き締まった表情を見せた。

世界のライバルもしのぎを削る。スペースXは1月末、143機もの衛星を搭載した初のライドシェアミッションを成功させた。この点についてMHIの奈良プロマネは「衛星の需要動向を見ると、大型の通信衛星というより小型の複数機搭載を望むお客さんが出てきている。H3は打ち上げ能力も上がり、フェアリングも大きい、今後対応を考えお客さんに売り込みに行くことになる」と対応していく考えを語った。

小型衛星コンステレーション需要はH3ロケット開発スタート時は想定していなかった。「急激に宇宙開発は進化している。まずはH3ロケットを完成させ、柔軟に対応していく。H3はMHIが自由に設計変更できる。今後科学技術の進歩があり、3Dプリンタが大きくなれば作れる部品も出てくるだろう。ミッションには柔軟に対応できると思う」(岡田プロマネ)

進化・深化する宇宙開発や地上のテクノロジーにどこまで対応できるのか。まずはH3ロケットを完成させ、計画通り飛び立たせることが目標だ。この1月末にはロケットを縦にくみ上げた状態にもっていき、3月末までには最初の大掛かりな試験(極低温試験)を行うことになっている。新型ロケットの開発を目の当たりにできるのは数十年に一度。エンジニアの正念場に注目していきたい。Go, H3!

不要なものをそぎ落としたシンプルさがH3の特徴。(提供:JAXA)
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