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星空の散歩道

国立天文台 副台長 渡部潤一 Junichi Watanabe国立天文台 副台長 渡部潤一 Junichi Watanabe

 Vol.117

地球のような惑星が7つも発見!

すでに報道でご存じの方も多いことだと思うが、天文学者も驚くような惑星系が発見された。太陽から40光年ほどの距離、トラピスト1と命名された恒星のまわりに、惑星が7つも発見され、そのどれもが地球型だった。しかも、そのうちの少なくとも3つは恒星からの距離が適切で、表面に液体の水が存在できる「ハビタブル・ゾーン」にあった。もしかすると、それらの惑星は地球のように暖かく、海があって、生命が発生・進化しているのではと期待されているのだ。

トラピストというのは南米チリにある系外惑星の観測に用いられる口径60cmの天体望遠鏡の名前で、ベルギーとスイスの天文学者が運用している(ちなみに、トラピストというのは有名なベルギービールの名前でもある)。この望遠鏡は、狙った恒星をじっと連続的に観測している。その恒星が惑星を持っていて、なおかつ惑星が地球から見て恒星との間を横切るような位置関係にあるときには、恒星の一部が惑星によって周期的に隠されるために、恒星の明るさがわずかに暗くなる。その暗くなり具合から惑星の面積、すなわち大きさがわかる。また、暗くなる周期から、その惑星が恒星の周りをまわる公転周期がわかる。このような方法で、トラピスト1を他の天体望遠鏡も含めて観測し続けたところ、7つもの惑星の存在がわかったのである。

データ解析からわかった7つの惑星の直径は、地球の0.75倍から1.13倍、密度も地球の0.6倍から1.17倍と、すべてが地球似だったのだ。太陽系には惑星は8つもあるし、他にも複数の惑星を持つ系外惑星系の例も数多く見つかっており、ひとつの恒星のまわりに惑星が7つという数そのものは驚きではない。しかしながら、そのどれもが地球と似ているというのは、まったく初めてである。

今回の発見の驚きは、それだけではない。7つの惑星が恒星を巡る公転周期は1.5日から12.4日ほどで、きわめて恒星に近く、すべてが太陽系で言えば水星よりも内側に密集している。お互いの軌道の距離が近いために、惑星同士の重力が強く作用するようになって、7つの惑星の周期比が整数比となっている。こういう状態を平均運動共鳴状態と呼び、太陽系では木星のガリレオ衛星が同様の状況になっている。こういう状況だと、それぞれの惑星の自転周期は公転周期と一致していると考えられる。つまり、常に夜である夜半球と常に恒星の光が当たっている昼半球とが存在しているはずだ。

トラピスト1の7つの惑星の想像図。どれも地球と似たような惑星で、e、f、gのあたりが地球と温度環境も似ていると考えられる。(提供:NASA-JPL/Caltech)

さらに、こんなに恒星に近いと暑いのではないか、と思われるかもしれないが、実はそんなことはない。中心のトラピスト1は太陽の10分の1ほどの小さな恒星なので、表面温度は摂氏2300度しかない。太陽の約6000度に比べると、ずっと低いため、7つの惑星のうち、惑星e、f、gが公転しているあたりが、いわゆるハビタブル・ゾーンに相当する。これらの惑星に大気があれば、どれかの惑星に海が存在するのは確実と思われる。昼半球が暖かく、海があり、夜半球が冷たく氷に閉ざされているような、アイボール・アースとなっている可能性が強い(参照:Vol.111/「ケンタウルス座プロキシマ星に惑星発見?」)そうなると、どれかの惑星に生命がいるのではないかと想像が膨らむ。もしかすると、複数の惑星に生命が発生し、それぞれ独自に進化を遂げている可能性も否定できないだろう。惑星ごとに違った宇宙人にまで進化しているとすれば、どうなっているだろう。同じ惑星系で異なる宇宙人の文明が存在する可能性も捨てきれない。実際の宇宙は、我々の想像を遙かに超えている、ということを見せつけてくれた発見と言えるだろう。