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星空の散歩道

国立天文台 副台長 渡部潤一 Junichi Watanabe国立天文台 副台長 渡部潤一 Junichi Watanabe

 Vol.129

すばる望遠鏡、暗黒物質の分布に迫る

すばる望遠鏡に再び世界の注目が集まっている。

すばる望遠鏡は、口径8-10mクラスの大型望遠鏡の中では珍しく、主焦点(主鏡で反射した光が最初に結ぶ筒先の焦点)を生かした設計になっている。主焦点は、他の焦点と異なり、焦点距離が短いため、同じ面積の撮像素子であれば、他よりも広い視野をカバーすることができる。すばる望遠鏡は、そこに広視野主焦点カメラ(Suprime-Cam)を装備し、その成果によって世界の注目を集めてきた歴史がある。なにせ4096×2048画素という大きなCCDを10個並べた、実に8000万画素のカメラで、満月とほぼ同じ大きさの34分角×27分角という広い視野を一度に撮影・観測することができたのだ。様々な成果が生まれてきたが、ハッブル宇宙望遠鏡などのデータと組み合わせ、宇宙の暗黒物質の分布にも迫ってきた。時代が流れ、現在すばる望遠鏡では、さらに次世代の観測装置である超広視野主焦点カメラ(Hyper Suprime-Cam)が稼働をはじめている。このカメラは前世代のカメラに比べてもすごい。なにしろ、独自に開発した116個のCCD素子が敷き詰められ、8億7000万画素を持つまさに巨大なデジタルカメラといえる。カバーできる範囲は、アンドロメダ銀河のほぼ全体を1視野で捉えることができ、満月9個分の広さに相当する。現在稼働中の観測用撮像素子としては、間違いなく深さと広さを掛け合わせると世界一である。2014年頃から試験運用をはじめて、現在は共同利用に供されているが、この装置を用いた初期の成果が2018年2月下旬に発表された。なかでも特筆すべきは、これまでみたことも無いような暗黒物質の三次元分布が明らかにされたことだろう。

背景にある銀河の奥行き情報(赤方偏移)と組み合わせて、弱い重力レンズ効果(銀河の形の歪み)を利用して推定した暗黒物質の3次元分布図の一例。約10億光年×2.5億光年の範囲を80億光年ほどの奥行きについて示している。(提供:東京大学/国立天文台)

暗黒物質は、その正体がまだまったくわからない。しかし、どうも物質に比べて5倍程度はありそうな宇宙の主要成分であり、また重力があるため、銀河や銀河団に集中していると思われている。すばる望遠鏡などで遠方の銀河を撮影すると、手前の重力源となっている暗黒物質などによって弱い重力レンズ効果を受けて、形が歪む。この歪みの形状を丹念に調べると、どのあたりにどの程度の暗黒物質があるのかがわかるのだ。こうして、かつて無い広さで行われたサーベイ観測から、暗黒物質の分布を割り出したのである。

大切なことは、この図で奥行き方向は時間軸、すなわち奥ほど「過去の宇宙」を示していると言うことだ。光の速度は有限なので、遠方の天体(ここでは暗黒物質)ほど過去のものである。すると、宇宙がどのように進化してきたか、暗黒物質がどのように分布を変えてきたか、宇宙がどんなふうに膨張してきたかがわかるのである。ご存じのように、宇宙の初期では物質の分布(暗黒物質も含めて)はほぼ均一だったが、わずかな密度の粗密が次第に成長していき、「宇宙の大規模構造」と呼ばれる網の目状の分布に進化してきたとされている。大規模構造が進化する速度は宇宙膨張と関係がある。例えば宇宙膨張が速ければ物質はなかなか集まれず、大規模構造の進化は遅くなるはずだ。すなわち、大規模構造の進化(=暗黒物質の進化)の観測から逆に宇宙膨張史に迫れるわけである。

こうした手法で、暗黒物質の塊の数を奥行き方向で調べてみると、どうやら単純な加速膨張宇宙モデルでは説明できない可能性が見えてきたというのだ。塊の数の分布が、宇宙背景放射の観測から導き出した標準的な宇宙膨張の予測と合わないらしい。実は、この成果は、まだサーベイ計画全体の16%ほどのデータに基づくものであり、今後、さらに解析が進めばもっとサンプルが増え、詳しい解析結果が発表されるに違いない。いずれにしろ、すばる望遠鏡がこの分野でも世界をリードしている。今後、どんな成果が生み出されるか、楽しみである。