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星空の散歩道

国立天文台 副台長 渡部潤一 Junichi Watanabe国立天文台 副台長 渡部潤一 Junichi Watanabe

 Vol.131

探査機ジュノーが捉えた木星の奇妙なサイクロン群

以前のこの欄でも紹介したことがあるが、アメリカ航空宇宙局の木星探査機「ジュノー」は順調に成果を上げている。これまでの探査機と異なり、木星だけに焦点を絞り、その内部構造に迫るため、極軌道に投入されていることもあるが、木星そのものにかなり接近する軌道をとっていることもあり、われわれがこれまで見たことのない画像が続々と発表されて続けている。しかも、可視光のカメラであるジュノーカムのデータは、処理される前の生のままで公開され、それを世界中の腕に覚えがある愛好家や専門家たちがよってたかって画像処理しているのだ。そうしてできあがった画像の中には色彩が過度に誇張されているものもあるが、アメリカ航空宇宙局の画像処理チームでは為しえないような圧倒的な数の画像が生み出されていることは確かだ。インターネットの発展によって、こうした市民科学者が探査機のデータを処理するなど、かつては考えられなかったような時代になっていることを実感する。

ところで、ジュノーカムの初期の成果で、これまで最も衝撃的だったのは、木星の極の詳細な画像だろう。南極を真上から眺め下ろした画像には、直径1000kmにも及ぶ台風のような渦があたかも乱雑に混在しているかのように見えていた。この画像は瞬く間にインターネットを通じて広く知られるようになった。そして、研究者の誰もが土星との違いに衝撃を受けていた。土星の極は、ジェット気流が見事な六角形の形になっていて、実に美しい幾何学美を見せていたからだ。それに比較すると、木星の極地方には、そうした幾何学美は全くなく、乱雑に思えたのである。

しかし、観測が進むにつれ、それは大きな間違いだったことがわかってきた。ジュノー探査機に搭載されている赤外線オーロラマッピング装置、いってみれば赤外線カメラで撮影した画像には、研究者も大きな驚きを隠せなかった。赤外線では雲の頂上から深さ数十キロメートルをのぞきこむことができるが、北極の中心には大きなサイクロンの渦があって、そのまわりに直径数千キロメートルの8個のサイクロンが規則正しく取り囲んでいたのである。面白いことに、南極も同様だった。ただ、周囲にあるサイクロンは北極よりもやや大きめで、その数は8個ではなく5個だった。いずれにも、きわめて強い風が吹いていて、その風速は時速350km(秒速97m)に達するという。改めて、初期のジュノーカムの可視光の画像を眺めてみると、確かに乱雑に見えた極中心にそれほど明瞭ではないものの、同様の構造がわかる。これらの極域のサイクロンは南北ともに渦が隣り合って並んでいることも大きな特徴だ。低緯度地方だと、こうした渦は接近すると合体したり、大きな大赤斑に飲み込まれたりするものだが、極域の場合はどうやら安定しているらしい。隣り合うサイクロンが合体することなく、ジュノーの7ヶ月間にわたる観測の間も、それぞれに形を保っていたのだ。きわめて不思議なメカニズムが働いているに違いないが、謎解きはこれからである。

ジュノーの赤外線オーロラマッピング装置で撮影された木星の北極付近の赤外線画像。北極点のサイクロンの周囲を8個のサイクロンが取り巻いている様子。色が明るい部分は、温度が高い。(提供:NASA/JPL-Caltech/SwRI/ASI/INAF/JIRAM)