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星空の散歩道

国立天文台 副台長 渡部潤一 Junichi Watanabe国立天文台 副台長 渡部潤一 Junichi Watanabe

 Vol.137

日本のアマチュア天文家、彗星を発見!

新しい彗星が明け方の夜空に出現した。発見したのは、3名のアマチュア天文家・新天体捜索者である。最も早かったのは、アメリカ・カリフォルニア州のドナルド・マックホルツ氏。11月7日の明け方、口径47cmの反射望遠鏡で捜索中、10等で輝く彗星を発見したのである。その後、日本でも二人のベテランのアマチュアが、この彗星を独立に発見する。一人は香川県の藤川繁久(ふじかわしげひさ)氏、もうひとりが徳島県の岩本雅之(いわもとまさゆき)氏である。藤川氏はマックホルツ氏から約7時間後、日本の11月8日早朝、口径12cmの望遠鏡にCCDカメラをつけての捜索中に発見した。岩本氏の発見も、ほぼ同時刻で、口径10cmの望遠鏡にデジタルカメラをつけて捜索中のことであった。両氏とも四国在住で、ほぼ同時刻の発見というのは偶然ではない。両者とも、ずっと新天体捜索を行っているベテランである上に、彗星が観測可能な位置に上ってくるのがほぼ同時刻だし、気象条件、つまり四国が快晴に恵まれていたという条件が重なったことによるものだ。なにしろ両氏とも以前にも彗星を発見している。藤川氏は2002年に工藤・藤川彗星を、岩本氏は2013年に岩本彗星をそれぞれ発見しており、彼らの目にとまる明るさの彗星が出現したら、まず見逃さないのである。

この新彗星の名前は、めでたくマックホルツ・藤川・岩本彗星(C/2018V1)となった。それにしても久々である。日本人のアマチュアの発見は、NASAの太陽観測衛星のデータのインターネット画像からの発見を除けば、実に5年ぶりの快挙だ。なにしろ、現在では相当広い領域でプロのサーベイによって、かなり暗い天体まで捜索されており、まずアマチュアの発見は望めない状況だからである。今回もプロが観測していない領域であったことが幸いしていたのだろう。まだまだアマチュア天文家による新彗星発見の可能性は残されていることを如実に物語っているといえる。

さて、当の新彗星だが、現在の明るさは10等なので、かなり暗い空のもとで、ベテランでないと探し出して眺めることは出来ない。また、今後の明るさの推移も軌道が正確に決められていないので予測は難しいのだが、原稿執筆段階では11月下旬に向かって明るくなっていく可能性が高い。発見時の彗星の太陽からの距離は0.8天文単位(1天文単位は太陽ー地球間の平均距離で1億5千万km)だったが、その後、新彗星は太陽に近づいていき、11月下旬には半分の0.4天文単位となる。それだけ彗星そのものが明るくなる可能性を秘めている。その上、地球との距離も近づく。発見時には1.2天文単位だったが11月下旬には0.7天文単位を切る見込みである。予測光度は6等で、これだと暗い空なら双眼鏡で見えるレベルである。ただ、残念なのは発見時よりも太陽に近くなって、逆に地平線ぎりぎりになってしまう点だ。太陽離角(新彗星が太陽から天球上でどのくらい離れているかを示す角度)が発見時は40度ほどだったが、急速に小さくなって20度ほどになってしまう。12月にはいると夕方の日没後の超低空に回り込んでくるが、天球上で急速に太陽から離れることはないので実際に眺めることは難しいだろう。

そこでもう一つの彗星を紹介しておこう。実は、12月になると周期彗星であるウィルタネン彗星(46P/Wirtanen)が明るくなってくる。現在はまだ8等であるが、12月になると地球に0.08天文単位にまで大接近する見込みだ。11月中は上記の新彗星と同じく低空で見にくいが、12月からは北の空に上ってくるために、高度もたかくなり、非常に条件良く観測できるのである。楽観的な予測では、12月中旬には3等まで明るくなるという。しかも、ベテランでなくても探せるような場所を通過していく。12月中旬には、おうし座のすばる(プレアデス星団)の近くを通過するからだ。この頃は上弦の月あかりがあるので、月が沈む深夜過ぎが観察のチャンスだろう。なるべく暗い夜空で、月明かりを避けて、ぜひ明るい彗星の観察にトライしてみて欲しい。

ウィルタネン彗星の天球上での位置。(提供:アストロアーツ)