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星空の散歩道

国立天文台 副台長 渡部潤一 Junichi Watanabe国立天文台 副台長 渡部潤一 Junichi Watanabe

 Vol.145

はやぶさ2、二回目のサンプル採取に成功

皆さんもご存じのように、日本の小惑星探査機「はやぶさ2」は7月11日の午前10時(日本時間)、小惑星リュウグウへの2回目のタッチダウンを行い、サンプル採集に成功した模様である。これは私のように惑星科学に携わる者としても嬉しい限りである。世界中からお祝いのメッセージが集まってきており、日本のプレゼンスを示せた格好のイベントとなったことは間違いない。来年2020年の末に予定されているのだが、無事にサンプルが地球まで届けられることを願いたい。

ところで、1回目のサンプル採集に成功したとみられるのに、どうして危険を冒してまで2回目を行ったのか、疑問を持つ人がいるかもしれない。これはサンプルの量が多ければ多いほど、分析が進むという単純な理由だけではない。ご存じかもしれないが2回目は、いってみれば小惑星内部(地下)のサンプルとなるからだ。

実は、小惑星の表面は長い間、宇宙空間に直接さらされてきているために、もともとの物質組成が変化している。これを宇宙風化と呼ぶ。地球の場合は、風化というと大気による雨風での変化を指すのだが、大気のない場所でも実は風化と呼べるような変化が起きている。真空中であっても、太陽からの紫外線や赤外線などを直接受けるだけでなく、太陽風や宇宙線などの高いエネルギーを持つ粒子によって表面物質は変化してしまう。特に小惑星リュウグウは水を含む鉱物(含水鉱物)を保持していると見られるが、こういったものも長い間の太陽による加熱で水が抜けてしまったりする可能性がある。また、真空なので、小さな固体微粒子や隕石も直接表面に衝突し、破壊してしまうことも多い。月の表面が厚いレゴリス粒子の層に覆われているのは、そのためである。

宇宙風化で特に際立つのは、宇宙風化によって表面の反射率が落ち、赤みがかってしまうことだ。後者を赤化と呼ぶのだが、その原因は長らくわからなかった。それが大きさ数ナノメートルから数十ナノメートルサイズの鉄ナノ微粒子であることがわかってきた。こうした微粒子が反射率を落とし、赤化の原因となっているようである。ただ、小惑星リュウグウのように炭素が多いC型小惑星の場合は、宇宙風化すると逆に青くなる傾向が見られるのだが、その原因は実はまだよくわかっていない。

ではこういった宇宙風化していない小惑星の内部のサンプルを採取するにはどうしたらよいか。そこで考えられたのが、今回「はやぶさ2」が行った人工クレーター生成である。人工的に衝突体をぶつけて、クレーターをつくれば、そこには宇宙風化していない地下の物質が現れるはずだからだ。今回のタッチダウンは、まさに人工クレーターの場所をめがけてサンプル採集を行ったのである。

今回、1回目と2回目のサンプルを比較すれば、宇宙風化でいったい何が起こっているのかを知ることができると共に、風化していないサンプルに水を含む鉱物が多いのか否か、そして有機物はあるのか、さらにはC型小惑星の宇宙風化の謎が解けることが期待されている。

タッチダウン4秒後の画像。衝撃で飛び散った岩石の破片が飛び散っているのがわかる。(提供:JAXA、協力:東京理科大学木村研究室)