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星空の散歩道

国立天文台 副台長 渡部潤一 Junichi Watanabe国立天文台 副台長 渡部潤一 Junichi Watanabe

 Vol.147

すばる望遠鏡、土星の衛星を大量に発見

太陽系の惑星は水星と金星を除いて、衛星を持っている。衛星の数が多いのは、巨大なガス惑星である木星と土星である。太陽系一の質量を持つ木星には、なんと72個の衛星が確認されており、ながらく太陽系一の衛星数を誇っていた。いわば多数の子分を従えた親分の風格である。

ところが、もしかするとこの状況が変わるかもしれない。というのも、土星に20個もの新しい衛星が発見されたからである。発見を報告したのはアメリカ・カーネギー研究所などの研究チームである。彼らは、しばしばハワイ・マウナケア山頂にある、すばる望遠鏡を使って観測を行っており、今回はそのデータの中、しかも2004年から2007年にかけての観測データの中から発見された。新しい衛星の直径はいずれも5キロメートル程度と小さく、20個のうち17個は逆行、つまり土星の自転とは逆向きに公転している。順行、つまり土星の自転と同じ向きに公転している衛星のうち、2個は土星にやや近いところを回っており、土星を一周する公転周期は約2年ほど、より遠いところ周回する順行衛星1個と逆行衛星17個の公転周期は約3年以上である。いずれも軌道が土星の赤道からはかなり傾いている。

土星を周回する20の新衛星の軌道の概略。青色と緑色の軌道が順行、その他が逆行軌道で、土星のかなり外側を周回していることがわかる。(提供:Illustration is courtesy of the Carnegie Institution for Science. Saturn image is courtesy of NASA/JPL-Caltech/Space Science Institute.Starry background courtesy of Paolo Sartorio/Shutterstock.)

もともと木星や土星に近い内側の衛星の場合は、赤道面に揃って、円軌道を描いているものが多いのに対して、惑星から遠く離れて公転している衛星は惑星の赤道面に沿っておらず傾いている上に、ひしゃげた楕円軌道で逆行のことも多い。その意味では内側の素直な衛星群を「規則衛星」、外側の衛星群を「不規則衛星」などと呼ぶこともある。前者は惑星が形成されるときに、その惑星の周囲に円盤ができて、その中で生まれたのに対して、後者は小天体が強い重力によって捕獲され、衝突破壊してできたのではないか、と思われている。

特に土星から遠くに存在する衛星の場合、土星の赤道に対しての軌道の傾きから、イヌイット群、ガリア群、北欧群の3つのグループに分類されている。新発見の衛星のうち、ふたつの順行衛星は、イヌイット群のメンバー、また逆行衛星群は北欧群に属している。最後のひとつの順行衛星は ガリア群に似た傾きを持つ軌道ではあるが、他のガリア群よりもはるかに遠い場所にあるので、メンバーかどうかはわからない。

いずれの群も、かつて存在したであろう比較的大きな天体が何らかの理由で破壊され、その破片が同じような軌道を巡っているのではないか、と思われている。その意味では、太陽系の惑星や衛星がどのように生まれ、変遷していったのかを調べる上で、これらの衛星群の発見は貴重な資料になるだろう。この発見によって、未確認のものも含めると、これまでに見つかった土星の衛星の数は 82となり、木星の衛星数 である79を上回ることになった。確定数は木星が72個、土星が53個なのだが、近いうちにこの数は逆転するかもしれない。

ところで、今回が通算147回目の原稿。150回を区切りに終了を考えているが、それにともなって何かイベントがあるかもしれないので、乞うご期待。