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星空の散歩道

国立天文台 副台長 渡部潤一 Junichi Watanabe国立天文台 副台長 渡部潤一 Junichi Watanabe

 vol.97

雄大なへびつかい座を探そう

現代の星占いでは、ある人が生まれた時、太陽があった星座をもとにすることが多い。太陽は天球上で、その通り道である黄道を動いていく。かつては、その黄道上に12の星座が決められていたため、通常の星占いは12星座が使われる。ところが、よくよく星図を眺めてみると、実際には黄道は13の星座を通っている。昔からの黄道十二星座にない星座が、へびつかい座である。

どうして、この星座が黄道上にあるのだろうか。その理由は単純だ。もともと星座は星をつないでつくったものなので、境界線はあまりはっきりしていなかった。それでは不便だというので、1928年に国際天文学連合が星座の境界線を決めた。その時、いままで黄道の星座ではなかった、へびつかい座の一部が黄道をまたぐように設定されてしまったのである。

7月20日、南の空を占めるへびつかい座とへび座。(21時、東京、アストロアーツ社ステラナビゲータで筆者作成)

当時、天文学者は、あくまで天文学上の利便性を図る上で境界線を決めたわけで、星占いなど念頭にあるはずもなく、誰一人として、黄道が12星座以外の星座にかかってしまうことを憂慮した天文学者はいなかった。こうして、現在のへびつかい座の一部に黄道がかかってしまったわけである。

実際の太陽の動きを計算してみると、11月末にさそり座からへびつかい座に入り、12月中旬には次のいて座へ移動していく。この間に生まれた人は、へびつかい座生まれと呼んでもいいかもしれない。名前の印象からだと嫌だと思われる人もいるかもしれないが、この蛇遣いは、ギリシャ神話によれば、死者をもよみがえらせるという名医アスクラビウスの姿といわれているので、少なくともさそり座よりは名誉かもしれない。世界の人々の健康を守る国連機関、WHO(世界保健機関)のロゴマークは、国連紋章の中央に蛇が巻きついた杖があしらわれているが、これはまさにアスクレピオスの神話に由来する。蛇が巻きつた杖は、その意味で医療と医師の象徴なのである。

へびつかい座はとても大きな星座で、初夏の南の夜空を大きく占めている。頭の部分に位置する、最も明るい二等星ラスアルハゲを見つければ、そこから大きな将棋の駒のような形をたどることができるだろう。そして、やや暗い星をつなぐと西側にはへびの頭が、東側にはへびの尾が伸びている様子もわかるはずだ。頭部と尾部に分断されたふたつの領域は、どちらもへび座なのだが、もともとはへびつかい座の一部だった。ただ、昔のへびつかい座は余りにも大きかった。へび座と合わせると、全天で最も大きな星座である、うみへび座よりも面積的には大きいのである。そのため、それぞれ独立した星座になったわけである。ちょうど今は土星がてんびん座で輝いているので、それを目印にへび座の頭部を探すことができる。土星のずっと上方、かんむり座のすぐ南で、4等星が小さな三角形を作っているのがへびの頭で、そこからへびつかい座の将棋の駒の形の底辺を貫き、わし座の一等星アルタイルに向かって、暗い星がいくつか並んで、へび座の尾を成している。明るい星が少ないので、都会ではなかなか星座の形をたどるのは難しいだろう。へびつかい座の将棋の駒形は目立つが、その両側にあるへび座も、ぜひ探してみてほしい。