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星空の散歩道

国立天文台 副台長 渡部潤一 Junichi Watanabe国立天文台 副台長 渡部潤一 Junichi Watanabe

 vol.98

明らかになった冥王星の素顔

7月中旬、アメリカの惑星探査機ニューホライズンズが冥王星に接近し、その素顔を明らかにした。そこでは驚くほど活発な活動があったと推定される証拠が次々と見つかった。これらは多くの研究者の予想を覆すものであった。また、太陽系の最果ての天体という知名度もあって、多くの方が報道でも目にされたことだろう。なにしろ、かつては「水金地火木土天海冥」という覚え方での最後、太陽系の惑星の9番目、つまり最果ての惑星として位置づけられていた天体である。1930年の発見以来、冥王星は惑星であり続けてきたのだ。

ニューホライズンズが接近中に撮影した冥王星の姿。白いハートマークの地形が目立つ。(提供: NASA/Johns Hopkins University Applied Physics Laboratory/Southwest Research Institute)

その位置づけが変わりはじめたのは、20世紀末である。冥王星の軌道領域に冥王星と同じような天体が続々と見つかってきたのだ。2005年には、冥王星よりも大きいとされる天体も発見された。そして、その天体を惑星と呼ぶのか、それとも冥王星の位置づけを変えるのか、問題になったのである。天文学者の国連である国際天文学連合は、この混乱を収束すべく、7名からなる「惑星定義委員会」を立ち上げた。筆者は、この7名から成る委員会の一人として、太陽系の天体群を、惑星かそうでない小天体かという二分類ではなく、新たに惑星に準じる天体である「準惑星」というカテゴリーを作った。そして、冥王星の位置づけを準惑星にしたのだ。これによって冥王星は惑星ではなくなり、太陽系の惑星は「水金地火木土天海」となったのである。(この辺りの詳しい経緯は「新しい太陽系」(新潮新書)お読み下さい。)

その位置づけはどうあれ、冥王星は何しろ遠い。現在の地球からの距離は約48億km。太陽と地球の距離の30倍以上であり、光でさえ4時間もかかる。しかも冥王星はとても小さい。これまでの推定直径は2300〜2400km、つまり3500kmほどの月よりも小さいのだ。小さくて遠くにあるため、その素顔はよく見えなかった。ある程度の明暗模様が表面にあることくらいはわかっていたが、ほとんど謎に包まれたままであった。ただ、表面は46億年前にできあがってから、ほとんど変化してないだろうと予想されていた。表面を変える内部の熱源も少ないと思われていたからである。充分な熱があれば、氷が液体となって吹き出し、溶岩のように覆うことでその表面は更新される。しかし、小さな天体であれば、内部の熱源となる放射性壊変元素の含有量は少なく、火山のような地質学的活動は起こらないはずで、冥王星の表面は古いまま、月や水星のように、表面には衝突クレーターが無数に残されているに違いないと思われていたのである。

そんな事前の予測は、見事に外れた。2006年に打ち上げられ、9年の旅を経て7月14日に冥王星に接近した探査機ニューホライズンズ。搭載された探査機のカメラは、冥王星の表面にかなり新しい領域があることを明らかにしたのである。茶褐色の表面(メタンなどが宇宙線や太陽の紫外線にさらされて、もっと複雑な有機物質になったもの)のところどころに黒い領域や白い領域があった。特にハートマークに見える白い領域には、クレータがほとんどない。1億年前後というきわめて最近にできた地形のようだ。クローズアップ画像によれば、不思議な模様が目立つ。表面を覆っている一酸化炭素や窒素、メタンなどが冷えて氷として固まるときに、収縮してできたパターンとも思われている。また、黒っぽい古い領域との境界には、富士山級の氷の山々が立ち並んでいる。いったい、どうやってこうした山ができるのか、まだ謎である。いずれにしろ、こうした地形は全く予想していなかったものである。では、いったい熱源は何なのか?探査により謎が増えてしまった感がある。惑星探査機ニューホライズンズは、あまりにも遠方のため、地球へのデータ転送レートが低く、接近時のデータはこれから一年以上にわたって地球に送ってくる予定である。そして、今後はさらに冥王星の遠方にある他の太陽系外縁天体にも接近を予定しているので、引き続き期待したい。

ハートマーク付近の拡大写真。なめらかな表面に不思議なパターンが見える。(提供:NASA/Johns Hopkins University Applied Physics Laboratory/Southwest Research Institute)
白黒模様の領域の境界。白い領域側には三千メートル級の氷の山が並んでいるのがわかる。(提供:NASA/Johns Hopkins University Applied Physics Laboratory/Southwest Research Institute)