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三菱電機×クーリエジャポン NASAも驚嘆した“宇宙の宅配便”「こうのとり」Text by Chihiro Masuho / COURRiER Japon三菱電機×クーリエジャポン NASAも驚嘆した“宇宙の宅配便”「こうのとり」Text by Chihiro Masuho / COURRiER Japon

NASAも驚嘆した“宇宙の宅配便”「こうのとり」
—世界に誇る日本の技術が、過熱する宇宙開発市場を勝ち抜く切り札となる③

誰も成し得なかった「快挙」

筑波宇宙センターの運用管制室でスタッフが固唾を飲んで見守るなか、18日にはNASAのニコール・ストット飛行士がロボットアームでこうのとりをキャッチし、無事にISSとのドッキングを果たした。

ISSに向かって宇宙空間を飛ぶこうのとり(提供:JAXA/NASA)
ISSのロボットアームにキャッチされ、見事にミッションが成功(提供:JAXA/NASA)
筑波宇宙センターの運用管制室でミッションを見守っていたスタッフたち。無事にこうのとりがキャッチされ、喜びに湧く(提供:JAXA)

無人宇宙船のランデブードッキングに初号機で成功──NASAも成し得なかった快挙に、運用管制室は歓喜に包まれた。塚原はそのときの様子を目を細めながらこう話してくれた。

「まるでドラマのワンシーンのように、みんなで抱き合って喜びました。『本当にできるのか?』というスタートから、長い年月を経て勝ち取った大きな功績に、私自身も感無量でした」

その後こうのとりのミッションは、15年に打ち上げられた5号機を含め、すべて成功。米ロの補給機の打ち上げの失敗が相次ぐなか、日本製への信頼はうなぎのぼりだ。

この実績によって、同じくISSの補給機を造る米「オービタル・サイエンシズ」社からは、こうのとりのランデブー技術を採用したいというオファーがあった。 「ついに米国に日本の技術が認められた」──長年の悲願を達成した瞬間だった。

こうのとりは当初7号機まで打ち上げられる予定だったが、2機が追加になり、9号機までが宇宙へ旅立つ。初号機の打ち上げ成功で安堵したのではないか、と塚原に尋ねると、こんな答えが返ってきた。

「最初から私のなかでは、7号機のミッションすべてが無事に終わってこその成功だという気持ちがありました。なので、初号機のミッションを完遂した当時も、『これは一里塚に過ぎない』と気持ちを引き締めた覚えがあります。現在ではさらに2機が追加されたので、いまはやっと折り返し地点まで来たという感じです」

宇宙船開発では、技術の改良がその主要な目標の1つになるが、こうのとりの場合はまったく同じ品質のものを提供し続けることが課題となる。

とはいっても初号機から5号機の打ち上げの間も、より安全性を高めるための品質改良が進められてきた。また、燃料を噴射して軌道を変えるスラスタは当初、海外製を使用していたが、これを日本製に変えた。また通信機器も自社製品に変更。少しずつ国産率を上げている。

16年にはこうのとりの6号機が打ち上げられる予定だ。

7月に11人目の日本人宇宙飛行士としてISSに旅立った大西卓哉宇宙飛行士の任期に間に合えば、日本人宇宙飛行士が日本製の補給機をロボットアームでキャッチする場面が見られるかもしれない。 もしこれが実現すれば、15年の油井亀美也宇宙飛行士に続いて、2人目の快挙となる。

こうのとりをキャッチするため、ISSのロボットアームの操作訓練を受ける大西宇宙飛行士(提供:JAXA)

「96年のスペースシャトル・エンデバー号が行ったSFUミッションでも、若田宇宙飛行士が日本製の衛星を回収する場面がありました。それを見て、ミッションのすべてに日本人が関わっていたことに強く感動したのを覚えています。日本人宇宙飛行士が日本製の補給機をキャッチする時代がやってくるなんて、『日本人に宇宙船が造れるのか』といわれていた出発点を考えると、大きな進歩を感じます」

今年度からは、JAXAが計画する日本初の小型月着陸実証機「SLIM」の開発を三菱電機が進めている。打ち上げは19年度の予定だ。

月の重力は弱いといっても地球の6分の1はあるため、着陸が難しい。だが、ここでもこうのとりで培われた誘導制御の技術が活用され、SLIMは従来よりも正確な着陸が可能になるという。

SFUと技術試験衛星Ⅶ号「おりひめ・ひこぼし」の経験がこうのとりを成功に導き、その実績が日本の宇宙開発史に「初の国産月着陸実証機」という新たな1ページを加えようとしている。

「宇宙開発のパイオニア」の今後の展望は?

塚原が宇宙に興味を持ったのは、小学生のときに人類初の月面着陸をリアルタイムで見たことがきっかけだったという。だが、就職を考える時期になっても、日本はまだ宇宙開発では後進国。将来的に自分の仕事が成り立つのかという不安もあった。

それゆえに米国行きを考えたこともあったが、衛星開発に携わる先輩に話を聞き、やはり日本の宇宙開発に貢献したいと、三菱電機に入社。以来ずっと宇宙開発畑を歩んできた。

そんな塚原は近年、ベンチャーや異業種の参入が進む日本の宇宙産業の現状をどう見ているのだろうか? 「就職の選択肢がたくさんあってうらやましい」と笑った後に、塚原はこう続けた。

「まずは人工衛星の市場で、三菱電機の存在感を高めたい」という塚原(提供:YOUNGUJU KIM FOR COURRIER JAPON)

「新しいプレイヤーの台頭は業界の活性化に繋がるし、歓迎もしています。ですが、我が社にも『これまで力を注いできた補給機や実用衛星の分野ではパイオニアだ』という自負がある。今後も技術や品質を高めながら、人工衛星など国のインフラ開発に貢献したいと思っています」

もちろん、海外市場への進出にも意欲的だ。

いま、宇宙産業の市場で世界的に注目を集めているのが、衛星測位システムの分野。三菱電機はすでに、日本に特化した地域測位システムである準天頂衛星「みちびき」の開発を始めている。

「準天頂衛星システム」とは、日本でつねに天頂付近に1機の衛星が見えるよう、複数の軌道面にそれぞれ配置された衛星を組み合わせて利用する、衛星システムのこと。このシステムが始動すれば、衛星がいつも天頂方向にあるため、山や高層ビルが多い場所でも、高精度の衛星測位サービスの利用が可能だ。

2010年にすでに初号機が打ち上げられ、2018年度には4機体制となってサービスが開始される。新しい「日本版GPS」は、さらに精緻な位置情報を提供してくれる。

今後の三菱電機の目標は、内需で培った技術力とこうのとりでアピールできた信頼性を武器に、課題となるコストと納期の面を改善しながら、海外市場で互角に戦える衛星を造ることだという。

「宇宙開発途上国」から一転、世界に誇れる技術を持つことを知らしめた日本。その立役者である三菱電機が、今後も日本の宇宙産業の中枢を担うのは間違いない。

Text by Chihiro Masuho / COURRiER Japon