メルトピア

経営基盤を強化するIT戦略

三菱電機メルトピア。様々な事例がご覧いただけます。

  • 巻頭特集

  • 経営基盤を強化するIT戦略
  • 2011年 1・2月号(No.163)
  • P.F.ドラッカーに学ぶ 組織や人間の力を引き出す
    マネジメントとリーダーシップ

「顧客第一」「経営戦略」「目標管理」「コア・コンピタンス」など、現在の経営の常識といえるマネジメントの理念を生み出したのが、「経営学の父」といわれるピーター・フェルディナンド・ドラッカーです。物事の本質をわかりやすく解き明かす著作は世界中でベストセラーになるだけでなく、日本でも多くの関連書籍が出版されています。2009年12月に発行された「もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの『マネジメント』を読んだら(もしドラ)」は、電子版と合わせて累計202万部を超える大ヒットとなりました。今もなお、多くの人を惹きつけるドラッカーのマネジメント思想のエッセンスを紹介しましょう。

人と社会を幸せに導く
ドラッカーの思想の原点

 2010年8月5日に発生したチリ落盤事故。69日ぶりに33人が全員無事に救出され、ここで称賛されたのがルイス・ウルスア氏の見事なリーダーシップでした。
 彼は仲間の鉱員全員に「必ず生きて帰る」という確固とした目標を植え付け、救出が来るまでの規律の維持、スケジュール管理、各自の持っているスキルに合わせた役割分担を徹底しました。これらはすべて、ウルスア氏が敬愛するドラッカーの理論から得た知恵であり、無事救出された後、そのことが大きな話題になりました。
 ドラッカーが経営に与えた影響は大きく、一般には「経営学の父」「マネジメントを発明した人」といわれています。経営学のみならず、その守備範囲は極めて広く、社会、政治、文化、行政、経済、統計、国際関係をはじめ、宗教、歴史、哲学、倫理、文学、自己実現など多岐に及びます。自身では、自らの仕事ぶりを「社会生態学者」と表現し、好んで使っていました。
 ドラッカーは早くから「社会」と「人」に強い関心を持ち、それらを結ぶ触媒として「組織」あるいは「企業」に注目しました。「人」は学校や会社、さらには家庭、市町村などの「組織」を通じて「社会」と結び付きを持ちます。そして、「人」と「社会」の中間にあり、双方を幸せに導くのが「組織」の役割だとして、そのための組織のあり方を研究し、マネジメントの重要性を指摘。これがドラッカーの原点なのです。

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ドラッカーのマネジメント思想の中核は
人間主義と全体の体系化

 人と社会が幸せになるための組織。人間が中心、いわば人間主義と呼ぶこともできるドラッカーの思想は、多くの日本企業の経営にも影響を与えました。現在でもドラッカーを支持する経営者が多く、セブン&アイ・ホールディングスの伊藤雅俊氏、パナソニックの中村邦夫氏、衣料品チェーンのユニクロを展開するファーストリテイリングの柳井正氏など、そうそうたる実業家の名前が並びます。
 人間主義のほかに、ドラッカーが人を惹きつける理由に、彼独自の方法論があります。多くの学者は経営を細分化して個々に研究するのに対し、ドラッカーは目的を明確にして、体系化しながら全体を明らかにします。
 従来から財務や生産管理など、業務単位の理論はありましたが、これら全体を経営の視点で体系化する試みは、ドラッカーが最初でした。そもそも、それ以前は企業理論そのものがなく、当然ながら「マネジメント」の概念もありません。そこで、ドラッカーは経営(マネジメント)そのものの目的、役割を体系化することで、その全体像を明らかにしようとしました。その説得力と実効性が、現在でも多くの経営者やリーダーから支持されているのです。

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企業活動の目的は
顧客を創造すること

 ドラッカーは、企業の目的を「顧客の創造」と極めてシンプルに定義しました。これは彼の最も有名な言葉の1つです。顧客を他から奪うのではなく、新たに創り上げて市場を形成する。新しい価値観を創り上げて顧客に満足を提供することに、企業の目的があるとしました。
 一方、「企業の目的は利益ではないのか」という反論もあるかもしれません。これに対しドラッカーは「利益は企業や事業の目的ではなく、条件である」としています。さらに、「利益は妥当性の尺度である」とも答えています。利益は成果を評価する指標に過ぎません。
 利益を目的にすると財務テクニックに走り、人や社会の見え方が歪む危険性があります。会議においても売上や利益の数字に終始せず、いかにして顧客を創造するかについて議論することが望まれます。市場を創るのは神や自然の力ではなく、企業なのです。

マーケティングとイノベーションこそが
顧客の創造に不可欠な機能

 ドラッカーは、「マーケティングとイノベーション」こそが企業の目的である「顧客を創造」するために不可欠な機能であるといっています。ここでいうマーケティングとは、「売りたいもの」を起点にするのではなく「顧客は何を買いたいか」からスタートすることです。イノベーションとは、顧客のニーズを喚起して、新しい満足を生み出し市場を作り出すことです。
 具体例としてドラッカーが紹介しているのが、イヌイット(エスキモー)への冷蔵庫の販売です。冷蔵庫は食品を凍らせないために使うという発想で、極寒の地での販売を成功させました。ドラッカーはこうしたイノベーションを実現するための方法論も明示しています。

 @予期しなかった「成功」「失敗」の想起
 A社会における「ギャップ」を見つける
 Bニーズの存在を探る
 C産業構造の変化を見る
 D人口動態の変化を見る
 E認識の変化を探る
 F新技術を活かす

 これは機会発見の難易度順に記載されています。多くの人が重視すると思われる「ニーズの存在を探る」は3番目に過ぎません。「新技術を活かす」は最後の7番目です。予期しなかった「成功」「失敗」を想起することは、もっと容易に行えます。イノベーションは一部の天才によるひらめきではありません。体系的で柔軟な分析思考が重要なのです。

あらゆるマネージャーに共通する
5つの仕事

 企業の目的は「顧客の創造」であり、そのために求められる「マーケティングとイノベーション」。これを実現するために不可欠となるのが「マネジメント」です。ドラッカーのいうマネジメントは「管理」ではなく、管理を包含する「経営」に近い概念です。ドラッカーはマネジメントの仕事を次の5つに定義しています。

 @目標を設定する
 A組織する
 B動機づけとコミュニケーションを図る
 C評価測定する
 D人材を開発する

 ここで、ドラッカーの教えと冒頭のチリ落盤事故で発揮されたリーダーシップを結び付けてみましょう。リーダーは生きて帰るという目標を設定し、役割分担による組織と規律を維持しました。役割分担には、動機づけ、コミュニケーション、部下の育成という側面もあったはずです。こうした沈着冷静なリーダーシップが無事救出につながりました。このように、ドラッカーの理論は企業活動にとどまらず、自治体や学校、病院、NPOなど、あらゆる組織、さらにはセルフマネジメントにまで応用することができます。

※本記事は、藤田勝利氏への取材を基に構成しています。
参考文献:P.F.ドラッカー(著)上田惇生(訳)『マネジメント - 基本と原則 [エッセンシャル版]』ダイヤモンド社、P.F.ドラッカー(著)上田惇生(訳)『イノベーションと起業家精神』ダイヤモンド社

説明図

イノベーションのための7つの機会
出典:P.F.ドラッカー著『イノベーションと企業家精神』を基に藤田 勝利 氏が作成

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