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経営基盤を強化するIT戦略

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  • エキスパートインタビュー

  • 経営基盤を強化するIT戦略
  • 2011年 3月号(No.164)
  • データは企業資産という認識のもと
    DAMA-DMBOKを活用しビジネスの視点で管理する

人物写真

DAMA日本支部会長
データ・インパクト 代表 
松本 聰 氏

情報システム部門がこれまで対応してきたシステムのライフサイクル管理などと比較して、はるかに長期にわたる対応が必要となるデータ管理。そこで求められるのは「データは企業の資産である」という認識と、ビジネス視点に立った全社レベルでのデータ管理です。今回は、データおよび情報の管理に対する理解と普及を推進し、ビジネス戦略の支援を目指すDAMAの日本支部会長である松本聰氏に、データ管理の重要性や日本における現状、そしてDAMA日本支部の役割などについて伺いました。

松本 聰(まつもと・さとし)氏プロフィール
石油化学関連メーカーで、情報基盤の整備、システム開発方法論の普及に携わる。 2003年株式会社メタジトリーを設立。データおよびビジネスのモデリング技術、標準化を中心にビジネスを展開 2009年独立し、データ・インパクトを設立。ISO/IEC SC32 WG2 Metadata委員。2010年までJapan Enterprise Modeling User Group会長を務める。現DAMA(Data Management Association)日本支部会長。著書:『IDEF1X』(日経BP)、『業務モデルとデータモデルの考え方』(翔泳社)

経営資源のベースとなる
データ管理の重要性

 「DAMA-DMBOKの冒頭に記載されているのは『データはエンタープライズ資産である』という内容です。経営資源であるヒト、モノ、カネ、情報のなかで、4番目にあげられる情報の基となるデータを、他の資源と同様にしっかり管理することが不可欠です」
 データ管理の重要性について触れる際、松本氏は工場における原材料を例にあげます。原材料の品質管理を行わない企業は存在せず、品質の高い製品を創造するためには、原材料の品質管理が不可欠となります。データ管理も同様で、その品質が低ければ、これに基づいた情報分析や意思決定、さらにはビジネスそのものの品質が低下してしまいます。
 米国では1980年代、あるいはそれ以前から注目されていたデータ管理。近年、その体系化を求める気運の高まりもあり、2009年4月にはデータ管理のための知識体系「DAMA -DMBOK」や用語集「DAMA Dictionary of Data Management」が公開され、実際のビジネスへの適用が開始されています。また、データ管理において欧米に遅れていた日本国内においても、DAMAの国内組織であるDAMA日本支部が立ちあがるなど活発な動きが見られるようになっています。

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システム開発とは大きく異なる
データのライフサイクルとその管理

 「データ管理とプロセス管理との間には、大きな違いがあります。プロセスはよく変化しますが、データは基本的に安定的なものなのです。もちろん適用される局面では、移動され、加工されますが、その本質は基本的に普遍的なものです」
 プロセス指向で実施されるシステム開発のライフサイクルと、データのライフサイクルは、相関はあるものの、まったく異なる内容であると松本氏は語ります(図参照)。
 「データのライフサイクルは、開発が完了した後でも、抽出、書き出し、移動、検証、編集、更新、クレンジング、変換、統合、分離、集約などのステップが継続されます。このため、システム開発と比較し、はるかに長期間にわたって管理を行う必要があります。従来のデータ管理において様々な課題に直面した原因の多くは、データ管理のライフサイクルとシステム開発のライフサイクルを同一視したことにあります」
 言い換えれば、プロジェクトベースで完了するシステム開発の品質管理を行ってきた情報システム部門が、「きわめて継続的な」データの品質管理を行うことは困難であると松本氏は指摘します。メーカーにある品質管理担当部門と同様に、全社を横断した品質管理の対象としてデータを捉える必要があります。
 データ管理における成功事例として、DAMAの「Enterprise Data World」でアワードを受賞した米国大手半導体メーカーの場合も、データとプロセスの両方を見直して、全社的なレベルでの品質管理を実現しました。この過程で、バラバラに稼働していたERP、経営管理などのシステムを統合し、大きな効果をあげています。

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日本国内におけるデータ管理の現状と
DAMA日本支部の役割

 国内におけるデータ管理の取り組みについて、松本氏は現状を次のように話します。
「日本企業の多くは現在、データ管理の重要性に“気付き始めた”段階にあります。この背景には、グローバル化とM&Aなどの動きがあります。国内大手企業の多くがビジネスのグローバル化に取り組むなか、取り扱うデータも国内だけが対象ではなくなります。商習慣の違いを吸収しながら統合管理する必要があり、また連結決算も不可欠です。このような状況において、データの統合や管理の必要性が高まってきました。M&Aについては、特に金融や保険業界で多く見られましたが、その際には双方が持っていたシステムを1つに統合していく必要があります。アプリケーションの統合に先立ち、データ統合の動きが始まり、この結果データ管理に対する再認識が図られました」
 データ管理の重要性が高まるなか、2010年11月15日にDAMAの日本支部が設立されました。松本氏は、「2000年頃からDAMAという組織を認識しており、日本でも展開したいと考えていました。しかし、当時はデータ管理に取り組む企業が少数で、関心は今ひとつという状況でした。そんな状況が一変したのは、2009年にDAMAが発表したDMBOKでした。そこで、データ管理の知識体系が明文化されたことで注目が集まり、DAMAの日本支部を立ち上げることになりました」
 DAMA日本支部では、DAMA International の方針をベースに、次のような活動を展開しています。

 @スペシャリストがデータ・情報資源管理の考え方を学習し、データ管理スペシャリストとしての組織を企業のなかで明確に位置付けるための活動
 A会員がデータ・情報資源管理の分野で他のスペシャリストとネットワーキングできる機会の提供
 Bデータ管理に関する教育・セミナーを通じて、データ管理・情報資源管理の考え方を国内に普及させる

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経営層に求められる
「データは企業の資産」という認識

 日本にとってまさに“データ管理元年”となった2010年を終え、新たなステップに踏み出したDAMA日本支部。データ管理の必要性を感じながらも次の一手に躊躇している経営層に向けたメッセージとして、松本氏は最後に次のように述べ、今回のインタビューを締めくくりました。
 「経営者の方は、“データは企業の資産である”ということを再認識される必要があります。資産であれば管理することが必要になり、そのための手段としてDMBOKを活用することもできます。必要となるのはデータ管理に対する認識の変革です。データ管理についてお話をする際、よく私が例としてあげるのが、マイケル・E・ポーターが1985年に発表した『競争優位の戦略』で紹介されている価値連鎖(バリューチェーン)です。このバリューチェーンで一番上位に“全体管理”という概念が登場してきます。川下で発生するそれぞれのイベントや活動は様々ですが、全体を鳥瞰し統合する視点から見れば、この全体管理が最も重要となります。企業活動におけるデータ管理は、まさにこの位置付けとなるものです」

説明図

データライフサイクルとシステム開発ライフサイクル
出典:「DAMA日本支部紹介」資料-2010/11

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