メルトピア

経営基盤を強化するIT戦略

三菱電機メルトピア。様々な事例がご覧いただけます。

  • 巻頭特集

  • 経営基盤を強化するIT戦略
  • 2010年 8・9月号(No.159)
  • 企業経営という視点からIFRSの影響と情報システム対応のアプローチを考える

日本の会計制度や企業経営に大きな影響を及ぼすといわれ、注目を集めるIFRS。情報システム部門には、IFRS適用に伴う様々な対応が求められますが、その前提として、IFRSの基本的な考え方を理解し、IFRSがもたらす自社業務への影響を的確に見極めことが重要です。今回は、グローバル会計基準としてのIFRSを経営的な視点から俯瞰し、IFRSの適用に伴う影響や情報システム対応のアプローチを整理してみましょう。

国際的な資金調達の流れを活性化する
新たな会計基準

 International Financial Reporting Standardsの略であるIFRSは、世界各国での共通利用を目的に策定が進められている新たな会計基準です。日本においては国際会計基準、あるいは国際財務報告基準という訳語が用いられ、旧来の日本の財務管理手法や経営全般に大きな影響をもたらすテーマとして、大きな注目を集めています。
 IFRSの策定母体は、IASB(The International Accounting Standards Board:国際会計基準審議会)です。しかし、一般にIFRSという場合は、IASBが策定したIFRSと、IASBの前身であるIASC(International Accounting Standard Committee:国際会計基準委員会)が策定したIAS(International Accounting Standards)、さらにはそれぞれの解釈指針も含めた総称を指します。国際会計基準という訳語や“IFRSs”という表記は、いずれもこれら総称という意味で用いられています。
 会計基準とは、企業が自社の業績や財政状態を利害関係者に説明する、あるいは投資家が投資判断に利用する会計処理のルールであり、評価のモノサシともいえるものです。これらが国によって異なる従来においては、グローバル企業は各国固有の会計基準に応じて複数の財務諸表を作成する必要があり、一方で投資家は、自国の会計基準に読み替えて投資判断をしなければなりませんでした。IFRSの適用は、こうした企業、株式市場や投資家にとっての非効率を解消し、国際的な資金調達の流れを活性化させる手段と位置付けることができます。
 IFRSの有効性や必要性には世界の各国が着目し、すでに100ヵ国以上がIFRSを採用しています。その流れを加速したのが、EU(欧州連合)域内での、2005年1月からの上場企業への強制適用です。米国の証券取引委員会(SEC)も2008年に、早ければ2014年から強制適用に踏み切る可能性を示唆するロードマップを公表しました。
 こうした流れのなか、日本では2010年3月期決算から上場会社を対象に、IFRSの任意採用を認可。金融庁は2009年に、「我が国における国際会計基準の取扱いについて(中間報告)」を公表し、2012年に強制適用の是非を決定、早ければ2015年から強制適用に移行するロードマップを示しました。

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細則主義から原則主義へ
連結財務諸表も大きな転換を迫られる

 IFRSの適用対象となるのは、上場会社の連結財務諸表。IFRSでは、次の5つを要求しています。
  財政状態計算書
  包括利益計算書
  株主持分変動計算書
  キャッシュフロー計算書
  注記
 ここで日本企業に大きな影響を及ぼすのが、従来の貸借対照表(B/S)が財政状態計算書に、損益計算書(P/L)が包括利益計算書に置き換わること。単に名称が変更されるのではなく、内容的にも現状と大きな差異が生じるという状況です。
 差異を生じる大きな要因は、日本の会計基準との基本的な考え方の違いにあります。例えばIFRSの大きな特徴といえるのが、これまで日本の会計基準で適用されてきた細則主義と対極にある「原則主義」です。
 原則主義とは、基本的な考え方として原理原則のみを規定するもの。細かい規定や基準となる数値が提示されないため、各企業は主体的に自社の経営実態に即して判断し、対応方針を決定していかなければなりません。
 また、株式市場や投資家の視点を重視するIFRSを特徴付けるのが資産負債アプローチと呼ばれるもの。具体的には、日本の会計基準に基づき作成している損益計算書にある収益・費用より、資産・負債を優先するというアプローチです。例えば利益という指標として、これまで日本では、収益と費用に基づく当期純利益を利用してきましたが、IFRSが求めるのは、当期純利益に土地や有価証券の評価などによって今後発生する利益も加えた包括利益。ベースにあるのは現状より、将来的な価値を左右する情報を重視するという考え方です。
 こうしたIFRSの基本的な考え方や概念をまとめたものが、通称「概念フレームワーク」ともいわれる「財務諸表の作成および表示に関するフレームワーク」で、財務諸表の目的や前提事項、特性などで構成されます。例えば、財務諸表の質的特性には、理解可能性(Understandability)、比較可能性(Comparability)、目的適合性(Relevance)、信頼性(Reliability)という4つの特性が記載されています。
 概念フレームワークは、すぐに理解するのは困難だと言われていますが、細かい規定や数値基準のないIFRSを理解するうえで非常に重要だという指摘が多くあります。IFRSの適用に向け、企業はIFRSの会計基準と合わせて理解を深めていく必要があります。

説明図

IFRS(IFRSs)を構成する会計基準と解釈指針

アドプションとコンバージェンスの観点から
IFRS適用による影響を見極める

 IFRSを巡る議論では、“アドプション(Adoption)”と“コンバージェンス(Convergence)”という用語が頻繁に登場します。採用や適用を意味するアドプションとは、日本の会計基準を全面的にIFRSへと切り替えること、また従来の細則主義から原則主義に移行し、IFRSが求める財務諸表を作成・開示していくことを指します。
 このアドプションが日本企業の会計処理や経営に大きな影響を及ぼすことは確かですが、早ければ2015年というIFRSのアドプションは、従来とは全く異なる新しい会計基準に置き換わることを意味しているわけではありません。日本でも、会計基準を世界で共通化する有用性には賛同の意を表明。“会計ビッグバン”と言われる2000年以降、IFRSとの差異を解消するコンバージェンス(収斂)を進めてきたという経緯があります。
 コンバージェンスの流れにおいて具体的に進められてきたのは、例えば固定資産の減損処理、ストックオプション取引、リース取引などに対応した個別会計基準の新設や改訂があります。この流れは現在も継続しており、2010年4月以降に開始される事業年度からは、「セグメント情報等の開示に関する会計基準」、「資産除去債務に関する会計基準」、「棚卸資産の評価に関する会計基準」、「企業結合に関する会計基準」などの適用が開始されています。
 「セグメント情報等の開示に関する会計基準」では、製品別や顧客別、組織別など、何が利益に貢献しているかを明確にできるセグメントに区分する“マネジメントアプローチ”が採用されました。これにより、企業は事業の実態に即して、利害関係者が意思決定に生かせる情報提供という観点からの対応に迫られることになりました。
 また、「資産除去債務に関する会計基準」が求めるのは、資産取得時の価格だけではなく、将来売却した際の費用も見積もっておくこと。企業は、将来発生することが見込まれる費用を、現時点の負債として計上しなければなりません。
 企業には、こうしたアドプションとコンバージェンスという両方の観点から、自社の業務や情報システムを対応させていくアプローチが求められています。いずれも対応が必要な範囲は会計処理にとどまらず、広範囲に及びます。こうしたIFRSを巡る動向を注視ながら、自社の実態に即してIFRSの影響を見極め、的確な取り組みを進めていく必要があります。

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