メルトピア

経営基盤を強化するIT戦略

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  • エキスパートインタビュー

  • 経営基盤を強化するIT戦略
  • 2010年 8・9月号(No.159)
  • 経営的な視点から全社で効果を最大化することを重視して
    IFRSを読み解く力を養う

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日本マネジメント総合研究所 理事長
戸村 智憲氏

日本では、早ければ2015年に強制適用の可能性があるIFRS (International Financial Reporting Standard)。すでに多くの企業が、その対応に向けた活動に着手しています。“原則主義”や“包括利益”、“収益認識基準”などをキーワードに、従来の会計基準が大きく変わるという理解は浸透しているものの、IFRS適用にあたり企業経営や情報システムへの影響をどのように把握すればよいのでしょうか。今回は、経営的な視点からIFRSを読み解く“IFRSインパクトマップ”を提唱する戸村氏に、IFRS対応で求められる基本的な考え方や情報システム部門に必要な取り組みについて伺いました。

戸村 智憲(とむら・とものり)氏プロフィール
早稲田大学卒業。米国MBA修了(全米優秀大学院生受賞:トップ0.5%の院生が受賞)。国連勤務にて国連内部監査業務ミッション・エキスパート、国連戦略立案ミッション・エキスパート・リーダーなどを担当。その後、民間企業に転出し、企業役員(監査統括)、岡山大学大学院非常勤講師などを経て現職。公認不正検査士(CFE)を取得しコンサルタントを指導するコンサルタントとしても活躍。(財)財務会計基準機構(FASF)会員、(社)日本取締役協会会員、日本リスクマネジメント学会会員、産業能率大学兼任講師、内部統制・コンプライアンス推進協議会顧問、JA長野中央会顧問などとして実務にあたるほか、産学ともに幅広い活動を行っている。著書に『IFRSリテラシー』、『経営偽装』、『ワンランクUPするための戦略脳のつくり方』など。
詳細:http://www.jmri.jp (新しいウインドウが開きます)

IFRS対応の第一歩は
“細則主義依存体質”からの脱却

 「IFRS対応においては、まず、“経営の実態に即して〜だ”という考え方を常に意識しておくことが重要です。例えば日本の税法に沿って一定年度の減価償却期間を適用していても、12年間使っているという“実態”があれば、“12年での会計処理が妥当だ”と経営の実態から判断することが必要になります。ところが、こうした経営実態に即した、全社の様々なプロセスに及ぶIFRSの影響を、会計制度としての各論・詳説だけでは経営判断に活かすことは困難です。そこでIFRSを経営的な視点から読み解くヒントを提供するために、ビジネスのどの時点で、どのような組織に影響を及ぼすかを俯瞰した“IFRSインパクトマップ”を提唱・公開しました」
 戸村氏が提唱・公開したIFRSインパクトマップとは、ハーバード大学のマイケル・ポーター教授が提唱したバリューチェーン上にIFRSの影響をマッピングしたものです。自社が展開するビジネスの実態に即して、購買から製造、出荷、アフターサービスなどの直接部門や間接部門での対応のポイント例を明確化できることが大きな特徴です。
 戸村氏は、IFRSを単なる会計制度の個別最適化と捉えるのではなく、全社でIFRS対応の効果を全体最適化で最大化するという視点が必要になると説いています。IFRSの影響は財務部門に加え、営業部門や人事部門、研究開発部門など、広範囲の組織に及びます。
 「IFRSは、例えば一見無関係にも思えるワークライフバランスを推進する追い風になります。具体的には、従業員の有給休暇消化率が低ければ、有給休暇未消化分の有給分がそっくりそのまま財務の赤字要因・負債となります。IFRSで良い財務報告ができるようにするうえでは、会計だけの個別に閉じた話ではなく、人事的な職務権限の見直しなども含めて、有給休暇を取得しやすい環境を整備するなど、リスクという視点から部門横断的に全体最適、企業全体の効果を最大化していく取り組みが必要です」
 こうした、全社的な視点からIFRSへと舵を切るうえで戸村氏が懸念するのが、IFRSの大きな特徴である“原則主義”のメリットを阻害する方向に進んでしまう企業の取り組み。戸村氏はIFRS対応にあたり、従来の“細則主義”からの脱却が不可欠だと注意を促しています。
 「原則主義のベースにあるのは、各企業がコーポレート・ガバナンスを機能させ運営する経済活動の自由度を高めるという考え方です。ところが、せっかく『法治国家』内における『自治領』たる企業の『自治権』(経営裁量等)を拡大できる原則主義にも関わらず、従来のように『お上から言われたままに従えば良い』という規則・細則に従うという考え方から脱却できずに、コピー&ペーストで使えるテンプレートや模範解答を求めてしまう企業が少なくありません。こうした“IFRSという自由からの逃走”ではなく、原則主義の原則主義たる、自社が主体的に、自律的に、自治的に経営実態に即して会計処理ルールを作りそのルールを守り合うという考え方を進め、自社に即したIFRSを運用していくことが必要です」

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IFRS対応の勘所をつかむ
早期からの情報システム部門の参画

 原則主義に則った主体的な取り組みが求められるIFRS対応。戸村氏は、監査法人や専門家に対する質問の仕方も成否を分けるポイントになると指摘します。
 「“この通りにしてください”という受け身で済む回答が得られないのが原則主義の特徴です。従来のような“どうすればいいですか?”というオープンクエスチョンは避けるべきでしょう。具体的には、この経営実態に対する会計処理や会計基準に照らして、この処理・対策に着手する対応の仕方で良いです“よね?”というクローズド・クエスチョンで監査法人対応していきます。監査法人等への質問の語尾にひらがなたった2文字『よ』と『ね』をつけるようにしていきます。これを私は『“よね”アプローチ』と呼んでいます。事前にヒアリング等による調査を通じて経営の実態を把握し、能動的に論拠を立てて質問していくことがIFRS対応成功へのポイントです」
 親会社のIFRS適用に伴う連結決算対応については、戸村氏によると、次の3つのパターンに分類されることになります。@子会社が日本基準(あるいは各国基準)で親会社が連結で子会社の財務情報をIFRS変換する、A子会社が日本基準での財務報告をIFRS変換して親会社に連結決算用情報を届ける、B親会社も子会社もIFRS適用で、連単ともにIFRSで統一する(その後、子会社が必要に応じ各国基準の財務変換する)。企業は選択したパターンに応じて、情報システムの構築や活用の方針を見極めていく必要があるということです。
 戸村氏の提唱するIFRSインパクトマップを参照すると、広範囲の情報システムに影響が及び、対応が必要になることも明らかです。戸村氏は、IFRS対応のプロジェクトに早い段階から情報システム部門が参画することが不可欠だと訴えており、最後に次のように話してくれました。
 「IFRS対応の難しさの1つに“ムービングターゲット”ということがあります。言ってみれば、IFRSというフラフラ揺れるナックルボールが魔球として投げ込まれるようなものです。本番に備え、早くナックルボール打ちの練習をする、つまり、ムービングターゲットへの適応法を身につけておくことが重要です。とかく後々になって一気にしわ寄せのくる情報システム部門のメンバーは、ERP構築以上に全社に経営上の影響を及ぼすIFRS対応に早期に参画し、各部門と連携を密にし、IFRSの勘所をつかんでおくことが重要になります。情報システム部門には、IFRSを暗記するのではなく、財務部門などと相談しながら一緒に取り組む「伴走」の姿勢を大事にすると良いでしょう。IFRSを読み解く“IFRSリテラシー”を身につけて、各部門からの各種変更要求を情報システムに反映できる力、落としどころを見極める力を養うことが重要です」

説明図

IFRSインパクトマップ(一例)
出典:戸村 智憲 氏

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