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経営基盤を強化するIT戦略

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  • エキスパートインタビュー

  • 経営基盤を強化するIT戦略
  • 2010年 10月号(No.160)
  • ICカードと中継DBで実現する個人情報へのセキュアなアクセスと
    利用者の利便性向上

人物写真

国立大学法人 東京工業大学 像情報工学研究所
教授 工学博士 大山 永昭氏

個人情報保護の重要性がますます高まる現在、「自分自身の情報に安全にアクセスすることが可能で、保険証等の資格確認や記録の間違い等を発見・訂正できる」ことは非常に大切なことです。医療や年金などの社会保障分野では、こうした仕組みの整備が進められています。これが2007年から検討が開始され、2009年に中間報告がまとめられた社会保障カード構想です。
わが国で求められている個人情報を扱う社会インフラをICカードや中継データベース(中継DB)でいかに実現するか。厚生労働省が主催した「社会保障カード(仮称)の在り方に関する検討会」の座長を務めた東京工業大学教授の大山永昭氏に伺いました。

大山 永昭(おおやま・ながあき)氏プロフィール
1982年東京工業大学 大学院総合理工学研究科 物理情報工学専攻 博士課程修了を経て、現職は東京工業大学 像情報工学研究所 教授。厚生労働省「医療情報ネットワーク基盤検討会」座長、総務省「政府情報システムの整備の在り方に関する研究会」座長、社会保険庁「日本年金機構設立委員会」委員、厚生労働省「社会保障カード(仮称)検討会」座長など要職を歴任。2010年文部科学大臣表彰 科学技術賞(研究部門)を受賞。
URL:http://www.isl.titech.ac.jp/~yamalab/index-j.html (新しいウインドウが開きます)

国民、行政、医療機関のすべてに
メリットがある仕組みの確立へ

 「社会保障カード構想の背景には、少子高齢化があります。働く人が少なくなって歳入が減る一方、社会保障費は増える。こうしたことから、社会保障サービスの提供に要する事務手続き等の効率化が求められます。その取り組みの1つとして打ち出されたのがレセプト(診療報酬明細書)のオンライン化です。2005年当時で、記載の不備等により年間約900万件の返戻(レセプトの記載内容等に不備があり、審査支払基金等から差し戻されること)があったわけですが、その主たる原因は、健康保険証の有効期限の未確認や被保険者番号、氏名等の転記ミスでした。そこで検討されたのが、健康保険証におけるICカードの活用です」
 大山氏は、これまで紙ベースで行われてきた日本の医療事務がオンライン化され、ICカードの導入が検討されるようになった経緯を語ります。また、年金については、記録を確認するための「ねんきん特別便」等が約1億人に送付され、多額のコストがかかっています。こうしたことにより年金記録についても、1枚のICカードで管理する構想へとつながっていきます。
 「しかし、社会保障カードは、行政や医療機関の業務を効率化するだけのものではありません。国民にも大きなメリットがあります。例えば転職や退職により保険組合が変わる場合に、その手続きを忘れる人がいます。電子的に管理する仕組みがあれば、行政から行うべき手続きの内容を含め、確実に通知できるようになります。また過去の特定検診などの記録が蓄積され、シームレスな地域連携医療ができるようになれば、IT戦略本部が打ち出している『どこでもMY病院』構想が実現できます。年金記録はもちろん、保健医療情報についても、自分の情報を確認し、健康増進や最適な治療等に活用できます。それが個人情報を保護し、自らが自分の情報を活用することの基本です」

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ICカードと中継DBで
セキュリティーを確保

 社会保障カード構想を実現するにあたり、ポイントとなるのは、分散管理されている個人情報を本人が自ら安全にアクセスできる、電子的な仕組みを構築することだと、大山氏は指摘します。例えばカードを落とした場合、不正使用されたり、個人情報を見られたりする可能性が極めて少ない仕組みとは、どのようなものでしょうか。
 「銀行キャッシュカードやクレジットカード、さらにパスポートにも搭載されるようになったICチップを使用します。チップ内の秘匿情報を無理やり読み出そうとすると、壊れる仕組みになっています。社会保障カードの場合、年金や健康保険の情報は含まれていません。そのカードを使っているのが本人であることを認証するための秘密の鍵が記録されています。その鍵を使いセキュアな本人認証を行います。そして、高度なID連携技術を用いることにより、中継DBで利用者からの要求を的確に振り分け、目的とする情報へのアクセスを実現します」
 社会保障カードでは、その他にもセキュリティーに実用上十分な配慮がなされています。例えば、暗証番号を3回間違えると利用不可とする仕組みがあります。ICカードは失敗履歴をチップ内に記録できるので、場所を変えても累計3回で使用不可にできます。さらに、紛失したことに気づいて届け出れば、すぐにカードを無効にすることができます。
 このようにセキュリティーに配慮された社会保障カードが普及するためのポイントについて大山氏は次のように語ります。
 「提供すべき人に漏れなく、しかも重複なくカードを発行することです。ところが、社会保障分野にはカード配付に必要なデータベースがありません。そこで考えられるのが住民基本台帳(住基)です。しかも、平成24年7月から社会保障の対象である外国籍の人も『外国人住民』として住基に載ることが決定しています。すでに住基カードという仕組みができているわけですから、住基カード発行済みの人は、すぐに社会保障関連のサービスが受けられるようにする仕組みも検討してきました」
 普及のためのもう1つのポイントは、アクセス方法の多様化です。例えばパソコンを持たない人が、どのようにして自分の記録を確認できるようにするか。解決策の一例としては、地上波デジタルテレビの活用が有望です。

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次のステップとして想定される
より幅広い分野での情報活用

 医療機関や保険者等が個別管理している国民の情報に、本人が安全にアクセスできるようになれば、その次のステップとして検討すべき点は、こうした仕組みを通じて情報をより上手く活用することです。
 「よく銀行口座になぞらえて話をするのですが、私たちは必要に応じて口座を開設し、そこを経由して取引をします。どこにいくら支払うかを決め、その履歴や残高を確認しています。つまり、お金のフローをコントロールするのが、銀行口座の大きな役割の1つです。同じように、個人情報のフローをコントロールするのが、電子私書箱という考え方です。例えば、過去の健康診断の記録を時系列で管理して、必要に応じて医療機関に提示すれば、最適な医療サービスの提供に資すると期待されます。これまで電子私書箱は公的サービスとして検討されてきました。将来的には、民間セクターがサービス提供することも考えられます。どちらにしても、個人情報の開示方法や情報アクセスの管理、情報の高度利用、電子私書箱サービスを成立させるための要件などの議論が不可欠です」
 最後に大山氏は、社会保障カードが本当に普及するためには、利用者が「使って便利」と感じることだと話してくれました。
 「そのためにはナビゲーションとコンシェルジュが有望と考えています。自治体などに何か申請を行った場合、必要な証明書などの情報を伝え、手続きの手順を導くのがナビゲーションです。一方、諸手続を包括的に依頼できる、システム上の代行人がコンシェルジュという仕掛けです。例えば入院保険の受給には医師の証明書が必要になりますが、その手続きをオンライン化できれば利便性は大きく高まります。このように、社会保障カードが社会保障サービスに加えて、行政などにおける手続きを極力減らすための仕組みなど、より幅広い分野で役立つとなれば普及が加速していくと思います」

説明図

中継DBを活用した将来構想。ナビゲーション、コンシェルジュの機能を
提供するサーバと連携することで、電子私書箱へと発展する

出典: 大山永昭氏

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