メルトピア

経営基盤を強化するIT戦略

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  • エキスパートインタビュー

  • 経営基盤を強化するIT戦略
  • 2010年 12月号(No.162)
  • BABOK®を活用したビジネスアナリシスで超上流工程をマネジメントし
    企業をあるべき姿に変える

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株式会社アイ・ティ・イノベーション
代表取締役 林 衛氏

「業務の効率化」から「経営戦略の実現」に、その役割がシフトしつつあるITの活用。経営戦略を支えるITシステムを構築するためには、自社の課題を正しく分析し、あるべき姿に変えていくための明確な道筋を示すことが重要です。そこで注目されているのが、ビジネスアナリシス(BA)を知識体系としてまとめたBABOK®です。その活用ポイントについて、プロジェクトマネジメント、IT戦略策定、IT組織変革におけるコンサルティングで豊富な経験を持つ林衛氏に伺いました。

林 衛(はやし・まもる)氏プロフィール
名古屋工業大学非常勤講師。1955年生まれ、名古屋大学工学部応用物理学科卒業。ソフトウェア開発、方法論とCASEの開発適用に従事し、モデルベース開発方法論(DOA、OO手法)を多くの企業に導入する。その後、ジェームスマーチン・アンド・カンパニー・ジャパン株式会社においてユーザ系企業、SI企業へのIT戦略コンサルティング、革新的なIT方法論の普及、適用を行う。2005年からインド政府機関のIT教育プログラムを活用した日本のIT技術者向けのソフトウェア・エンジニアリング教育に取り組んでいる。著書に「情のプロジェクト力学 〜人を中心に考える最強マネジメント論〜」(実業之日本社)
URL:http://www.it-innovation.co.jp/ (新しいウインドウが開きます)

企業をあるべき姿に導く
BAの用語、概念の標準化

 「BABOK®が注目されるようになった背景には、リーマンショック以後の厳しい経済環境において、企業のビジネスが構造変化を余儀なくされていることがあります。その中で、企業のIT投資は抑制される一方、IT部門にはより高いビジネス価値の創出が求められています。ITプロジェクトを成功に導くPM(Project Management)は、すでに浸透・定着してきましたが、これからはより質を高めるため、プロジェクトのライフサイクルにおける超上流にも注力して取り組まなくてはなりません。そこで求められるのがBAであり、その知識体系としてまとめられたのがBABOK®です」
 林氏はBABOK®の注目すべきポイントとして、まず用語の意味や概念の統一、標準化を挙げます。その結果、国内・海外を問わず、BABOK®を理解している担当間では定義をすり合わせる手間がなくなり、共通言語によってスムーズな意思疎通が図れます。
 「英語のRequirementには、類似の用語としてDemandがあります。日本語では一般に要求や要件、要望などと訳されますが、BAでいう要求とソフトウェア開発のライフサイクルにおいて定義される要件は同じではありません。そのため、混乱、混同が起きてしまう。そこでBABOK®ではBAの要求をRequirementに統一し、現状の姿(As Is)とあるべき姿(To Be)のギャップを埋めるための目標達成や問題解決に必要な能力や条件と定義しました。そこには業務要求とシステム要求が含まれています。その日本語訳も、“要求”に統一されています」
 要求を明確化する作業に続けて行うのが、課題解決のためのソリューションの提案です。BABOK®が定義するソリューションとは、一般的に用いられるITベンダーがユーザ企業に提案するソリューションとは、その概念が異なります。
 「企業の現状の姿をあるべき姿に変えるため、必要な複数の変革の組み合わせがBABOK®におけるソリューションです。BABOK®では、個々のソフトウェア、アウトソーシング、業務プロセスなどの要素はソリューション・コンポーネントと呼びます。さらに必要に応じてガバナンス規準、組織役割分担、運用教育などもコンポーネントとして加え、すべてをセットにすることで変革を実現します」

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幅広い適用が可能なBABOK®
活用にあたり“工夫”も必要

 BAの知識体系としてまとめられているBABOK®を効果的に活用するには、工夫が必要だと林氏は指摘します。BABOK®が定義する知識エリアには、分析や解決策の選定において、実行を検討すべきタスクが並べられています。例えば「ビジネスアナリシスの計画とモニタリング」というエリアの場合、「ビジネスアナリシスへのアプローチを計画する」、「ステークホルダーの分析を主導する」、「ビジネスアナリシスのコミュニケーションを計画する」と記述されています。
 「これらのタスクは、順番に実施すれば有効なBAが可能になるプロセスを示しているように見えます。しかし、幅広いビジネスを対象にするBABOK®では、1つひとつの工程よりもやや高い視点で構成されています。そのため、具体的なタスクにおける適用の範囲の切り分けは利用者に任されていて、そこでは経験や知見に基づいた工夫が必要になります。BABOK®の知識エリアとタスクは、分析を行う専門家であるビジネスアナリストが、どういう領域を対象に、どのような仕事をするのかを整理したフレームワークであると理解するといいでしょう」
 BABOK®は知識体系であり、ビジネス分析の原理原則です。実務に活用するためには、状況に応じたプロセスを定義する必要があります。林氏は次のように語ります。
 「私どもは従来から超上流工程(IT構想・企画)におけるプロセスを体系化した方法論を提供していますが、そこにBABOK®のエッセンスを取り込みました。IT構想・企画では、1.要求の取りまとめ(why)、2.業務・システムの概要定義(What)、3.実現シナリオの策定(How)の3段階のプロセスがあります。そこで、BABOK®を実務に即した形で活用するためには、ケーススタディなどを通じて現場力を身につけことが近道だと思います」

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成功事例を積み上げることで
BABOK®適用の効果が加速

 ビジネス価値を生み出すプロジェクト活動の前提となるのは、ビジネス分析の質です。北米企業では専任のビジネスアナリストや、BAとPMを兼務する担当者が増えていますが、日本国内ではこうした肩書きを持つ人はまだ多くありません。
 「BABOK®の有用性は徐々に理解されてきています。これを活用し、定着させるためには、最初は限定的な範囲からでもBABOK®適用の成功事例を作ることです。例えば業務全体ではなく、1つの物流システムの再構築にBABOK®における知識エリアやタスクのやり方を活用する。最初は2ヵ月程度で終了するようなプロジェクトで、企画や要件定義の段階で適用してみることでもかまいません。成功事例が2〜3パターンできると、その後は導入が加速します。なぜならBABOK®に従って整合性や用語の定義、構造まで踏み込み、まとめることで、従来よりも格段と質の高い成果が得られることが明確になるためです。ビジネス分析を行い、IT構想・企画担当がBABOK®を身につけ、提案できるようになれば、企業を変革するITプロジェクトが実現していくに違いありません」

説明図

IT構想・企画にBABOK®を活用する
出典:株式会社アイ・ティ・イノベーション

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