メルトピア

経営基盤を強化するIT戦略

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  • エキスパートインタビュー

  • 経営基盤を強化するIT戦略
  • 2012年 3月号(No.174)
  • 創意工夫を生み出す継続的改善活動が他社に真似のできない
    強い現場力を生み出す

人物写真

早稲田大学ビジネススクール教授
株式会社 ローランド・ベルガー会長
遠藤 功 氏

海外企業に対して、経営上の競争優位と位置づけられる日本企業の“現場力”。この現場力を強化し、組織目標の達成に向けた付加価値を創出していくためには、どのような取り組みが求められるのでしょうか。今回は、戦略コンサルタントとして豊富な経験を有し、2000年代半ばから“現場力”や“見える化”の重要性や有効性を提言する遠藤氏に、日本企業がグローバル競争を勝ち抜くポイントを中心に伺いました。

遠藤 功(えんどう・いさお)氏プロフィール
早稲田大学ビジネススクール教授、株式会社 ローランド・ベルガー会長。
早稲田大学商学部卒業。米国ボストンカレッジ経営学修士(MBA)。三菱電機株式会社、米系戦略コンサルティング会社を経て、現職。早稲田大学ビジネススクールでは、経営戦略論、オペレーション戦略論を担当し、現場力の実践的研究を行っている。また、欧州系最大の戦略コンサルティング・ファームであるローランド・ベルガーの日本法人会長として、経営コンサルティングにも従事。戦略策定のみならず実行支援を伴った「結果の出る」コンサルティングとして高い評価を得ている。株式会社良品計画社外取締役。カラーズ・ビジネス・カレッジ学長。中国・長江商学院客員教授。
主な著書に『現場力を鍛える』『見える化』『ねばちっこい経営』 (いずれも東洋経済新報社)、『MBAオペレーション戦略』(ダイヤモンド社)、『企業経営入門』(日本経済新聞出版社)など。
URL:http://www.isaoendo.com (新しいウインドウが開きます)

“平時の現場力”の積み重ねが
他社にない付加価値を生み出す

 「従業員を単なる労働力、コストセンターではなく、バリューセンターと位置づけるのが現場力の基本的な考え方です。つまり、従業員をリスペクトしながら、現場で働く1人ひとりの能力、アイデアや知恵を最大限に引き出していくことで、独自の優位性の源泉となる価値を生み出す。経営者がこのような意識を持ち、環境や仕組み作りの努力をしているかどうかが問われます。“当社の現場は……”と嘆くだけではなく、育てる、皆で作るという意識で取り組むことが重要です。現場力とはボトムアップの動きですが、トップダウンで経営者が本気で取り組まなければ生まれてこないことを、まず理解する必要があるでしょう」
 遠藤氏はまず、現場力が自然発生的に生まれるものではない点を強調します。現場力の起点となるのは、従業員1人ひとりの高い当事者意識。ルーティンワークの繰り返しだけではなく、組織目標の達成や経営戦略の実現に何が必要かを自ら考え、日々取り組む活動が、大きな価値につながっていくということです。
 「平凡の連続性の中に非凡が生まれてきます。これが日本固有の現場力であり、大きな強みです。仮に立派な経営戦略を策定したとしても、現場での継続的な試行錯誤、経営者との切磋琢磨を通じた改善活動がなければ、グローバルで戦える品質向上やコストダウンは実現できません。つまり日本の企業では、経営戦略と現場力が不可分の関係となり、競争優位を築き上げてきました。特に重要なことは、自然災害への対応に代表される“有事における現場力”ではなく、日々改善を積み重ねることで大きな力になる“平時の現場力”です。これを理解した企業が、実際に他社が簡単に真似のできない、非常に大きな価値を生み出しています」
 東日本大震災からの復旧活動では、日本企業の現場の力が再認識されましたが、これは有事の現場力。遠藤氏によれば、平時の現場力の違いが、被害の大きさや復旧のスピードに大きな違いとなって表れたといいます。
 「グローバル進出する企業は確実に増加していますが、人材の能力を最大限に生かし切れていないケースが少なくありません。その大きな要因に、現場へのリスペクトが弱まっている状況があります。現在は、グローバルで戦うことの意味を再考すべき良いタイミングではないでしょうか。過去20年間ほどを振り返り、日本的な良さやIT活用のあり方をもう一度考え直す。その際に、日本独自ともいうべき、人や現場に対する考え方を最大限に生かし、取り入れていくことが必要だと思います」
 また、日本企業に固有の特性に着目するという考え方にとどまらず、現場力の重視は、企業に必須の取り組みでもあります。なぜならば、日本企業の競争優位は高付加価値を顧客に提供する点にあるからです。
 「製造業に加え流通業やサービス業でも、経営者から見た現場は、顧客に最も近い場所にいます。つまり、企業内で最も顧客をよく理解しているのが現場であり、彼らのアイデアや知恵を生かすことは、顧客の声に応えることにつながります。逆に言えば、それを無視してしまうと、顧客に対する価値を提供できません。業務のオペレーションやIT活用のあり方も含め、原点に回帰するという発想が必要ではないでしょうか」

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組織で働くことの意味を再考し
IT活用のあり方を見極める

 遠藤氏が再考すべきだと指摘するIT活用のあり方。その代表的な例に“見える化”があります。
 「“見える化”とはジャストイン・タイム、必要な情報を、必要な時に、必要な量だけ見えるようにすることです。ところが現状では、闇雲に“見える化”の対象範囲を拡大しすぎた結果、逆に何も見えなくなっているケースが散見されます。本来の“見える化”は、使う側が情報を絞り込む必要があり、どの情報を“見える化”すべきかという判断は、現場でしかできないものです。この発想があれば、情報の洪水という壁を乗り越え、ツールとして上手く使いこなすことができるはずです」
 遠藤氏が“見える化”で推奨するのは、「見える化→伝わる化→つなぐ化→粘る化」という改善サイクルの確立。人間系も含めた、組織横断的な取り組みです。
 「“見える化”のゴールは、組織としての問題解決力を高めることです。ところが多くの場合、問題は一個人や一部門だけでは解決できません。そこで組織横断や機能横断を加速するために、伝わる、つなぐといった活動が必要になります。情報を単純に見えるようにするのではなく、皆がつながった状況で問題解決をしていく活動にしなければ意味がありません。その実現に向けては、10年単位で取り組む覚悟、“粘る化”も重要な要素だと思います」
 遠藤氏は“見える化”も含め、ITに振り回されている“IT中毒”から脱却する“IT断食”を推奨しています。ここに込められているのは、ITそのものの否定ではなく、本当に役立つ活用方法を再考すべきだというメッセージです。これは組織で働くことの意味を再考することでもあります。
 「ITは過度に便利なツールであり、手抜きのためのツールになっている状況に危惧を感じています。本来、現場は大勢の人が集まる場であり、面倒くささややっかいさがつきものです。この面倒くさい、やっかいという状況の中からしか、いいものは生まれてこないし、組織力を高めることができません。ところが、例えばコミュニケーションはすべてメールで済ますことが当たり前という現状を見ると、組織で働くことの意味が忘れられているような気がしてなりません。そこで一度“断食”をして、ITをどのような場面で使うと効果的なのか、価値があるのかを日本流に咀嚼し、考え直す時期にきているのではないでしょうか」

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説明図

経営を構成する2つのピラミッド
出典:株式会社 ローランド・ベルガー

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