メルトピア

経営基盤を強化するIT戦略

三菱電機メルトピア。様々な事例がご覧いただけます。

  • 巻頭特集

  • 経営基盤を強化するIT戦略
  • 2013年 3月号(No.184)
  • “ものづくり”企業に求められる
    新たな価値創出と市場創造に不可欠なものの見方と考え方

製品やサービスを含めた“ものづくり”を推進する企業にとって、ビジネスの成否を大きく左右する要因の1つに、消費者や顧客が魅力を感じる価値創出を挙げることができます。ところが、多くの企業が新商品を開発するにあたり、顧客志向を重視した価値創出を目指すものの、市場をリードできる画期的な商品は容易に生まれるわけではありません。そこで今回は、新たな価値創出と市場創造に必要な考え方や取り組みについて考えてみましょう。

技術的優位が競争優位に直結しない状況で
改めて認識される新市場創造の重要性

 円高や原料価格の高騰、新興国の台頭による価格競争の激化などを背景に、利益の確保が困難な状況に直面する企業が相次ぐ日本のものづくり。価格を下げても売れない商品がある一方で、高額であっても売れる商品があるという状況を踏まえ、多くの企業が競争優位の確保やブランド力向上につながる新たな価値創造、特に市場創造の重要性に着目しています。
 日本経済新聞社が国内主要企業を対象に四半期ごとに実施している社長100人アンケート(2012年12月24日発表)によると、「2013年の主な経営課題」では、「新興国など海外事業の拡大」に次いで、「新規の製品やサービス分野の開拓」という回答が約6割。アジアを中心とした新興国で急増する中間層*を取り込むことで事業拡大を図りながら、次の収益の柱となる新たな商品開発を進めようという姿勢が読み取れます。
 こうした新商品開発の成否を左右する大きな要因が、消費者や顧客が魅力を感じる価値の創造であることはいうまでもありません。すでに「消費者のニーズは“モノからコト”へのシフトが加速」「新たな娯楽体験の提供がカギ」といった分析や提言も相次いでいます。商品そのものではなく、商品に付随した新たな体験や満足感を提供する新たな市場の創造を、多くのものづくり企業が模索している状況だといえます。
 もちろん価値創造や市場創造の重要性が指摘されるようになったのは最近のことではありません。例えばかなり以前から、企業経営の重要なキーワードの1つに“イノベーション”が位置付けられてきました。日本では“技術革新”と訳されることが多いため、技術そのものに焦点が当てられることも多いようですが、本来はソニーのウォークマンのように、これまでなかった新たな市場をつくり出し、消費者の行動や習慣までも大きく変えてしまうような革新や発明という意味が含まれています。技術の商品化・事業化に主眼を置いた経営学の“MOT(Management of Technology)”では、革新的な技術・商品の開発と社会で受け入れられる価値の創出が、ものづくり企業の経営を支える両輪と位置づけられてきました。
 最近になり、改めて新たな市場を創造する価値に焦点が当てられている背景には技術志向の製品開発、機能や性能、品質などに軸足を置きすぎた戦略に対する課題認識があります。例えば経済産業省・厚生労働省・文部科学省が2012年6月に発表した『2012年版ものづくり白書(ものづくり基盤技術振興基本法第8条に基づく年次報告)』では、「我が国のものづくり企業は、いま一度「誰のためのものづくりか」という問いかけを起点に、各企業が有するリソースを最大活用することが求められている」と提言。価値創造を起点とした戦略への転換をものづくり企業に促しています。
 また、同白書では、製造業におけるデジタル化・モジュール化の進展により、「一定の品質のものづくりが容易にできるようになり、単なるものづくりから得られる付加価値が低下した」「技術優位が競争優位に直結しない」という現状認識を提示。アップルのように「単なるものづくり以外の領域から付加価値を創出することを志向する企業」の成功例が、「我が国ものづくり産業が目指すべき方向性について一定の示唆を与える」としています。

*経済産業省では、年間の家計所得が5,000〜1万5,000ドルを下位中間層、1万5,000〜3万5,000ドルを上位中間層と定義。

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“新しい問題開発”が
市場創造の出発点

 それでは、企業が新たな市場を創造するような製品やサービスを開発するには、何がポイントになるのでしょうか。これまで多くの企業が重視してきたことは顧客志向の徹底です。つまり顧客の声に耳を傾け、顧客の立場からコンセプトを立案し、商品を開発するという考え方。具体的には、企画やマーケティング部門がアンケートやヒアリングといった綿密なリサーチを実施してニーズを分析し、商品に反映させるアプローチだといえるでしょう。
 ところが、新たな市場創造につながる商品は、まだこの世の中に存在していないため、明確なニーズとして把握することは困難です。例えばアンケートで「どのような商品があればいいと思いますか」といった質問を投げかけても、具体的な商品をイメージできるような回答は望めません。
 今回のエキスパートインタビューにご登場いただいた三宅秀道氏は、著書『新しい市場のつくりかた』で、「新しい市場をつくるという行為は否応なしに、新しい文化をデザインすることと同義」だと指摘しています。「その第一歩として、商品が解決する問題そのものの開発」に着目すべきだと述べています。
 ここでいう“商品が解決する問題そのもの”とは、「つくれるかつくれないか」、商品が何らかのことを「できるかできないか」ではなく、「どんなくらしがしあわせか、そのためには商品で何ができることをよしとするか」ということ。例えば、まだ洗濯機が世の中にない時代に、「冷たい水に手を触れずに洗濯ができたらいいな」というのが問題そのものということになります。
 三宅氏が強調しているのは、「商品の価値は認識に依存する」ものであり、「生活者がお金を払うのは、ものではなく暮らしに対して」だと認識することです。企業には「生活者の今の暮らしにはまる商品を」を当てはめるのではなく、「生活者の新しい暮らしを作り出す商品」を考えて「暮らしを変えに行く」意図が必要です。
 「新市場の創造=新文化のデザイン」であることから企業に求められる取り組みが、機能強化や品質向上による既存製品の改善ではないことは明らかです。その出発点は、問題は発見するものではなく発明するものだという認識に基づく新しい問題の開発です。三宅氏によれば、新市場創造までには、次の4つのハードルを越える必要があります。
 @ 問題開発:何ができるようになることをよしとするかという「問題」の開発
 A 技術開発:「問題」の解決手段の開発
 B 環境開発:製品が利用されるインフラの整備
 C 認知開発:社会的な生活習慣としての定着

 これら4つのハードルと一連のプロセスをマネージメントすることで、企業は社会に価値を提供し、新しい市場を創造することが可能になります。

※本記事の一部は、エキスパートインタビューにご登場いただいた三宅秀道氏への取材および同氏の著書『新しい市場のつくりかた』(東洋経済新報社)の内容をベースに構成しました。

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資料

技術の強みで事業優位を保てる期間の変化(業種別)
出典: 『2012年版ものづくり白書(ものづくり基盤技術振興基本法第8条に基づく年次報告)』
(経済産業省・厚生労働省・文部科学省)

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