メルトピア

経営基盤を強化するIT戦略

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  • エキスパートインタビュー

  • 経営基盤を強化するIT戦略
  • 2013年 3月号(No.184)
  • 新市場創造のカギは価値創造=文化開発という認識に基づく
    問題開発と仕掛けのデザイン

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東海大学政治経済学部経営学科
専任講師
三宅 秀道 氏

新たな市場創造の実現に向けた取り組みには、従来の延長線上にあるものづくりから脱却する、大胆な発想転換が求められます。そのヒントはどこにあるのでしょうか。今回は、中小・ベンチャー企業を中心とした約1,000社を対象にした製品開発論の調査・研究に従事し、著書『新しい市場のつくりかた』で、価値創造を文化の開発だと定義する経営学者の三宅秀道氏に、ものづくり企業に求められるものの見方や考え方を中心に伺いました。

三宅 秀道(みやけ・ひでみち)氏プロフィール
1973年神戸出身。1996年早稲田大学商学部卒業。都庁文化研究所、東京都品川産業振興課などを経て、2007年早稲田大学大学院商学研究科博士後期課程単位取得、退学。東京大学大学院経済学研究科ものづくり経営研究センター特任研究員を経て、2010年より現職。専門は製品開発論、中小・ベンチャー企業論。これまでに大小約1,000社の事業組織を取材・研究。現在、企業・自治体・NPOとも共同で製品開発の調査やコンサルティングにも従事している。主な著書に『新しい市場のつくりかた』(東洋経済新報社、2012年)。

商品開発主体の創造性を損なう
事前決定論の罠

 「楽しい生活のイメージがひとの中に共通に存在する、あるいは決まった形のニーズが今は見えないだけで、あらかじめ存在しているという“事前決定論”の罠に、多くの企業が陥っているのではないでしょうか。つまり、人間を動物行動学的に見すぎているため、統計的な平均値を求めてしまい、各社が似たような商品を開発しがちです。もちろん商品を使用する生活者がどのように考えて行動しているかをリサーチすることは重要かつ有益なことですが、理詰めで最適解を探すだけでは、商品開発主体の創造性を大きく損ねてしまいます。新しい市場の創造では、生活者や顧客へ新しい理想を提案し、供給側と需要側のキャッチボールを通じて一緒に作り上げていくという考え方が必要です」
 三宅氏はまず、商品の価値は人の認識に依存する主観的で流動的なものであるという前提で、商品の企画に着手すべきだという点を強調します。顧客志向というと、“顧客の声の中に最適解がある”と思い込みがちですが、これではリサーチも商品の機能や性能に主眼を置いたものになりかねません。“機能=価値”ではなく、「どんなくらしがしあわせか、そのためには商品で何ができることをよしとするか」という文化の議論が何よりも先にあるはずだというのが三宅氏の考え方です。
 では、企業がこれまでに実施してきたアンケートに代表されるリサーチは、どのように見直すべきなのでしょうか。三宅氏はここで、サンプル数が多いほどよいという考え方を改め、企画や開発の担当者が深みを重視したヒアリングを実施すべきだと指摘します。
 「消費者さえ気づいていないことに開発者が先に気づくためには、消費者の暮らしに、消費者以上に詳しくなる必要があります。消費者が話したいことはもちろん、消費者が話したくないことまで雑談を通してうまく引き出すようにします。そこから汲み取ることの方が、選択肢の固定されたアンケートより圧倒的に大事です。定量ではなく定性、さらに定性的と認識する前段階までの事象をじっくりとインタビューができれば、サンプル数は3〜4人でも構わないはずです。担当者が人の語りから今まで知らなかったことを見出すヒアリング職人にならなければなりません」
 多くの企業は新商品の企画にあたり、需要や売上見込みなどを裏付ける具体的なデータを求める傾向があることは否めません。ところが、これだけでは過去の成功事例を踏襲するだけで、従来の延長線上にある考え方から脱却できないというわけです。
 「裏付けとなる数値が明確な科学的なアプローチを重視する企業も多いようですが、それだけで意思決定に十分な情報が既に揃っていると思うことが、誤った結論を出すためのアプローチではないでしょうか。データがないところではないとあきらめて、ないなりに工夫するしかありません。そのためには、企業自らが情報を発信し、それが消費者や顧客からフィードバックされて当初のモデル自体をグレードアップさせていく取り組みが必要です。持てるデータが少ないのであれば、少ないことを前提に、従来のモデルを信用しないほうが科学的に誠実だという認識が必要だと思います」

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定着プロセスまで含めて
仕掛けをデザインする

 それでは、どのようにすれば従来の意識や考え方を変革することができるのでしょうか。
 「自社で扱っている主力商品の歴史的ルーツを調べるというのも1つの方法だと思います。歴史的に見れば、それが最初に世の中に出たときには、文化開発の苦労をしているはずです。創業者や創業初期の開発担当者が手練手管をつくした仕掛けがあるからこそ今のビジネスが成り立っているという歴史が広く認識できれば、今の自分たちも同じように価値観の開発に取り組むべきだという意識に変革できるのではないでしょうか」
 三宅氏が推奨する文化開発という考え方は、少子高齢化、人口減という状況に直面する日本国内の市場にもまだ大きな可能性があることを示唆するものです。
 「世界も視野に入れることはもちろんですが、私は、それにつながる新しい市場を生み出す場として日本が最も適していると考えています。インフラも整備されており、生活水準も高い。これまでと異なる新しい提案があれば試してみようかという気になる成熟した資本主義社会ということでは、日本は突出しています。また消費者の目が肥えているため、日本で通用すれば世界で認められる可能性が高い。アジアの留学生と接していると、反日感情の強い出身国であっても、来日の理由として、日本の生活文化に触れてみたいことを挙げています。日本人が受け入れたのだからよいものだという認識が世界に広く浸透していることから、日本市場に着目する意義は大きいはずです」
 新市場の創造では、“わからない”から出発するアプローチが求められています。最後に三宅氏は、従来のアプローチのままでは新興国に勝てないと指摘したうえで、次のように話してくれました。
 「持てる情報に限りのある人間に導き出せるのは所詮最適解ではなく満足解でしかないといういい意味での開き直り、問題は発見するのではなく発明するものだということを一度腹に落としていただければ、ものの見方が変わるはずです。商品を開発するということは、本来は自由度が高く、世の中への仕掛け次第で定着するかどうかが決まります。その定着まで視野に入れた戦略を練ることに力を注ぐ。つまり定着しそうなものを探しに行くのではなく、定着させるプロセスまでデザインすることに問題を再設定するべきだと思います」

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事前決定論の罠と新市場創造の出発点

事前決定論の罠と新市場創造の出発点

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