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経営基盤を強化するIT戦略

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  • エキスパートインタビュー

  • 経営基盤を強化するIT戦略
  • 2018年 3月号(No.234)
  • ゾーンマネジメントは
    新規ビジネスと既存ビジネスの
    バランスを取るための手順書

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株式会社テックバイザージェイピー チーフコンサルタント
弁理士 技術士(情報工学)
栗原 潔 氏

ゾーンマネジメントの著者であるジェフリー・ムーア氏は、破壊的変化への対処方法についての著作があり、企業のマーケティングやマネジメントに大きな影響を与えてきました。最新作であるゾーンマネジメントは、ムーア氏の著作の中でどのような位置づけとなるのか、また専門家から見て、ゾーンマネジメントの注目すべきポイントはどこかなどを、同書の日本語訳を手がけたテックバイザージェイピーのチーフコンサルタントで弁理士の栗原潔氏に、ゾーンマネジメントの注目すべきポイントについて伺いました。

栗原 潔(くりはら・きよし) 氏プロフィール
ITコンサルタント、弁理士、金沢工業大学 客員教授。日本IBM、ガートナージャパンを経て、2005年7月より独立。先進情報通信技術の動向調査と知的財産権に関するコンサルティング業務と弁理士業務を並行して行う。寄稿・講演・書籍翻訳経験多数。東京大学工学部卒業、米MIT計算機科学修士課程修了。技術士(情報工学)。訳書に『ゾーンマネジメント』(日経BP社)、『ライフサイクルイノベーション』『エスケープ・ベロシティ』(いずれも翔泳社)など。http://www.techvisor.jp/

守る側の視点で書かれた
ゾーンマネジメント

 ゾーンマネジメントの日本語訳を手がけた栗原氏は、これまでにジェフリー・ムーア氏の「ライフサイクルイノベーション」「エスケープ・ベロシティ」の翻訳も手がけており、ムーア氏の考えをよく知っています。栗原氏はゾーンマネジメントの内容について、次のように語ります。
 「この本は、私がひとつ前に訳した“エスケープ・ベロシティ”で説明されている概念を、実際に企業で実行するための実践編と言えます。ですから“エスケープ・ベロシティ(実践編)”と呼んだ方がしっくりくるかもしれません」
 例えばエスケープ・ベロシティでは、ロジカルにマネジメントを行うための様々なフレームワークが登場しますが、ゾーンマネジメントでは、実際の企業運営に即した形でどのような時に何をすべきかが具体的に書かれています。
 「エスケープ・ベロシティは、既存企業が社内の抵抗勢力に打ち克ってイノベーションを成功させるためのマネジメントを主なテーマとしていました。それに対して、本書は、破壊的変化を起こす(攻める)側に加えて起こされる(攻められる)側の立場にもフォーカスが当たっています。すでに一定の地位を築いた企業の場合は、自分が競合している市場で、どういう破壊的変化が起きているかをしっかりと把握し、過剰反応をせずに市場の状況に合致した対応をしましょうという内容です」(栗原氏)
 破壊的変化が起きている時には、それが自社に与える影響度の把握から始めなければならないとムーア氏は主張します。本書の中で破壊的変化の影響度のレベルは、軽い順から基盤(インフラ)レベル、運営(オペレーション)レベル、ビジネスモデルの3段階に分類されています。
 「影響度が基盤(インフラ)レベルの場合には、基盤を新しい技術で置き換えれば、今までのビジネスを効率的に続けられるので、さほど心配する必要はありません。例えば不動産業にとってスマートフォンの普及は脅威ではありません。気をつけなければならないのは、ビジネスモデルが影響を受ける場合です。銀塩フィルムがデジタルカメラに置き換わった時がこれに当たります。この場合は、市場自体がなくなってしまう懸念がありますから、しっかりとした対処が必要になります」(栗原氏)

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パニックになって
自ら自分を破壊してはならない

 破壊的変化に直面したときに自分で自分を破壊してはならないというメッセージがゾーンマネジメントの内容の中で特に印象に残ったと栗原氏は話します。
 「破壊的変化への対応で、やってはいけないことが二つあります。ひとつは既存ビジネスを大事にしすぎて新しい変化に耳を塞いでしまうこと。もうひとつは、いきなり既存ビジネスを捨てて、自分自身を破壊してしまうということです。既存企業におけるベストな解は、新規ビジネスと既存ビジネスのバランスを取りながら、変化を進めていくところにあります。しかし、“良いバランスを取りましょう”と言われても、現実問題としてはなかなか難しい。そのバランスを取るための手順書がゾーンマネジメントです」
 ゾーンマネジメントでは、会社の事業をゾーンで分けて、その境目を守ることでバランスを保ちます。例えば、新規ビジネスに人材の何パーセントを割り当てると決めたら、もう動かさないことで、お互いの領域を保護します。こうしたマネジメントがきちんとできていないと、例えば発言力の強い既存ビジネス側に予算や人材をとられて、新規事業が手薄になってしまうといった事が起こるからです。
 「これは事業ポートフォリオ管理と呼ばれる手法で、基本的な考え方自体は新しいものではありません。しかし、それを実行可能な手順書のレベルにまで落とし込んでいることが、このゾーンマネジメントのとても重要な点です」(栗原氏)

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トランスフォーメーション・ゾーンに
送るのは一度にひとつだけ

 ゾーンマネジメントの大きな特徴に、新規ビジネスの規模を一気に拡大させるトランスフォーメーション・ゾーンの存在があります。
 「従来のポートフォリオ管理と比べて特徴的なのは、トランスフォーメーション・ゾーンに強くフォーカスが当てられている点です。ムーア氏は、既存企業はイノベーションができないわけではない、イノベーションの規模拡大ができないのだと指摘しています。つまり、インキュベーション・ゾーンで生まれたアイデアを、トランスフォーメーション・ゾーンを経ずに、そのまま市場に投入して失敗するということです」(栗原氏)
 特に、トランスフォーメーション・ゾーンで規模を拡大するのは「一度にひとつ」という決まりが重要なポイントだと栗原氏は強調します。
 「ムーア氏はキャズムの執筆時から、破壊的変化を起こすためのビジネスは“絶対にひとつだけ選ぶべきだ”と言い続けています。多くの企業は、リスクを下げるために複数の新規事業を同時に展開してしまいますが、これが最もリスクが高く、すべてが中途半端に終わる可能性があります。他社はひとつのビジネスにフォーカスして全力で攻めてくるわけですから、中途半端な取り組みでは勝てません」
ゾーンマネジメントは、主に経営者を対象としていますが、栗原氏は、経営者以外の方にもぜひ読んで欲しいと話します。
 「あらゆる企業の、あらゆるポジションにおいて経営者的な視点を持つことが求められています。単に言われたことだけをやるのではなく、自分が今やっている仕事は、会社全体から俯瞰して見るとどんな役割があるか、という事を常に考えておくべきです。そういった視点を得るためにこの本はとても役立つはずです」(栗原氏)

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■ トランスフォーメーション・ゾーンを使った新規ビジネスの拡大

トランスフォーメーション・ゾーンを使って、新規事業の規模を拡大する流れ。一度に規模を拡大する事業はひとつだけにする。
他のゾーンは保護されているものの、トランスフォーメーション・ゾーンの稼働時には全社的なコミットにより、一気に新規事業の規模を拡大させる。
■ トランスフォーメーション・ゾーンを使った新規ビジネスの拡大
出典:栗原 潔 氏

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