10月号(No.110)
経営者の認識に基づくガイドライン活用が
プロジェクト・マネジメントの
レベルを高める

プロジェクトコンサルタント

高根 宏士氏

2004年に改訂・発行された「PMBOK(Project Management Body of Knowledge)第3版」や日本発の「P2M(Project&Program Management for Enterprise Innovation)」に代表されるプロジェクト・マネジメントのガイドライン。理論ではなく、実際のプロジェクト活動を通したノウハウが体系化されている点で、多くの企業がその有用性に着目していますが、どのように活用すれば組織全体のマネジメント・レベル向上を図ることができるのでしょうか。今回は、長年数多くのシステム開発プロジェクトに携わり、現在はプロジェクトのコンサルティングを手がける高根氏に、プロジェクト・マネジメント強化のポイントについて伺いました。

 「技術は大きく変化しましたが、マネジメントは30年来進歩していないというのがシステム開発プロジェクトの実態ではないでしょうか。特に大きな問題は、経営者が企業として目指す方向性を明確に描けないことにあります。例えばリスクマネジメントやプロジェクト・マネジャーの育成が重要だという認識はあっても、抽象的なレベルにとどまり、自社が何を狙い、どう取り組んでいくかを具体的にイメージできない。この結果、プロジェクト・マネジメントや人材育成が表面的な取り組みに終わってしまうケースも少なくありません」
 高根氏は、システム開発に関連したプロジェクトの現状について、こう話します。マネジメントの前提は企業としての課題の明確化。これが曖昧なままでは、組織としてプロジェクト・マネジメントのレベルを向上させることはできないということです。ここで高根氏は、 “how”よりも“what”と“why”に関する経営者の十分な認識が不可欠だという点を強調します。
 「例えばP2Mのプログラム・マネジメントでは、経営者が、企業としての明確な目標と実態を把握し、個々のプロジェクトに落とし込むまでは責任を持つ必要があります。逆に言えば、企業全体の中で個々のプロジェクトがどう関係しているかを経営者がイメージできなければプログラム・マネジメントにならない。“何をなぜ”という認識が不十分なままでは、本来は手段であるガイドライン準拠や資格取得が目的にすりかわってしまうことになりかねません。経営者が、常に目的から判断して取り組むという基本姿勢を貫かない限り、プロジェクト・マネジメントの強化やプロジェクト・マネジャーの育成は実現できないことを理解しておくべきです」
 では、プロジェクト・マネジメントの強化に向け、PMBOKやP2Mに代表されるガイドラインをどのように位置付ければよいのでしょうか。高根氏は、ガイドラインの大きな意義は標準化にあると指摘します。
 「標準化には二つの意味があります。一つは、組織内のコミュニケーションを円滑にする共通言語。同じ用語でも人によって解釈が異なるようでは、組織内でのコミュニケーションを阻害しますから、全員の理解を統一する上でガイドラインを利用するということです。もう一つの意味は、“読み”を省くこと、簡単に言えば囲碁や将棋でいう定石の役割です。プロジェクトがあるたびにゼロからマネジメントを考えるのではなく、ガイドラインを理解することで最低限必要なノウハウを組織全体で共有し、活用する。この二つの意味を持っているところに、ガイドラインの大きな意義があります」

ガイドラインによる標準化の目的




 大きな意義が標準化である以上、PMBOKやP2Mといったガイドラインは、プロジェクト・マネージャだけではなく、プロジェクトメンバー全員が理解することで意味を持ちます。高根氏は、それが人材育成にもつながると語ります。
 「PMBOKやP2Mは、プロジェクトの発足以前から勉強させるべきだと思います。その時点では紙ベースでの理解であっても、実際のプロジェクトに参画した際に見直す作業を繰り返していくことで、確実にスキルが向上するためです。ここで重要なのは、現場での作業を通じて問題意識を持たせること。現場での問題意識に基づいて理解させるアプローチが有効です。理解した上で次のトライをさせ、仮に失敗しても上司が評価し、本人と話し合いながら再度考えさせることで成果につなげていく。もちろん自己啓発が基本です。組織としては自己啓発を促す雰囲気作りが重要ではないでしょうか」
 今回のインタビューも含め、多くの著書や講演などを通じて高根氏は、多くのプロジェクトで当たり前のことが実施できていないと強調します。最後に高根氏は、プロジェクト・マネジメントのポイントについて次のように話してくれました。
 「プロジェクト・マネジメントで実施すべき7割は当たり前のことです。混乱しているプロジェクトは、例えば決められた作業が本当に完了したのか、あるいは何が決定し何が決定してないのかが整理されていない。進捗の明確な判断基準がないまま、希望的観測から“90%完了した”という判断を繰り返し、最後には破綻してしまうケースは少なくありません。したがって、小さなことであっても、決めたことは実行し、実行できなければ、何が実行できていないかという実態を正確に把握できる仕組みが不可欠です。今日、あるいは今週何をするべきかがわからない状況で、なぜ1年間のプロジェクトをマネジメントできるのか。当たり前のことを積み重ねるだけで、プロジェクトの成功率は格段に向上します」

 
 

 

高根宏士(たかね・ひろし)

1938年生まれ。1962年東北大学通信工学科卒業、三菱電機株式会社入社。計算機応用システム、貨物操車場自動化システム、自動倉庫・電力系統システム、ビル管理システムなど、多くのシステム開発に携わった後、工場全体のソフトウェア生産管理を担当。株式会社三菱電機ビジネスシステム常務取締役、同顧問、株式会社エム・ビー・システム副社長(兼務)などを歴任後、2000年に退任。情報処理学会およびプロジェクトマネジメント学会理事を歴任、現職プロジェクトコンサルタント。主な著書に『ダブリンの風〜日常の風景から見るプロジェクトマネジメントの機微〜』(11p参照)、『クライアント/サーバ プロジェクト管理マニュアル』、『ソフトウェア外注管理技法』、『ソフトウェア工程管理技法』など。


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