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EXPERT INTERVIEWエキスパートインタビュー

読み手のことを
しっかりと理解して
相手に伝わる文章を書くこと

株式会社ハーティネス
代表取締役
髙橋 慈子 氏

ビジネスに求められる分かりやすい文章は、適切なトレーニングを行うことで誰でも書くことができるようになります。ここでは、相手に伝わる文章を書くためには、どんなことを意識すればよいのか。効果的なトレーニング方法にはどんなものがあるかなどを、技術者への指導経験の豊富な株式会社ハーティネスの代表取締役 髙橋慈子氏に伺いました。

髙橋 慈子(たかはし・しげこ)氏プロフィール
東京農工大大学卒。技術系出版社を経て、テクニカルライターとしてフリーランスで取扱説明書の作成に関わる。1988年テクニカルコミュニケーションの専門会社として、株式会社ハーティネス設立。同代表取締役。
企業の取扱説明書やマニュアル制作のコンサルティングや人材育成に関わる。大妻女子大学、立教大学、慶應義塾大学非常勤講師。情報処理学会ドキュメントコミュニケーション研究会幹事。著書に『技術者のためのテクニカルライティング入門講座』(翔泳社)、『人より評価される文章術』(共著・宣伝会議)など。http://www.heartiness.co.jp/新しいウィンドウが開きます

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何のために書くのかを常に意識しておく

 髙橋氏が代表を務めるハーティネスでは、企業や組織にテクニカルライティング関連の様々なサービスを提供しています。提供しているサービスには、取扱説明書を改善するためのコンサルティングや、文書作成のルール作り、トレーニングやワークショップなどがあります。
 毎年、企業の新入社員研修を行っている髙橋氏は、ビジネスで文章を書く時には、その目的をきちんと意識することが重要だと語ります。
 「学生時代のレポートであれば読み手は担当教員だけですし、テーマも与えられますから、書く目的を意識することは少ないかもしれません。しかし、ビジネスで書く文章は、そもそも何のために書いているのかという点をはっきりさせることが大切です」(髙橋氏)
 例えば、新入社員研修の日報でも、文書を書く目的を明確にするだけで、大きく変わります。
 「自分が受けた研修についての報告書を書いてもらうと、多くの人は“○○をしました"という事実を並べるだけで終わってしまいます。読み手である人事の方が知りたいのは、研修の効果、つまり参加者は何を理解して何が分からなかったのかという情報です。研修のクライアントからは、こうした読み手が知りたいことを簡潔にまとめられる報告の書き方をトレーニングして欲しいという要望が多いです」(髙橋氏)

グループワークによって文章力を磨く

 文章力を上げるためにはどのようなトレーニング方法があるのでしょうか。髙橋氏のセミナーでは、複数人でのディスカッションやレビューを行うグループワークを取り入れているそうです。
 「例えば、分かりにくい報告メールを読んでみて、なぜ分かりにくいかを皆で洗い出します。次に各人がその文章を書き直してみます。すでにある文章の良くないところは分かっても、実際に分かりやすい文章に直すことは難しいものです。書き直したものをお互いにレビューして、工夫や改善点を共有していきます。他人の文章の良い点、良くない点は見つけやすいので、グループワークは効果的です」(髙橋氏)
 他の効果的なトレーニングに二分間レビューがあります。これは他人の文章を読んで、二分間で必ず一つ以上のコメントを入れる練習です。最初は時間がかかってしまいますが、慣れてくるとわずかな時間で的確なコメントを入れられるようになると髙橋氏は語ります。
 「コメントを入れる際には、ポジティブなフィードバックを入れることが大切です。特に上司が部下の文章を見る場合には、ダメ出しをするばかりでなく、“今回はタイトルがよく書けていた"、“最初の部分はよくまとまっていた"などよかった点を伝えることが大事です」

提案書はテンプレートを利用し関心を高める見出しをつける

 最近は技術者でもPowerPointなどで提案書を作ることが多くなっています。
 「提案書では、全体像が分かるようにまとめること、各スライドのタイトルをしっかりつけることが大事です。“~について"のような曖昧なタイトルではなく、伝えたいポイントを各ページのタイトルでしっかり押さえておけば、それを見るだけで全体像がつかめます」(髙橋氏)
 それを実行するための最も手軽な方法が、PowerPointに付属のテンプレートを利用することです。
 「自己流でスライド1枚ごとに自分でテキストボックスを貼り付けていると、タイトルをつけ忘れたり読みづらいレイアウトになってしまいます。テンプレートを使うことで、こうした問題を防ぐことができ、後からの修正も容易になります。また、長すぎる提案書は読み手の負担が大きいので、時間を考えて適切な枚数に抑えることも大切です」(髙橋氏)

グローバル化で求められる翻訳しやすい日本語

 言葉は、社会環境などの影響を受けて時代とともに変化しています。髙橋氏によれば、最近のビジネスシーンではグローバル展開を見据えて「翻訳しやすい日本語」の需要が高まっているといいます。
 「最近は機械翻訳がかなり実用的になってきていますが、元になる日本語が分かりにくいと翻訳の精度が一気に下がってしまいます。翻訳の効率化のためにも、簡潔で分かりやすい日本語の書き方をルール化したいという要望が増えています」(髙橋氏)
 また、似たような研究テーマとして、「外国人にとって分かりやすい日本語」もあるそうです。
 「日本で働く外国の方たちに例えば機械の使い方が正しく伝わるようなやさしい日本語を、去年から研究しています。日本語が堪能な人でも、例えば“きゅっと締める"といった擬声語やカタカナ語は分かりにくいそうです。こうしたことは、日本人の書き手にはなかなか気づきにくいことです。やはりどのような文章でも、読み手のことを理解して、その人に伝わる文章の書き方を考えることが大切だと思います」(髙橋氏)

図1:障害報告書のロジックツリー例

出典:髙橋慈子『技術者のためのテクニカルライティング入門講座』, 翔泳社 ,2018,p177

画像 障害報告書のロジックツリー例

障害報告書の目的(主題)と読み手のニーズ。仕事で書く文章は、その目的と読み手を意識することが重要

図2:タイトルのつけ方

出典:髙橋慈子『技術者のためのテクニカルライティング入門講座』, 翔泳社 ,2018,p158

画像 タイトルのつけ方

提案書は見出しが具体的になるだけで印象が全く変わる。提案書に限らず、普段から意味のある見出しを付ける習慣を身につけておくとよい

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