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2023.11.20

持続可能な循環経済型未来社会の実現を目指した「社会連携講座」の開設を発表

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持続可能な循環経済型未来社会の実現を目指した「社会連携講座」の開設を発表 持続可能な循環経済型未来社会の実現を目指した「社会連携講座」の開設を発表

今年4月1日、東京大学と三菱電機が手を組み、「三菱電機―東京大学・ 未来デザイン会議(以下、未来デザイン会議)」 を設立した。これは両者が知恵と知見を出し合い、さまざまな社会課題を克服したありたい未来社会の姿について議論し、それを実現するための道筋を描いていく共同研究体。その未来デザイン会議での議論を経て、去る10月初旬、東京大学と三菱電機それぞれの代表者たちが登壇し、「社会連携講座」の開設を発表した。それを要約しながら、私たちの未来に思いを馳せる機会としたい。

もやのかかった未来像

2023年10月5日。後々振り返ると、「この時が偉大なプロジェクトのスタートだった」と人々が思い起こすかもしれない。

この日、東京大学と三菱電機の双方の代表者たちが登壇し、サーキュラーエコノミー(循環経済)の実現に向け、環境負荷低減と経済合理性の両立を実現するエコシステムを設計・検証し、その構築にあたってのさまざまな課題解決を目的とした社会連携講座「持続可能な循環経済型未来社会デザイン講座」の開設について発表された。「社会連携講座」とは公共性の高い共通の課題について、民間等から受け入れる経費等を活用して大学に設置し、共同で研究を行う組織体である。

登壇者は右から、加賀邦彦さん(三菱電機 専務執行役 CTO)、岡 徹さん(三菱電機 上席執行役員 開発本部長)、加藤泰浩さん(東京大学 大学院工学系研究科長・工学部長・教授)、熊田亜紀子さん(東京大学 大学院工学系研究科・副研究科長・教授)

なぜこのプロジェクトが誕生したのか。その背景にあるのは、私たちが生きるこの不確かな社会だ。VUCA、「Volatility/変動性」「Uncertainty/不確実性」「Complexity/複雑性」「Ambiguity/曖昧性」の頭文字から名付けられたこの言葉に代表されるように、つまるところ、デジタル技術の急速な進展、地政学リスク、気候変動、シェアリング・サーキュラーエコノミーといった新しい経済モデルの登場などにより、将来への見通しがたちづらくなっているのが現状だ。

だからこそ、「現代社会が抱える複雑な社会課題を解決するためのデザインには、多様な分野の学術知と、現場の知の融合が不可欠だと考えています」という加藤教授の言葉に耳を傾けたい。融合した両者の知力には、必ずありたい未来社会の姿を実現するヒントが隠されているに違いない。

狙うはサーキュラーエコノミー

加賀邦彦さん(三菱電機 専務執行役 CTO)

“そもそも論”として、「未来デザイン会議」は、私たちが理想とする社会=ありたい社会はどのようなものかを考えるところから始まる。形のない未来について、三菱電機は企業としてどう取り組んでいくのか。会見では、加賀さんから「未来デザイン会議」に対する思いや期待が語られた。

「今回の取り組みを通じて、ありたい未来の社会を考え、バックキャストで議論を進めていくことで、現業にはない骨太な価値やアイデアを生み出す場として活用したい。その中から、新たな事業の柱を創出できればと考えています。(中略)社会課題の解決に当たって、今何をすべきか、今後何に取り組むべきかを検討していく。そして、技術面の課題を解決するための共同研究を通じて、ありたい未来社会を実践していきます」

その共同研究のパートナーが、東京大学。日本の最高学府として知られているのはもちろん、医学、工学分野だけでなく、人文学、公共政策学などあらゆる学術分野で豊かな知を有する研究組織でもある。

加藤泰浩さん(東京大学 大学院工学系研究科長・工学部長・教授)

加藤教授によれば、東京大学は誰もが来たくなる大学を目指し、社会や企業との対話や連携を通じて、人類が直面する様々な地球規模の課題解決に取り組んでいる。

そして今回、「未来デザイン会議」で議論し描いた、ありたい未来社会実現への道筋を具現化していく第一歩として「持続可能な循環経済型未来社会デザイン講座」を開設。地球上の気候変動や生物多様性の破壊などの環境問題を引き起こす、従来の大量生産・大量消費型の経済社会活動を課題として扱い、限られた資源を最大限に循環させることで環境負荷を低減しつつ、経済的な成長を達成するサーキュラーエコノミーの実現についての研究を進めることが決まった。

未来へとつなぐ三菱電機の取り組み

岡 徹さん(三菱電機 上席執行役員 開発本部長)

三菱電機はサステナビリティの実現を経営の根幹に据え、「カーボンニュートラル」「サーキュラーエコノミ―」「安心・安全」「インクルージョン」「ウェルビーイング」の5つの課題領域で、事業を通じた社会課題解決を推進している。

例えば、サーキュラーエコノミーにまつわる三菱電機の具体的な取り組みとして、家電プラスチックリサイクルがあげられる。使用済み家電製品から回収したプラスチックを、独自の選別技術を用いて高純度プラスチック素材へと再生させる。リサイクルにおいて、大切なのはこの選別技術であり、三菱電機がコツコツとサステナビリティに向き合い続けてきた結果獲得した“現場の知”である。

ただし、サーキュラーエコノミー実現までのハードルは相当高い。

例えば、企業にとってはビジネスモデルの変革を迫られたり、機能のソフトウェア化、製品の長寿命化を図る必要性もある。ほかにも、多くのステークホルダー(資源開発から消費に至るまで関係する業者や人全員)の協力や、消費者(製品利用者)の環境意識の醸成も必要となってくる。また、国や大学、企業の垣根を超えた連携が不可欠となる。このような点からも、国への発信力も高い東京大学に対する期待は自ずと大きくなる。

ステークホルダーの経済合理性がキモ

熊田亜紀子さん(東京大学 大学院工学系研究科・副研究科長・教授)

企業である三菱電機が持つ知見を“現場の知”とすれば、東京大学が持つのは“学術知”となる。この“現場の知“と”学術知“を組み合わせて取り組むのが、「未来デザイン会議」の社会連携講座「持続可能な循環経済型未来社会デザイン講座」である。

東京大学の熊田教授が中心となる組織で、サーキュラーエコノミーのボトルネックとなっている事象は何かを探っていくこととなる。狙いは、そのボトルネックを明らかにするとともに、ボトルネックの解消に必要となる技術・仕組み・政策等を探究することだ。

その一つの課題として今回キモとなるのは、「ステークホルダーの経済合理性をいかに確保するか」ということ。

現代の社会において、サーキュラーエコノミーは経済合理性確保を狙うものとされている。ただし、「社会全体において」と注釈がついてしまう。一方、そのエコシステムを構成する個々のステークホルダー視点で考えると、経済合理性を確保しなければ、エコシステムに参画するメリットはなくなり、結果としてサーキュラーエコノミーそのものが成り立たなくなってしまう。いわば、特定のステークホルダーにただ我慢を強いるだけのサーキュラーエコノミーでは長く通用しないと言えばわかりやすいだろうか。

そこで、社会連携講座では、エコシステム全体をモデル化することが図られる。ステークホルダーの関係性、資源や費用の流れなどをモデルとして、シミュレーションすることで経済合理性を阻害する要因を見つけ出す。それに対処する方法を見つけることで、すべてのステークホルダーが、負担コストに見合う価値を得られるようなエコシステムを設計できるようになるのが理想だ。

その過程で、各ステークホルダーの果たす役割や、民間企業における最適な事業モデルのあり方、法規制のあり方などが見えてくるので、そこからまた対処方法を考えることとなる。こうすることでより具体的に、エコシステム全体のモデル化を進めていく。

「未来デザイン会議」の未来

もちろんサーキュラーエコノミーも、ひいては未来像の見定めもどちらも一筋縄でいく相手ではない。だからこそ、三菱電機の“現場の知”と東京大学の“学術知”という両者の知見、経験を持ち寄り、ユーザーの目線を大事にしながら統合し、より知を究めていくことが使命となる。その先には、目に見える結果はもちろんのこと、様々な副次的効果も期待されている。

例えば「未来デザイン会議」を通じて、広く様々な最先端の知に触れ、議論を深めることで、社員のマインドセットに化学変化を起こし、過度な“自前主義”から脱却することが期待されている。三菱電機では社員が職制・職位の壁を越えて自由に発信・議論する場としての社内コミュニティを立ち上げ、この「未来デザイン会議」への積極的な参加を呼びかけている。

「社会連携講座」においても、「三菱電機におけるプロジェクトのコアメンバーはR&D部門が中心とはいえ、サーキュラーエコノミーを志す人、中でも若い人たちには積極的に参加してほしい」という岡さん(三菱電機 上席執行役員 開発本部長)の言葉通り、部署や年代を超えた交流、積極的な参加が期待されている。

“境界線の越境”は、社内だけではない。「社会連携講座」では、東京大学や三菱電機という枠に閉じることなく、多くの企業・団体が参画できるオープンな場を創出していく。というのも、サーキュラーエコノミーは、地球規模の課題であり、単一の会社では解決できるものではないからだ。

社会連携講座は、ひとまず3年という期限を持ってスタートする。ただし、3年で終わるか、または継続発展していくのかどうかはその時の状況次第だ。

「社会連携講座」の開設により、ありたい未来の実現に向けて大きな一歩を踏み出した「未来デザイン会議」。これからどのような社会や景色を生み出していけるのか、ぜひ期待して欲しい。

掲載されている情報は、2023年10月時点のものです。

制作: Our Stories編集チーム

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