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検査員もレンタルしてくれ!
ビッグデータの「やりきれない」危機
もっと高度なインタフェースが必要に

社会課題を素早く読み解くヒント集 3min column 検査員もレンタルしてくれ!ビッグデータの「やりきれない」危機 もっと高度なインターフェースが必要に社会課題を素早く読み解くヒント集 3min column 検査員もレンタルしてくれ!ビッグデータの「やりきれない」危機 もっと高度なインターフェースが必要に

「現場」の管理層の間で、加速度的に「やりきれない」という苦情が高まっている。会社の方針や上司への不満ではない。仕事が増えすぎて、現場の人員では業務をこなしきれないという意味だ。それも運輸や建設など、慢性的な人手不足の職場ではなく、データを扱う職場ほど苦境に立たされている。明確な調査があるわけではないが、取材活動の中で、そう感じるシーンが少なくない。

企業の製品検査部門。表面精度を示すグラフから不良を読み取るベテラン検査員が足りない。「測定器を開発したメーカーに『高精度化するなら一緒に検査員もレンタルしてくれ』と頼んでいるんだよ」と部門長は苦笑する。

大病院のX線技師長。大量の撮影画像を読んで異常を識別する単純作業に技師全員が疲れ果て、それでも増え続ける仕事に「若い時に医療を志した使命感を忘れ、時には逃げ出したくなる」と訴える。

どちらも人工知能(AI)の導入事例の取材の中で聞いた話だ。人間の担っていた作業の一部をAIに代替させて負担を軽減する試み。この企業の製品検査部門長も、病院のX線技師長も、ひと息つけただろう。こうした幸せなケースは、実は氷山の一角でしかないようだ。

「名作映画」デジタル化の落とし穴

ビッグデータ時代は、産業のあり方、社会の姿を大きく変え、市民が生活レベルでメリットを感じるようになるだろう。それは疑いない。しかし、すべてのデータが機械処理できるわけではない。カメラの画素数やセンサ-の性能は著しく向上し、得られるデータは幾何級数的-すなわち掛け算で増えている。しかし人員は等比級数-すなわち足し算でしか増やせない。企業などでは1割の人員増にも苦労するのが現実だ。データを扱う人員のいる現場の多くが、際限なく増え続ける仕事に不満をため込んでいることは理解できる。

では機械処理できるデータなら、多いほどいいのだろうか。必ずしも、そうではないようだ。身近な例としては映画のディスク化がある。古典的な名作映画はレーザーディスク(LD)、DVD、ブルーレイディスク(BD)と何度も最新規格のデータへの置き換えが繰り返された。近年では「4K」の超高解像度版が相次いで発売されている。いずれは8K版や、その先が出てくるかも知れない。

では解像度が上がって名画が鑑賞しやすくなったかと言えば「必ずしも、そうではない」と関係者は言う。フィルムの細かな傷や汚れを再現するほど精細さを高めても、発色や色調には関係しない。

鑑賞する人に、どんな映像を届けるかという「画づくり」は、単純にデータを増やすだけでは最適化できない。4Kにデジタル・リマスターした名作映画で、色調調整に不満が聞かれることも、珍しくはないのだという。「デジタル化を機械任せにしてしまった時に、よくあることです」と関係者は話す。

「やりきれない」危機に直面

マン・マシン・インターフェースとは、人間が機械に指令を伝達し、機械がその結果を人間に伝えることをいう。これまでは、自動車の運転や航空機の操縦、あるいはコンピューターの操作を合理化し、スムースにすることが大きな目的だった。

ビッグデータの時代、集められるデータがあふれかえってしまうようになると、人間と機械の間の関係をスムーズにするだけでは処理しきれない問題が出てくる。人間は、それを「やりきれない」と感じてしまう。

リアル世界の森羅万象の事象のうち、何をデータ化して集め、機械に取り入れるのか。それを機械が解析して、人間に分かりやすい形に直すには、どうするのか。もっと高度なインタフェースが必要になる。現代社会の企業の多くは、そうした問題に取り組んでいる。

どんな業務でも、扱うデータが爆発的に増えれば、いずれ「やりきれない」危機に直面してしまう。その危機から脱出に成功したケースは、結果だけ見ると「○○を自動化しました」ということになるだろう。どこにでもある記事の中の1行のようだが、裏側にある技術や創意工夫を見落としてはいけない。

以下は三菱電機の数多くの事業のうち、増えすぎるデータ処理の問題を解決した優秀な開発事例だ。レーザーと8Kラインカメラを駆使し、日本中のトンネルのひびなどを点検して回る三菱電機のインフラモニタリングシステムは、写真データが超高解像度で、10メートルほどのトンネル1本でも数ギガというデータ量になる。

それだけ大きなデータを、できるだけ短時間で処理し、なおかつ計算コストを抑えながら、解析の精度をいかに上げていくか。その手法を、開発者の思いとともに学びたい。

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