都市部に暮らす人にとって、エレベーターは「最も身近な交通機関」といえる。距離は長くても数百メートル程度だが、鉄道やバス以上に利用機会が多い。準拠する法令が違うとはいえ、鉄のレールに車輪を沿わせ、釣り合い重りを使ってエネルギー消費を抑えつつ上下する構造は、登山用などのケーブルカーに近い。
日本はエレベーター先進国
日本は世界的にもエレベーターの水準の高い国だ。欧米の古いホテルで、手動開閉式のドアや、キイキイと音を出して揺れながら動くエレベーターに乗った経験は多くの人が持っているのではないか。おそらく個人の海外旅行で最も日本との落差を感じるシーンは、トイレと自動販売機、それにエレベーターではないかと思う。
日本のエレベーターは、この水準をさらに高めようとサービス競争を繰り広げてきた。代表的なもののひとつがスピードである。高速移動の揺れや衝撃を吸収するには精密な設計と施工技術が求められる。また忘れてならないのは、これが数字だけの速度競争ではないということだ。一般にエレベーターに乗る時間は1分間以内が望ましいとされ、長くなるにつれてイラつきを感じる人が増える。超高層ビルの建設にあたって、最上階までの到達時間を短くする超高速エレベーターを開発するのは、乗客に対するサービスの意味合いが大きい。
それ以外にも、エレベーターの室内に空調機を設けたり、照明や階数表示、音声案内を高度化したり、自動点検による故障予防や非常時の退避方法など、近年のエレベーターは驚くほどの進化を遂げていて、その先頭を日本が走っている。
乗客にゆだねられたサービス
高度なサービスを取り入れた「身近な交通機関」であるエレベーターが、他の交通機関と違うのは、完全無人化の上に“運転”まで乗客にゆだねられていることだ。エレベーター・ガールが同乗するような特殊なケースを除き、乗客は自分で目的階のボタンを押し、場合によってはドアの開閉を操作する。
乗客の目的階は事実上ランダムであり予測は難しい。先行するエレベーターに多くの乗客が乗って多くの階で停止し、後続のエレベーターが空いていてスイスイと動くようなケースは珍しくない。複数のエレベーターが同じ階に集まってしまう事態をどう避けるかは、いまだ解決できていない技術面での大きな課題といえる。
すぐに乗れて、短時間で目的階に到達できる。そんな理想のエレベーターを目指して、メーカーの開発競争は今も続いている。