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笑顔の検知

社会の課題を素早く読み解くヒント集 3min column 笑顔の検知社会の課題を素早く読み解くヒント集 3min column 笑顔の検知

IoT(モノのインターネット)やAI(人工知能)の活用によって、われわれの日常生活はますます便利に、豊かになっていくことだろう。その基盤のひとつに、従来のパスワードに代わる新たな顔認証技術の台頭がある。

単にセキュリティという面だけなら、指紋や瞳の虹彩を利用する生体認証の技術が実用段階にある。指紋や虹彩は同じものがひとつとしてないから、個人を極めて高い精度で特定できる。金融機関の預金口座の引き出しなどに使われるのは、このためだ。最近ではモバイル情報機器の個人情報のロック解除などにも活用されている。

ただ指紋や虹彩は、生体情報を取り込むセンサーに直接、個人が接触しなければならない。また1回あたりの認証が数秒ですむにしても、多人数の認証には時間がかかる。手間がかかる分だけ、使いどころを選ぶといえる。

同じ生体認証の中でも、顔を使った認証は、指紋や虹彩に比べれば厳密性は劣る。俗に「同じ顔の人が3人いる」などと言われるように、他人のそら似で認証を通過してしまう懸念は完全には排除できない。しかし条件を絞って活用すれば、使い勝手がよくなる。たとえば照合の対象を「イベントのチケットを買って、あらかじめ顔を登録した人」とか「パスポートを使って国外に出た人」などに限ればいい。対象が何万人かであったとしても、まず間違わずに認証できる。数十億人を対象に個人を特定する指紋や虹彩とは使いどころが違う。

顔認証の利点は、スピードだ。カメラで顔を撮影するだけだから、センサーに接触する必要がない。歩きながら認証してもらうこと、数人をまとめて撮影し、効率よく認証することも可能だ。これは数万人レベルの大規模イベントなどで大いに効果を発揮するだろう。こうした顔認証によるセキュリティシステムは本格利用の最終段階にある。

しかし顔認証の技術は、単にセキュリティにとどまらない。指紋や虹彩は物理的な形状を比較するが、顔は首を振ったり、目や口が閉じたり開いたりする。性別や年齢による特徴も、表情もある。情報量が多いのだ。これらを読み取って活用する研究が各方面で進んでいる。

たとえば視線を追う。視線の向く先は、その人が何に関心を持っているかを示す。視線変化の頻度は、関心の熱中度や落ち着きなさにつながる。まばたきの回数やまぶたの重さは、疲労や眠りの指標になる。これらを計測すれば、個人の心身の状態をある程度、推察できる。居眠り防止や、注意すべきものに目を向けるように呼びかけることも可能だ。また街ゆく多くの人の視線を計測し、性別や推定年齢で分析すれば、その時に「何が見られているか」を計算できる。街頭イベントや広告の効果測定などにも使える。

表情は、さらに意味のある情報だ。個人の心中を推測するだけでなく、たとえば上映中の映画館の観客の表情を分析すれば、作品のどのシーンがウケたかなど新たな評価が可能になる。授業中の生徒の熱中度や、スポーツの練習の真剣さなども計測できるかもしれない。

近未来の社会。クリスマスや正月といった多くの人の集まるイベントで、人々がどの程度、笑顔になっているかを検知する。その比率が高いほど景気が良く、国民の満足度が高い。そんな方法の世論調査が実用化されたら面白い。

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