このページの本文へ

ここから本文

台風被害から考える新しい電力のカタチ

社会の課題を素早く読み解くヒント集 3min column 台風被害から考える新しい電力のカタチ社会の課題を素早く読み解くヒント集 3min column 台風被害から考える新しい電力のカタチ

2019年9月の台風15号は日本列島に大きな爪痕を残した。大規模停電は93万戸超に及び、千葉県では全面復旧に2週間以上を要した。停電に伴う断水や通信網の途絶が広域で発生した中、災害への強靭性を証明したのが、千葉県睦沢町の地域エネルギーシステムの取り組みだ。

自前の発電機と地中化した自営線(大手電力会社以外の電気事業者が電力供給のために自ら敷設した電線)により、道の駅や近隣の住宅への電気と温水の供給を継続し、メディアでも取り上げられた。

都市ガスを燃料に、ガスエンジンで発電する。平常時も道の駅や住宅に電気を供給し、排熱で地下水を加温し温水利用している。

この地域エネルギーシステムはCHIBAむつざわエナジーが手がけている。同社の株主には、睦沢町やエネルギー管理業務を受託しているパシフィックパワー、千葉銀行などが名を連ねる。地域色が濃く、大手インフラ企業の名前はない。

地域のエネルギー供給源を地域内で最適利用する「分散型システム」への機運が各地で高まっている。

分散型エネルギーとは、地域に散在している小規模なエネルギー供給源の総称だ。太陽光や風力、地熱発電といった再生可能エネルギー、家庭や工場などのガスコージェネレーションシステム、ボイラーやヒートポンプといった熱源機などが挙げられる。

地域エネルギーシステムは2011年の東日本大震災後の電力不足を契機に脚光を浴びた。固定価格買取制度(FIT)の後押しもあり太陽光発電設備など、多くの分散型電源が地域に誕生するようになった。費用対効果の問題はあるが、近い将来、再エネ由来の電気を地産地消する経済圏が生まれる土壌は耕されつつある。

世界的な脱炭素社会実現への要請などから、エネルギーに対するニーズも多様化していることも追い風になる。電気利用者の安価であるだけでなく、環境重視のニーズも高まっている。

今後、分散型電源の動きを後押ししそうなのが、IoT(モノのインターネット)やAI(人工知能)といったデジタル技術の急速な進展だ。変動が激しい再エネを含む電力需給予測の高度化、発電所運転の最適化など、電力ビジネスに多様な可能性が生まれつつある。すでに、異業種からの参入も相次いでいる。

近年、台風の大型化など異常気象は「常態化」しつつある。自然災害に伴う大規模停電が頻発し、原子力発電や火力発電、水力発電など従来の大規模集中型のエネルギー供給システムの脆弱性が顕在化している。

分散型エネルギーシステムは中核となる蓄電池などのエネルギー制御技術をどう普及させていくかなど課題は少なくないが、冒頭の千葉県の例のように、電力供給の強靭化の切り札となる可能性を秘めている。大規模集中から小型分散へ。それはエネルギーのあり方のみならず社会のあり方も変えることになる。

関連記事:
電力ビジネスの最前線

電力ビジネス 今なぜ注目される?

電力ビジネスなぜ今、これほど注目されているのでしょうか? 異業種から参入した“新電力”が成功する秘訣は? そして、太陽光などの再生可能エネルギーの導入を加速させるには? 電力ビジネスの最前線に携わる3人のエキスパートが解説します。

続きを読む
ページトップへ戻る