信頼できるお金の預け先が銀行なら、インターネット時代、時にはお金以上に価値を生む「情報」の預け先がデータセンター(DC)である。
2018年6月、英スコットランド北部オークニー諸島沖に864台のサーバーと27.6ペタバイト(ペタは1000兆)のストレージがぎっしり詰まった金属タンクが沈められた。「海中データセンター(DC)」が有効な手段となるかどうかを見極める壮大な実験だ。
DCは、顧客のサーバーなどのIT機器を設置・収容する場所を提供する施設だ。安定運用が求められるため、電源・ネットワーク・温度などの環境を厳重に管理する必要がある。企業は自社の施設内で管理しようとすると管理負担も大きく、DCを利用することでその負担を軽減できる。
それでは、なぜ、DCを海に設けるのか。理由のひとつが、海の水を使って、熱を帯びたサーバーを冷やすためだ。これまでも、DCを寒冷地に設置して、冷たい外気を空調に使うことで、電力コストを抑える取り組みは業界で一般的だった。特に近年は膨大なデータを分析処理する際に大量の電力を使い、大量の熱を排出するケースが増えている。海に設置して、海水を使えば、冷却コストを地上に設置した場合に比べて、抑えられるというわけだ。DCの“深イイ話”は海底だけでなく至るところにある。
DCの電力使用量をいかに抑えるかは大きな課題になっている。DCの電力使用量は世界全体の電力消費の約2%を占め、年間10%ずつ増大していると言われている。調査会社の富士経済の調べによると、日本国内の7分野50業種での一施設あたりの平均電力使用量はDCが病院やホテルをおさえ、最も多い。
日常生活を送っている分には多くの人にとってDCは縁遠い存在に映るかもしれない。だが、AI(人工知能)、ビッグデータなどのデジタル技術が現代社会を下支えするようになった今、実は、DCは我々の生活と切っても切り離せない存在といっても過言ではない。
ICTの革新やスマートフォンの高性能化は世界のデータ通信量を爆発的に増大させている。今後も第5世代通信(5G)の普及に伴う超高画質動画配信も手伝い、増大が見込まれる。米ITのシスコは、世界のデータ流通量が2017~22年の5年で3倍に増加すると予測している。これは年平均成長率で26%に相当する。
データ通信量の増加は、処理したり蓄積したりするデータの増加を意味する。調査会社のIDC JapanによるとIT事業者や通信事業者が国内に所有するデータセンターの延べ床面積の合計値は2023年に約257.9万平方メートルに達する見込みだ。東京ドームの面積は約4.7万平方メートルなので、約55個分のデータセンターが国内に存在する換算になる。
IoT(モノのインターネット)、自動運転、VRなど最新技術を使ったビジネスがこれから花開くには、データのネットワークの整備は前提条件である。特にデータを保管処理するDCはガスや水道、交通に匹敵するインフラと指摘する声も少なくない。DCは24時間365日、稼働し続けなければならないインフラとして国民生活に不可欠な存在になったのだ。それでは、いかにして、DCは安定運用を継続しているのか。そこには、関係者のたゆまぬ努力があった。

