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コロナ禍で見直される「後方支援」の重要性

社会の課題を素早く読み解くヒント集 3min column コロナ禍で見直される「後方支援」の重要性社会の課題を素早く読み解くヒント集 3min column コロナ禍で見直される「後方支援」の重要性

「腹が減っては戦が出来ぬ」とは、誠に至言である。人間が働いて成果を出すには、衣食住の快適な環境が望ましい。食糧やエネルギーの確保や運搬は地味だけれども、大事を成すための欠かせぬ要素である。

ビジネスの世界では、営業や企画が花形で、後方支援部隊は地味な存在だという企業は少なくない。「間接部門の削減」は企業収益向上の手段のひとつであるし、在庫圧縮や物流のアウトソーシングなどの取り組みも進んでいる。

新型コロナウイルス感染症による「ステイホーム」は、こうした企業の後方支援のあり方を一変させたといえるだろう。現在のビジネスシーンを「在宅勤務が一気に普及した」と高く評価する向きが一部にあるようだが、現実を知っていれば、あまりにお気楽な見方と言わざるを得ない。

コロナ禍の中で、ビジネスに欠かせないノートパソコンやスマートフォンを社員宅にきちんと配備できたのか。適切なセキュリテイの通信回線を確保し、各種の社内システムを遠隔操作で使えたか。コロナ禍以前から在宅勤務の体制を整えていた企業は多くはない。政府の緊急事態宣言発令をにらみつつ、スピーディーに準備が出来たかどうかが企業の後方支援部隊の実力をみる指標になった。

ある大手企業の場合、緊急事態宣言の発令直後は営業担当者が自前のスマートフォンで顧客と通話することすら禁止で、事実上の自宅待機に過ぎなかった。それが自宅作業用のノートパソコン、タブレットの配備や自前スマートフォンの条件付き解禁など、週ごとにルールが変わった。「混乱はしたが、少しずつ在宅勤務が充実していったのは事実」と営業マンはいう。

公益財団法人日本生産性本部の調査によれば、多くのビジネスマンが通信技術の進歩のおかげで自宅から仕事ができることのメリットを認めつつも、ビジネスの効率については66%が「下がった」と回答している。確かに、初めてテレワークを経験した第一線の営業マン数人にヒアリングしても「十分な環境だ」という感想は皆無であった。
ビジネスマンにとってホームワークは、いわば不慣れな新戦場。補給が不十分なままでは、すぐに疲れ果ててしまう。コロナ対策として緊急避難的に在宅勤務を認めたけれど、十分な支援を行えているだろうかと不安で仕方ないというのが後方支援部隊である間接部門のホンネだという。

今後のコロナ第2波、第3波に備えるためにも、企業の後方支援部隊は今こそ力を発揮すべき時だ。仮に現在の在宅勤務が社員の私物に頼って維持されているようなら改めなければならない。社員食堂や社内売店に代わる福利厚生だって、ポストコロナが長引けば考えていく必要がある。

ところでこのコロナ禍の最中、国際宇宙ステーション(ISS)に水や食料、実験器具などを運ぶ「こうのとり」9号機が、2020年5月21日に大型ロケット「H-IIB」で打ち上げられ4日後にISSに到着した。

ISSへの物資補給という大きな役割の一端を日本が担っており、「こうのとり」は10年以上の開発期間を経て、2009年9月に技術実証機として初号機が打ち上げられた。「こうのとり」は世界最大級の補給能力を備えた無人の宇宙船だ。
ISSへの接近・結合方式として、安全性の高いロボットアームを使った「キャプチャ・バーシング方式」を初めて実現。本方式は、米国民間企業の宇宙船でも採用され、ISSにおける新たなスタンダードとして定着した。
新型コロナウイルスの感染拡大は、9号機の打ち上げにも影響した。打上関係者が感染を拡大させ種子島島内の医療体制を圧迫しないよう、各種の配慮をした上での打上オペレーションとなった。現地作業員を最小限とするべく例年比で20%減らし、出張元の本土との往来も最小限として、現地作業者も極力固定化した。また作業者は手の消毒が徹底され、打ち上げの1カ月前からミッションに関わる人は毎朝の検温をするなど健康チェックに気を配りながら仕事をする必要があった。
さまざまな困難の中でも、「こうのとり」はこれまで一度も失敗なくミッションを遂行し、日本の技術力の高さを世界に知らしめている。

「こうのとり」が物資を届ける先の宇宙空間は、水も食糧も皆無である。国際宇宙ステーションに滞在する宇宙飛行士は、補給機が新鮮な食糧を届けてくれることを心待ちにしているという。宇宙開発における「後方支援」はまさに成功を左右する重要な生命線であり、そこには確かな実力を持った後方支援部隊の活躍がある。

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