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脱・炭素はゼロじゃない

社会の課題を素早く読み解くヒント集 3min column 脱・炭素はゼロじゃない社会の課題を素早く読み解くヒント集 3min column 脱・炭素はゼロじゃない

日本政府は「脱・炭素社会実現」を目指すと宣言した。2050年までに二酸化炭素排出量をゼロにする「カーボンニュートラル」の実現は極めて高い目標であり、エネルギー消費でも従来の常識にとらわれない考え方が求められる。

といっても「CO2排出量ゼロ」の製品・サービスが利用できる分野は限られる。たとえば自動車では、ガソリン車から電気自動車(EV)への転換が推奨されている。しかしEVに充電する電気は多くの場合、発電所で作る。そこで化石燃料を使っているわけだ。

この問題について、国立環境研究所は一般向けの広報パンフレットの中で次のように説明している。

「ガソリン車は、ガソリンの持つエネルギーの最大20%程度しか走行に使うことができません。一方、電気自動車は(中略)最大80%程度を走行に使うことができます」

「日本でガソリン車の代わりに電気自動車を導入すると、CO2排出量を約半分に削減できます」

つまり個人所有の自動車でガソリンを燃やすより、発電所で集中して燃焼させた方がエネルギー効率が高いのである。単純にEVイコール炭素ゼロではないことを、知っておきたい。

もちろん、太陽光や風力などの再生可能エネルギーで電気をつくり、それでEVを走らせれば理論上はCO2排出量をゼロできる。しかし現実には、再生可能エネの発電能力や夜間の充電需要などの壁があり、かなりの期間は化石燃料を使う発電に頼らなければならないだろう。それでもガソリン車からEVへの転換は、CO2削減で大きな役割を期待できる。

実は水素転換も同じで、クリーンエネルギーである水素を製造するには多くの場合、何らかの電気エネルギーを使う。いや、そもそも自動車も水素発生装置も、太陽光発電パネルだって製造工程や廃棄時には何らかのエネルギーが必要だ。つまりCO2は完全にはゼロにはならない。

CO2による気候変動の脅威が多くの人に認識され、京都議定書が採択されたのが1997年。以来、ほぼ四半世紀の間にCO2削減のために多くのアイデアが出され、技術的可能性が検討されてきた。実用技術の開発も進んだ。たとえば発電所から出る高温・高圧の排熱は発電に再利用されるようになり、最新設備の発電効率は50%以上も昔より改善している。しかし脱・炭素の決定打になるものではない。この先、革命的なアイデアが出てくることを期待しても、そう簡単ではないだろう。

要するに脱・炭素とは、CO2ゼロの技術に思い切って乗り換えるのではなく、さまざまな取り組みの積み上げの先にある。何をどんな割合にすれば最も効率的かを考え、徐々にCO2排出量を減らしていくのが王道だ。省エネと同じで、省・炭素と呼ぶ方が適切なのではないだろうか。

そのためには発電所や送・変電を効率化するのはもちろん、全体をコントロールして排出量を最適化していく必要がある。危機の状況を監視する各種センサーや需要予測などに使うAI、既存の各種省エネ技術も動員する。総合力が問われるビジネスである。省エネと省・炭素の技術の広がりと深化に注目したい。

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