国内の新型コロナウイルスの新規感染者数はいったん落ち着きを見せている。昨年の年末年始は新規感染者数が急激に増加し、東京から地方への移動がはばかられた。それも相まって「今年こそは帰省を」と考えている方も多いのではないだろうか?
インターネットなどが発達していない時代では、東京にいないと最新の情報が得られないなど地域格差は大きかった。高度経済成長期に企業は地方から東京へ本社を次々に移し、若年層を中心に人材も地方を離れた。
高度経済成長期から50年。2020年代は一変して、大都市圏から地方への移住が注目されている。本社を山梨県富士河口湖町に移転した大手芸能事務所のように、2021年1-6月の半年間で首都圏外へ本社を移転した企業は186社に上る。テレワークの普及など、新型コロナウイルスの影響で働き方が変化した。そのあおりを受けた会社組織の見直しが、地域経済の活性化の転機になることは、間違いないであろう。
さらに、地域の特徴を活かし、社会課題の解決に取り組んでいる事例も増えている。
「イノベーションを推進する町」。北海道十勝地方北部に位置する上士幌町(かみしほろちょう)は広大な土地を持つという特徴を生かして、ドローンや自動運転技術などのイノベーションの実証実験場を整えている。
10月に、食料品をドローンで個宅へ配送する新しい物流システムの実証実験を日本で初めて実施し、2022年度の実用化を目指している。実用化に至れば、人口減少による人手不足で末端の顧客への配送が難しくなる「ラストワンマイル」問題の解消に繋がる。数年後には「ドローンの街」と呼ばれているかもしれない。
さらに上士幌町は、土地の多さを利用して、会議室やネット環境を整備したシェアオフィスを設置。首都圏の企業の呼び込みにも力を入れる。同町を拠点に働く人は増え、東京から定期的に通う人もいるほどだ。
街全体を一つのパッケージに見立て活性化に取り組む地域がある。「美人の湯」として有名な、島根県有福温泉街だ。
有福温泉は1400年の歴史を持つ。聖徳太子が生きた時代に、天竺より入朝した法道仙人が山奥で見つけた温泉だ。透き通った温泉と古き良き街並みは「山陰の伊香保」として親しまれている。
しかし近年、廃業が相次ぎ、現在営業する旅館はわずか3施設。空き家も目立つ。
そこで「温泉地まるごとホテル」化を始めた。旅館は宿泊に特化し、食事は温泉街の空き店舗に入る企業が担う。宿泊施設と飲食店を分ける「泊食分離」を実践し、街を一つのホテルとして見立てる。
さらに2021年度に、働きながら休暇をとる「ワーケーション」の環境を整える。NPO法人による自然の中での保育体験などを組み合わせ、子連れでも楽しめて長く滞在できる仕掛けをつくる。
新たな人の流れをつくることで、温泉街の再生を狙う。
「高齢化」という負のイメージから「健康長寿のまち」としてのブランドを確立した、長野県佐久市。
佐久市は、長年予防医療に取り組んできたことにより、平均寿命が高い一方で一人当たりの国民健康保険医療費が低く抑えられている。「地域の福祉」を地域の特徴に。国内外へのPRにより、世界各国から佐久市の健康長寿や医療などを学ぶために訪問されている。
さらに6月、ソフトバンクと「地域活性化事業連携協定」を締結した。より暮らしやすい街を目指し、行政のDX を推進する。「スマート自治体佐久市」の実現に向けたイノベーションを共創する。
地方には首都圏にない特徴がある。広大な土地、豊かな水資源、健康長寿のまち…。コロナ禍になり、地方と都市が分断され、地方の可能性が再注目された。その注目が一過性のものにならないためには、社会課題をいかに前向きに解決し、「新しい地方のカタチ」を作る姿勢とアクションにかかっている。
年末年始、久々に地方に帰省した際は、改めて生まれ育った地域の特徴や魅力を探し、目の前にある「潜在力」を考えてみるのも、おもしろいかもしれない。

