誰もが一度は読んだことがある、藤子・F・不二雄作品。「ドラえもん」や「オバケのQ太郎」、「怪物くん」などの代表作を始め、多くの作品が人々に親しまれ愛されている。
1931年12月1日、藤子・F・不二雄こと藤本弘さんは富山県に生まれる。絵を描き空想にふけることが好きだった藤本少年は、小学生時代に安孫子素雄さんと出会う。彼こそが、後にコンビを組む藤子不二雄Aである。1951年17歳の頃に、藤本さんと安孫子さんは“藤子不二雄”として「天使の玉ちゃん」でデビュー。1969年に「ドラえもん」の連載を開始し、国民的漫画家の名を馳せるようになった。
コンビ解消後も藤本さんは、藤子・F・不二雄として漫画道に人生を捧げた。彼の作品は、老若男女問わずいつの時代も人々を楽しませている。
数ある藤子・F・不二雄作品の中でも、SF短編は名作だ。「ドラえもん」や「キテレツ大百科」などのSF長編は、クスリと笑えるハッピーエンドの話が多い。一方で、短編はブラックユーモアたっぷりの話もあり、大人こそ必読だ。
SF短編の中から「値踏みカメラ」(藤子・F・不二雄『異色短編集』パラレル同窓会、小学館文庫、1995)を紹介する。竹子は、格好良くてお金持ちの青年と冴えないカメラマンから想いを寄せられる。ある日、被写体の“原材料費・本体価格・将来うみだす利益・自分にとっての価値”が分かる「値踏みカメラ」を手にいれる。竹子が2人の男性をカメラに写し、選んだ相手とは…?
同短編集には、カメラを題材とした話が多く載せられている。「値踏みカメラ」は物だけでなく人の価値も写し出すユーモアが、特に面白い。自分はいくらになるのだろう…と思いながら読んでしまう。
そして、「値踏みカメラ」の一部の機能は実現している。
Googleが提供している画像検索サービス「Googleレンズ」は、かざすだけで被写体についての検索ができる。物の名前だけでなく、その値段を検索することも可能だ。Googleが保持する膨大な画像と被写体をAIが比較し、類似性や関連性を探す。そこから得た情報をもとに検索結果を提示する。世界中のデータを保持するGoogleだからこそできるサービスだ。
バリュエンスジャパン(東京都港区、六車進社長)が開発したアプリ「Miney(マイニー)」は、スマートフォンで撮影するだけで資産価値を査定することができる。ブランド品やアクセサリーだけでなく、不動産までも査定することができる。現在価値は、同社が運営するBtoBオークションから得た膨大なデータや、AIによる分析をもとに査定。GoogleレンズもMineyも、スマートフォンのカメラで誰でも簡単に利用することできる。
短編の最後のコマには執筆終了時の日付が書かれている。この作品は1981年に描かれた。それから40年。進歩したデータサイエンスやAI技術が「値踏みカメラ」の実現を可能にした。
藤子・F・不二雄は1996年、『大長編ドラえもん のび太のねじ巻き都市冒険記』を執筆中に意識を失い、そのまま命を引き取る。最期までペンを取り続けた彼の物語は、決して夢物語ではない。技術が進歩した現実の未来を描いているのかもしれない。

