テクノロジーの発達が日進月歩の今、枯れた技術は駆逐される。こうした常識を見事に覆しているのが磁気テープだ。記録媒体としてその役割を終えたかに見えたが、近年は巨大IT企業がデータ保存にこぞって採用するなど、復権が著しい。
磁気テープと聞いて、すぐに思い浮かべるのは音楽用カセットテープやビデオテープだろう。今から60年以上前の1950年代に登場したテープストレージは、80年代後半から90年代にかけて音源や映像などの情報記録メディアとして一世を風靡した。しかし、その後、情報の読み書きの速度が速いハードディスクやフラッシュメモリの台頭で90年代後半には需要が落ち、記憶媒体としては第一線を退いた。放送局や金融機関などで使用が続けられたものの、存在感は低下していった。
こうした中、再び脚光を浴び始めたのはデータの重要性がかつてないほど増しているからだ。データ保存の技術の高度化で駆逐された磁気テープがデータ社会の本格到来を迎え、皮肉にもその役割が見直されている。
近年のデータ量の増加は著しい。米国の調査会社IDCによれば、世界で流通するデータ量は2025年に175ゼタバイト(1ゼタは10の21乗)と20年の2.7倍に拡大する。すべてのデータを保存するわけではないがデータ量が増えれば保存するデータも当然増える。情報を高速に処理するのみならず、処理した結果を検証するためにも安定的にデータを保存する必要性が高まる。
企業としては複数の方法でデータ保存するのが理想だが、コストとセキュリティの問題が悩みどころだ。両面から浮かび上がるのが磁気テープというわけだ。
特にセキュリティ面では磁気テープに利がある。オンライン上ですべてが実現する社会はオンラインが困難な状態になればすべてが実現しなくなる社会でもある。コンピューターウイルスにさらされる恐れもなく、停電や自然災害などからデータを守る観点からも、オフラインで保管できるのは魅力だ。
データの読み書き実行時にしか大きな電力を消費しないため、消費電力も同条件のHDDと比べると約16分の1と圧倒的に小さい。二酸化炭素の排出量削減にも寄与し、環境対応でも時流に合致している。
すでにAlphabet(Google持ち株会社)、Amazon、Facebook(現Meta)、Apple、Microsoftの「GAFAM」や、中国の百度(バイドゥ)、アリババグループ、テンセントの中国IT3強の「BAT」などなど世界的な企業が磁気テープを導入していることが技術への信頼を物語る。
磁気テープは枯れた技術でもしっかりした特徴があると、再評価される好例といえる。先端技術にばかり注目されがちだが、足元の「枯れた技術」「眠れる技術」が課題解決に役立つ場面はこれからも増えていくだろう。

