モノの所有が豊かさの象徴だった時代は終わり、現在ではモノをあえて持たないシンプルな暮らしが好まれるようになっている。モノを断ち、捨てることによって執着も離れ、生活の質が上がっていく。「断捨離」は今や世界中に広まった片付け術の一つだ。同様に、家や車、空間からスキルに至るまで、「所有」せずに「共有」するシェアリングエコノミー(共有経済)が普及し、私たちの生き方、価値観は変わり始めた。
「新品」でモノを買いたい人は35%超、半数を超える53%の人は中古品でも気にしない――。メルカリが運営するメルカリ総合研究所が全国のフリマアプリ利用者と非利用者1,000人を対象に行った2022年度の意識調査では、「モノはシェアしながら使うもの」といった最近の消費者志向が明らかになった。さらには、新品で購入する場合も、消費者はいずれ売ることを想定し、リセールバリュー、いわゆる“売りやすい”デザインやブランドを意識して買っていることが分かった。
4月には、一般のドライバーが自家用車などを使って有料で客を運ぶ「ライドシェア」が日本でも解禁された。まずはタクシーが不足している東京都と神奈川県、愛知県、京都府の一部区域でサービスがスタートした。車を所有せず、カーシェアリングを利用する人は年々増加しているが、日本の自家用車の平均稼働率は5%以下とかなり低い。これまで過疎地に限り導入されていたライドシェアが全国に広がれば、駐車場に置かれている多くの「遊休車両」が稼働し始めるかも知れない。
最近は、モノだけでなく、空間や個人のスキルといったものまでシェアする時代になった。これらは単にサービスとしての面だけでなく、働き方の柔軟化やシニア世代の活用、生きがいの向上などといった副次的なものにまで結びつく可能性がある。生涯にわたって自分のスキルを世の中に還元し、人の役に立つことができれば、幸福感も増大していくに違いない。個人同士がつながり、あらゆるものが共有できるようになった現在、シェアリングエコノミーは単にモノやスキルをシェアすることだけにとどまらない、働き方や生き方の価値観を塗り替えうるムーブメントと言えるだろう。
仕事のシェアという意味では、副業や、組織を超えたプロジェクト単位の働き方、複数の仕事を掛け持つパラレルワークなども、もはや珍しくなくなった。さらには「時間」も、誰とシェアするかによって人生の彩りを大きく左右する。自分の時間をいかに過ごし、どう働き、誰と何をシェアするのか。それは自分らしい生き方の追求そのものだ。
そのうえで、国連が掲げるSDGs(持続可能な開発目標)の実現に向けても、シェアするという考え方は欠かせない。シェアには「共有」だけでなく、「分かち合う」といった意もある。近年はサーキュラーエコノミー(循環型経済)の概念も普及し、製品や素材を再利用することで廃棄物や汚染をなくし、自然を皆で分け合いながら循環させていくとの試みが世界各国で広がっている。
限りあるエネルギー資源の利用についても同様だ。使わない時は他者に譲り、全体の消費量を最適化する。例えば、電力分野では再生可能エネルギーの普及に伴い、個人が太陽光パネルや蓄電池を所有し、余剰電力を売電するプロシューマー(生産者と消費者の融合)の存在が増えている。一方で、電力需要のピークタイムには、電力会社が高コストの発電設備を稼働させる必要がある。ここで、プロシューマーが余剰電力を電力会社やほかの消費者とシェアすることで、電力の安定供給と効率的な利用が可能となる。
シェアリングエコノミーの普及は社会や経済に変革をもたらそうとしている。特に電力やインフラの共有を通じたシェアリングエコノミーは、私たちの社会システムを大きく変える可能性を秘めている。

