人類が初めて月面に降り立ったのは、1969年のこと。それから半世紀超で宇宙開発を取り巻く環境は様変わりした。政府が主導してきた宇宙開発は、民間主導へと変わりつつある。宇宙を新たなビジネスの機会として捉える企業たちによって、宇宙が近い存在になりつつある。
1968年に映画「2001年宇宙の旅」が公開され、翌年にアポロ11が有人月面着陸をして、そんなに遠くない将来に月に行けるかもと思った人は多かった。実際、映画を見て、宇宙に憧れた米国の実業家が2001年に宇宙に飛び立った。人類初の有料宇宙観光旅行は10日間で2000万ドルと破格だった。それから約20年が経ち、2023年に米国のヴァージン・ギャラクティックがサービスを開始した。「旅費」は40万ドルと庶民にはまだまだ手を出せないが、かつての価格を考えると劇的に下がっている。
昨今の宇宙ビジネスは国の宇宙機関と民間企業の連携や、宇宙スタートアップによる巨額の資金調達の発表が目立つ。さらには、月面基地の建設計画など、まるで映画「2001年宇宙の旅」のような世界が議論されている。話題になっているのが、月に人間が長期間滞在することを前提とした「月面経済圏」だ。日本でも宇宙スタートアップのispace(アイスペース)が経済産業省の「中小企業イノベーション創出推進事業」で補助対象事業に採択された。テーマは「月面ランダーの開発・運用実証」だ。日本政府の「月面経済」への期待の大きさも伺える。
英PwCコンサルティングによると月面経済の市場規模は2020~2040年までの累積で1,735億ドルと試算されている。ただ、この試算は月への輸送市場と、月へのアクセスによって収集が可能になる月環境に関する様々なデータ市場、そしてそれを活用した資源ビジネスに限られるため、今後月面での生活圏構築によって生まれる市場を入れるとその規模はさらに大きくなる。
そのような中、宇宙ビジネス全体では、2040年に市場全体で”1兆ドル”に成長するという試算もある。新たなビジネスとして有名なのが、「宇宙ホテル」の実現を目指す米国のアクシオム・スペースや、宇宙で「3Dプリンター」を活用して小型の治具などの製造に成功しているメイドインスペース、日本では「宇宙デブリ(宇宙ごみ)」の除去にビジネスとして取り組むアストロスケールなどだ。
もちろんロケットや人工衛星などの先行している分野も外せない。最近特に話題なのが、人工衛星の観測データを使ったデータビジネスだ。衛星データは、全地球測位システム(GPS)による天気予報の精度向上などの既存ニーズだけでなく、海氷や森林の観測による地球環境の保護、遠隔地からの災害時の状況把握といったさまざまな場面での利活用が進んでいる。
とりわけ防災・減災用途として、火山や地震活動、地すべり、地盤沈下といった地殻変動や、海洋・河川などの異変の早期発見に役立つことから、衛星データは平時のインフラ監視という重要な役割も担う。そこでは、電波を使って物体を精度良くとらえる高分解能レーダの性能が鍵を握る。さらに衛星データは、観測、測位、通信など既存の分野を通じて、農業や林業、保険・金融、不動産、教育やエンタメといった新たな業界にも波及している。人工衛星が社会課題の解決につながれば、宇宙ビジネスは大きな夢と同時に人々の今の生活にも役立つだろう。

