生成AI(人工知能)の出現以来、AIという単語をニュースで目にしない日はないほど、AIは人間にとって身近なテクノロジーになった。ビジネスから副業、英会話などの学習や、創作の趣味にAIをフル活用している人も多いだろう。テキストや画像、動画に加え、最近では音声や音楽の生成AIがブームになっている。いずれAIが人の知能を超える“シンギュラリティー”が起こるとの脅威論も聞こえてくるが、優れた知能を持つAIの実現は科学者が長年描いてきた夢だった。
機械は思考できるか――。かつてこの 先進的なテーマに向き合ったのは、英国の数学者アラン・チューリングだ。1950年、彼は「計算する機械と知性」と題した論文の中で、その問いを「機械は人間のように知性を持ったふるまいができるか」ととらえ直し、これを試験する「チューリング・テスト」を提唱した。このテストは今日に続くAI研究の礎となり、チューリングが“人工知能の父”とも称されるゆえんだ。
同時期、「ノイマン型コンピューター」にその名を残すハンガリー出身の米数学者ジョン・フォン・ノイマンが計算機の基本設計を考案し、これがAIの研究や開発の基盤となった。その後、1956年に米国で開かれたダートマス会議で、米計算機科学者ジョン・マッカーシーによって「人工知能」という用語が初めて使われたとされる。会議には同じく計算機科学者のマービン・ミンスキーらが参加していた。
推論や探索を行うこの「第1次AIブーム」を経て、知識を取り込み推論するエキスパートシステムが台頭した1980年代の「第2次ブーム」、機械学習を軸とする2000年代の「第3次ブーム」と、AI研究は浮き沈みを繰り返しながらも着実に発展してきた。やがて2010年代に入ると深層学習(ディープラーニング)が広まり、AIはさらなる進化を遂げていく。
2017年に幕を閉じたAIと人間の“知性の戦い”を覚えているだろうか。ディープラーニングを使った米グーグル系の囲碁AI「アルファ碁」が2015年にプロ棋士を破り、以後も立て続けにAIが勝利したことから「アルファ碁は人との対局を終える」と宣言。その後も、独学でどんどん強くなる「アルファ碁ゼロ」などが開発された。
詩人ゲーテが「チェスは知恵の試金石である」と書き残したように、チェスやオセロなどのゲームは昔から人間の知性を表すものだった。チェスに将棋、さらに囲碁でAIが人間を打ち負かし、現在、ディープラーニングは画像認識や音声認識の精度を飛躍的に高め、医療診断や自動運転などさまざまな分野に導入されている。
2020年代になると、ディープラーニングを駆使した大規模言語モデル(LLM)が登場。現在はこの「第4次ブーム」の真っただ中にある。自然言語処理の技術が進歩し、自然言語で指示や命令(プロンプト)を与えられる対話型生成AIが開発され、一般にも普及した。加えて、画像や動画などの創造的なコンテンツをAIで生成できるようになったことは各方面に大きな衝撃を与えた。
機械学習から発展したディープラーニングが画像認識などの手法をガラリと変え、さらには自然言語処理の手法をも塗り替えたことで現在のAIが誕生した。ただ、人間と自然に対話ができても、「人間らしいふるまい」に到達したとは言いがたく、その実現に向け、今後は人間の行動を観察しモデル化する認知科学からのアプローチが欠かせない。AIの開発はこうした多様な研究活動の上に成り立っている。
AIの“頭脳”となる半導体などの開発もしかり。高性能な中央演算処理装置(CPU)や画像処理半導体(GPU)の技術革新に加え、それらを搭載したサーバー同士を光ファイバーでつなぐ通信用半導体デバイスなどもまた、AIのさらなる性能向上には欠かせない重要な要素である。

