仏教や西洋文化の受容、食文化の柔軟性……。日本人ほど「いいとこどり」が得意な民族はないだろう。それは製品の開発でも見られる。既存技術の長所を組み合わせることで、より優れた製品を世に送り出す。ハイブリッド自動車、携帯用音楽再生機、電動自転車など、「いいとこどり」で私たちがあっと驚くような技術革新を生み出している。この柔軟な発想と技術の融合が、日本の製造業を支えているのだ。特に日本の製造業の強みは、完成品だけでなく部品産業の層の厚さである。IT・インターネットが普及し始めた2000年代以降、デジタル機器の需要増加やITインフラ拡充への対応など、それが一層顕著になっている。
部品の中でも電池は特にキーデバイスだ。そして今、蓄電技術の世界で、「いいとこどり」による革新的なブレイクスルーが注目を集めているのが「ハイブリッドスーパーキャパシタ(以下、HSC)」だ。HSCは従来型バッテリーとスーパーキャパシタ(電気二重層コンデンサ)、それぞれの長所を組み合わせた。
従来、蓄電デバイスは「エネルギー密度を高めるか、充放電速度を上げるか」というトレードオフに直面してきた。リチウムイオン電池に代表される従来型バッテリーは大容量の電力を蓄えられる一方、充放電に時間がかかる。対してスーパーキャパシタは瞬間的な充放電が可能だが、蓄電容量に制限があった。
HSCは、この二つの相反する特性を巧みに融合することで、新たな可能性を切り開いた。高いエネルギー密度と高速充放電能力を両立させただけでなく、100万回以上の充放電サイクルでも劣化が少ないという長寿命性も実現したのだ。従来の蓄電デバイスと比べて安全性も高いという特長も併せ持つ。
この技術革新は、様々な産業分野に新たな可能性をもたらしている。例えば、24時間365日の安定稼働が求められるデータセンターでは、瞬時の電力供給が可能なHSCが非常用電源として注目を集めている。世界のデータセンターの電力消費量は右肩上がりで、特に生成AI技術の普及で安定した電力供給への需要は急速に高まっている。
路面電車やフォークリフトなどの産業機器分野でも、HSCの採用が進んでいる。従来の蓄電システムと比べて設置面積を縮小でき、総合的なコストも抑えられるという利点が、実用化を後押ししている。
さらに、電気自動車の分野でも新たな可能性が広がっている。高速充電と長寿命性を兼ね備えたHSCは、充電時間の短縮や航続距離の延長といった課題解決に貢献することが期待されている。
再生可能エネルギーの普及に伴い、効率的な蓄電システムの重要性は一層高まっている。これまで抱えていた制約を、異なる特性の「いいとこどり」で解決したHSCは、持続可能な社会の実現に向けた重要な技術として見逃せない。既存技術の価値を再定義し、ブレイクスルーにつなげる「いいとこどり」は日本のものづくりにおいて、大きな強みとなる可能性を秘めている。
「いいとこどり」は企業の垣根もこえているのが最近の傾向だ。背景には、技術の複雑化と開発コストの高騰がある。一企業で全ての技術を極めることが困難になる中、既存技術の効果的な組み合わせや、異なる製品カテゴリーの融合が、イノベーションの新たな源泉となっている。環境負荷低減や少子高齢化への対応など、複雑な社会課題に直面する製造業において、企業間連携による「いいとこどり」の技術開発は、重要性を増す一方だろう。

