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世界を支える知られざる技術。
3つの数字で読み解くCNCのスゴさ

全てを叶える超絶技術

世界を支える知られざる技術。
3つの数字で読み解くCNCのスゴさ
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「僕、実はバリバリの理系出身で、工場とか機械とかが気になるタイプなんです!」
そう目を輝かせる休日課長氏に対し、「案内役を務める私は文系なんですが……(笑)」と三菱電機の伴野公平氏は照れ笑いを浮かべる。
ここは三菱電機 東日本メカトロソリューションセンター。
学生時代に電気電子工学を専攻し、メーカー勤務のバックグラウンドを持つミュージシャンの休日課長氏が「CNC(シーエヌシー)」について学びにきた。
耳慣れない名前だが、この知られざる技術が世界を支えている。
「3つの数字で、CNCの凄さが分かります」。そんな伴野氏の言葉に導かれ、CNCの世界に足を踏み入れた休日課長氏は、取材後にこう呟いた。
「この技術がなければ、今とは全く別の世の中になっていたかもしれない……」
果たして休日課長氏が見たものとは──。

ベーシスト。1987年2月20日生まれ、埼玉県出身。2011年に東京農工大学大学院を卒業後、14年までは一般企業に勤めながらバンド活動を展開。現在は「ゲスの極み乙女」「DADARAY」「ichikoro」「礼賛」4つのバンドを中心に活動している。”食”関係の活動も行なっており、20年に著書『ホメられるとまた作りたくなる!妄想ごはん』(マガジンハウス)を出版、21年に同書が原案本としてドラマ化された。【SNS】X(@eninaranaiotoko)https://twitter.com/eninaranaiotoko、Instagram(@kyujitsu_kacho) https://www.instagram.com/kyujitsu_kacho/

ベーシスト。1987年2月20日生まれ、埼玉県出身。2011年に東京農工大学大学院を卒業後、14年までは一般企業に勤めながらバンド活動を展開。現在は「ゲスの極み乙女」「DADARAY」「ichikoro」「礼賛」4つのバンドを中心に活動している。”食”関係の活動も行なっており、20年に著書『ホメられるとまた作りたくなる!妄想ごはん』(マガジンハウス)を出版、21年に同書が原案本としてドラマ化された。【SNS】X(@eninaranaiotoko)https://twitter.com/eninaranaiotoko、Instagram(@kyujitsu_kacho) https://www.instagram.com/kyujitsu_kacho/

2018年三菱電機株式会社に入社。中部支社・産業メカトロニクス部・NCシステム課に配属。中部地区におけるCNCシステムの営業を担当。2022年8月よりMitsubishi Electric India(インド・バンガロール)に1年間の駐在。CNCシステムの販売支援を行う。2023年8月に帰国し、本社・FAシステム事業本部・産業メカトロニクス事業部・NC事業推進部・戦略グループへ。CNCビジネス全般の事業計画や販売戦略の立案を担当。

2018年三菱電機株式会社に入社。中部支社・産業メカトロニクス部・NCシステム課に配属。中部地区におけるCNCシステムの営業を担当。2022年8月よりMitsubishi Electric India(インド・バンガロール)に1年間の駐在。CNCシステムの販売支援を行う。2023年8月に帰国し、本社・FAシステム事業本部・産業メカトロニクス事業部・NC事業推進部・戦略グループへ。CNCビジネス全般の事業計画や販売戦略の立案を担当。

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  • 人力では不可能なカタチをつくる
  • データセンターやマスクの陰にもCNC
  • AIが実現する次世代の工場監視:NC MachiningAID

人力では不可能なカタチをつくる

伴野 休日課長さん、CNCの世界へようこそ。まずはこれをご覧ください。

休日課長 おっ、これはスマホの型?

伴野 正解です!

休日課長 精巧ですねえ。CNCで作られたものですか?

伴野 おっしゃる通りです。
CNCは「Computerized Numerical Controller」の略で、コンピュータで工作機械*を数値制御するための装置のこと。
私の後ろに並んでいるのがその実機です。自動車メーカーやスマホメーカーなどが部品を作るために取り入れています。
*金属などの素材を切削・研削し、必要な形状に加工する機械

休日課長 この装置を工作機械にセットするわけですか。

伴野 そうですね。より正確にお伝えすると、CNCはこの装置を含めて主に3つの要素で構成されています。
まずはここに展示されている「数値制御装置」。これはいわゆる“頭脳”で、人間が指示したプログラムを解釈し、それを工作機械の動きに変換する役割を担います。
次に「ドライブユニット」。数値制御装置からの指令をもとに、その先のモーターをその通りに動かすための電力を供給します。
加えて、モーターの実際の動きを見ながら電力量を調整し、正確に動かす役割も担っています。
最後に「モーター」が、その電力に基づいて正確に回転し機械を動かすことで、材料を削って部品を生み出していきます。

例えば、刃物を回転させるモーター、刃物自体を上下前後左右に動かすモーター、材料を動かすモーター、これらを連動させて制御することで複雑な部品を削り出す、といえばイメージが湧くのではないでしょうか?
複数のモーターを精密に連動させることで、人の手作業では不可能なほど複雑な形状の部品も作り出せるんです。

休日課長 うわっ、バラの模型とかすごいですね。こんな精度を求められる部品ってあるのかな。

伴野 鋭い観察ですね。そのCNCの精度については、今回お話しする題材の一つになっています。ここからはいくつかの興味深い数字を通じて、CNCの世界をもっと詳しく見ていきましょう。

休日課長 1ナノ……。すみません、どれくらいのサイズなのかちょっとイメージが……。

伴野 日常では目にしないサイズですからね。
1nmは、1mm(ミリメートル)の100万分の1です。髪の毛の1万分の1、インフルエンザウイルスの100分の1。
極めてミクロな世界ですが、なぜこの数字を取り上げたかというと、三菱電機の最新のCNCは、この1nm単位で工作機械を制御できるんです。

休日課長 それはすごい。しかし、ここまでの細かさが必要とされる世界があるんですね。

伴野 例えばスマートフォンのような最先端の電子機器では重要なんです。

休日課長 そうか、スマホはどんどん小型化している。

MstudioImages/Getty Images

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伴野 高性能化と小型化が同時に進む中で、一つ一つの構成部品を縮小しなければならなくなります。
そのぶん、金属加工の単位も小さくなるというわけです。
ただ、これはあくまで精密加工が必要となるイメージをお伝えするためのたとえで、実際にナノレベルが求められるのは、もっと限定的な用途です。それが光学機器です。
スマホにも高性能のレンズを搭載していますが、レンズは表面の歪みが鮮明さや解像度に大きく影響するため、その研磨はナノ単位の細かい精度で進める必要があるんです。

休日課長 僕の人生でここまでミクロな世界と向き合うことはなかったので、驚くばかりです。しかし、よく1nmまで到達しましたね。

伴野 超精密加工の走りといえる工作機械メーカーさんと協業する中で、ここまでの技術にたどり着きました。
ただ、あらゆる部品でナノレベルの細かさが求められるわけではありません。精密であればあるほどコストも時間もかかりますから。

休日課長 現状では、市場のニーズより技術の方がやや先を行っている、ということですね。この精密さを他の分野で活かすとしたら、何があるのかな。医療機器とか?

Kkolosov/ Getty Images

Kkolosov/ Getty Images

伴野 まさに。先ほどナノレベルの制御技術が、光学分野で重要な役割を果たしているとお話ししましたが、光学機器の進化は、医療分野を含む科学技術全体の発展につながります。
例えば、顕微鏡の性能向上は、医療技術の発展に直結し、基礎研究や医療の世界での新しい発見を可能にする基盤になり得ます。
そういった社会の発展を支える分野でナノ制御技術が活躍してくれると、とてもやりがいを感じますね。
では、続いての数字にまいりましょう!

休日課長 台数? ということは何かを生産した数? うーん、なんだろう。

伴野 正解は、世界の自動車の生産台数です。

休日課長 自動車! 毎年ほぼ1億台とは結構なペースですね。

伴野 自動車って金属部品の塊で、1台あたり2万点もの金属部品が使われているのをご存じですか?

dreamnikon/ Getty Images

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休日課長 いや、知りませんでした。その多くにCNCが関わっている?

伴野 うーん、約80%が金属部品なのでそのほとんどには関わっていて、ほかの部品でも金型製作に関わっていると考えると、おおよそ9割程度でしょうか。
金属部品は、溶かして固めたり、圧縮して固めたり、最近では3Dプリンターでゼロから成形するなど、様々な方法で製造されます。CNCで動く工作機械は、削って成形をするので、精密な部品、複雑な形状の製造に使われます。

休日課長 CNCでどんな部品も造れるなら、全てCNCを使えばいいのにと思わなくもないですが。

伴野 金属の塊をイチから削り出すのは時間がかかるんですよ。求められる精度や素材、形状にあわせて効率のよい方法が選ばれます。CNC工作機械を用いるにしても、まずは圧縮などして目指す形に近い状態を作ってからCNCで仕上げをする方法を取ります。

休日課長 なるほど。しかし年間約1億台のクルマが生産され、その部品のほとんどにCNCが関わっているとなると、ものすごい貢献ぶりですね。

RainerPlendl/ Getty Images

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伴野 実際、CNC工作機械の発展が自動車の大衆化に大きく影響していると思います。
こんな想像をするのはナンセンスですが、CNCがなければ、間違いなくクルマが溢れる世の中になっていないでしょうね。
生産コストが途方もなくかかってしまいますから。

休日課長 大量生産を後押しする技術というか。

伴野 まさに「早く」「精密に」「安定して」造れるのがCNC工作機械の特長です。
それを活かすことで、膨大な数の部品の効率的な生産が可能になります。

休日課長 でも、CNCが貢献するのは自動車製造の工程の一部ですよね?

伴野 おっしゃる通りで、他にも生産コストに影響する点はあります。
例えば、工程間をいかにスムーズに連携させるかもコストに関わる重要な課題。
そのためユーザーさんからは、工作機械と前後の工程にある機器とを連携させてほしい、といったご要望もいただきます。
その点、三菱電機は伝統的にFA(ファクトリー・オートメーション)機器を製造しており、様々な設備の制御に適し、工場の生産ラインの制御でも使われるシーケンサなども扱っています。
これらをパッケージとして工場に導入して生産効率を高めることができるわけです。

休日課長 おお、それは大きな強みですね。

伴野 はい。他のCNCメーカーにはない、総合電機メーカーの三菱電機だからこそ提供できる価値だと思います。
それでは最後の数字にまいりましょう!

休日課長 これは分かりました! 三菱電機のCNCが使われている国の数、ですね。

伴野 正解です! より正確には、私たち三菱電機がCNCサービスを提供している国の数です。

休日課長 サービスというのは?

伴野 納入後のサポートです。工作機械を使い始めた際に、プログラムで指示した通りにCNCを制御できなかったり、細かい不具合が生じたりすることがあるんです。
また、操作に慣れるまでにも時間がかかるもので。

休日課長 そういった保守メンテを100カ国以上で展開している、と。まず、それだけ多くの国で製品ニーズがあるというのがすごいですよね。
CNCってそんな頻繁に買い換えるイメージがなかったので、あんまり儲からないんじゃないかなと勝手に思い込んでいました(笑)。

伴野 でもそのご認識は間違っていなくて、CNCが売れるのは、メーカーがある商品の生産量を増やしたり、新しい製品開発に向けて設備投資したりするタイミングです。
それでも、世界中で年間数万台売れるほどの需要があるんですよ。
と言っても、100カ国以上に私たちが輸出しているわけではないのですが。

休日課長 となると、なぜそれだけの数が海外に?

伴野 私たちのお客様である工作機械メーカーは、自社製品(=工作機械)に当社CNCを搭載し、自動車メーカーなど工作機械ユーザーへ販売しています。
工作機械メーカーが機械を海外輸出すれば、必然的に当社のCNCも海外へと広がっていく。
その結果、100カ国以上に広がり、今や当社のCNCの大多数が海外で稼働している、という流れです。

休日課長 そうやって海外に散らばっていった自社製品をきちんと把握し、アフターサービスしているわけですね。
ただ、国によって文化や法律も違うと、現地のニーズに合わせた対応をしなくちゃいけないから大変なのでは。

伴野 「正解」は国によってまちまちですからね。
トラブル対応時も基本的にはスピード感が重要ですが、とにかく直接会いに行くのを好まれる国もあれば、効率性重視で修理品を郵送することが好まれる国もありますし。
まあ、国別の傾向もあれば、お客様によっても好みがありますから難しいです。

休日課長 そんなに違うんですね。

伴野 CNCメーカー同士でもグローバルでのサービス力を競争しています。
やはり、現地にサービス拠点を持つことが重要になってきますが、その点、総合電機メーカーである当社は、エアコンなどの家電製品を先行して海外展開しているなど、CNCの需要が生まれる前から現地にビジネスの基盤があることが強みと言えるかもしれません。
法律や文化、商慣習なども熟知したうえで、ローリスクでサービス展開できるからです。

休日課長 なるほど、一般家庭向けのメジャーな製品があるのは大きなアドバンテージですよね。

データセンターやマスクの陰にもCNC

伴野 ここまで、三菱電機のCNCについていろいろな話を聞いていただきありがとうございました! いかがでしたか?

休日課長 今日、ここに来るまでCNCの名前すら知りませんでしたが、CNCなしでは世の中が回らないし、スマホも自動車もこれだけ普及していなかった、ということがよく分かりました。
ちなみに、CNCの販売も好調とのお話もありましたが、最近ではどんな分野で需要が伸びているんですか?

伴野 最近のトレンドでいうと、AI技術の発展・普及を背景に国内外でデータセンターの建設が進んでいます。
機械学習では膨大なデータ量を計算するので、データセンター内で多くの半導体が稼働しながら大量の熱を放出しています。
その熱で半導体が壊れてしまわないよう冷却する必要があるのですが、冷却装置もCNCを搭載した精密な機械で加工しているため、データセンターの増加に伴いCNCの需要も伸びています。

休日課長 データセンターという裏側の世界の、さらに裏側でCNCが活躍しているんですね。

Oselote/Getty Images

Oselote/Getty Images

伴野 こういう製品のトレンドの波は定期的に訪れます。例えばコロナ禍のときはマスク製造装置。
金型で不織布をプレスしてしわを付けるのですが、その金型の製造設備もCNCで制御しています。

休日課長 まさかマスクにもCNCが関係していたとは……。
トレンドといえばスマホなんかも次々にバージョンアップするし、もっというとスマホの次の存在がそろそろ世の中に出てきてもおかしくない気が……。

伴野 そうですね。その意味でいうと、設備投資の情報をきっかけに世間より2、3年早く次世代製品の情報が耳に入ったりもします。

休日課長 あ、確かに! ここまで聞いてきた通り設備投資とCNCはセットですもんね。

伴野 もちろん情報を漏らすことはありませんが、未来のトレンドを、世の中よりちょっと早く知ることができる。
これも、CNCに携わる者の楽しさの一つかもしれませんね。

AIが実現する次世代の工場監視:NC MachiningAID

製造現場の「匠の技」をデジタル化する──この挑戦から生まれたのが三菱電機の加工診断ツール「NC MachiningAID」だ。

工具の状態管理は長年、熟練工の経験と勘に頼ってきた。しかし、熟練工の減少と製造コストの上昇が課題となっている。「NC MachiningAID」は、金属加工時の微細な電流変動を常時測定し、正常時のデータと比較。わずかな異常も見逃さず、瞬時にアラートを発信する。

この「AIの目」により以下のことが可能になり、製造現場のコスト削減と品質向上の両立に貢献する。

 📍工具の最適な交換時期を予測

 📍突発的な加工不具合を早期に発見

 📍作業ミスによる不良品生産のリスクを軽減

ベテラン職人の技をAIに継承するNC MachiningAID。このツールは、日本のものづくりの未来を支える新たな基盤技術となるだろう。

(構成:堀尾大悟 撮影:黒羽政士 デザイン:Seisakujo inc. 編集:下元陽)

※本記事内の製品やサービスの情報は取材時(2024年10月)時点のものです。

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