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フィジカルAIでつくる、産業のミライ。
CEATEC 2026 で見えた、
三菱電機のナレッジとAIが生み出す新しい価値

100年超のナレッジとフィジカルAIで進化する製造現場

2026年10月13日、国内最大級の技術展示会「CEATEC 2026」が幕張メッセで開幕しました。

三菱電機グループが掲げたテーマは「フィジカルAIでつくる、産業のミライ。~現場ナレッジを起点に、データと共創で生み出す新たな価値~」。

フィジカルAIは、カメラやセンサーで物理世界の状況をとらえ、AIが判断して、ロボットや設備を自律的に動かす技術です。

現場で積み上げてきたナレッジを起点に、データ活用と社内外パートナーとの共創によって、フィジカルAIをどう事業にしていくのか。その手がかりになるのが、ブースに並んだ実機でした。音源分離の体験やねじ締め作業を再現するロボットのデモを通して、三菱電機の現在地をレポートします。

1. 三菱電機が
CEATEC 2026で示した
フィジカルAI

2026年はフィジカルAI元年と呼ばれ、各社が開発競争を進めています。

そのような中で、三菱電機が目指すのは「物理世界を理解し、判断し、環境の曖昧さ・揺らぎを吸収しながら、安全に動くフィジカルAI」。工場の自動化から社会インフラの安定稼働まで、100年以上現場を支えてきた事業で積み上げた知見を持ち込んでいます。今回の展示は、その中でも製造現場が中心です。

人型ロボットから工場の設備、建物の空調まで。フィジカルAIの技術が並ぶ三菱電機グループブースに潜入します。

2. HIGHLIGHTS

現場の“揺らぎ”を吸収する。
三菱電機のフィジカルAIとは

三菱電機がフィジカルAIの実装に注力するのは、経営の柱として掲げるスマートエナジー、オートメーション、ディフェンス&スペースの3領域です。止まれば社会への影響が大きい現場ばかりです。だからこそ、想定外のできごとを吸収しながら動き続ける仕組みが求められます。

あらかじめ決めた手順どおりに動かすルールベースの自動化と、フィジカルAIとでは何が違うのか。同社はフィジカルAIを、2つの要素で支えると説明します。ひとつは、熟練作業者の動きを再現すると同等レベルの判断と行動を実現する「行動モデル」。もうひとつが、既存のセンサーや設備と組み合わせる「インテグレーション」です。

行動モデルは、熟練者が手の感覚や経験等で補ってきた判断と同等レベルの判断・行動をAIが自律的に再現する仕組みです。現場は絶えず変化しているため、人間が微妙なずれを補正しながら作業しています。三菱電機は、この“ずれ”をAIに吸収させるため、行動モデルを搭載したロボットで実証を進めています。

また、フィジカルAIはソフトウェアだけでなく、様々なハードウエアや制御技術を含めた総合的な技術を要するため、インテグレーションが重要となるのです。

ものづくりの知見や機器の制御技術と、パートナーの最新技術を組み合わせて現場の変化を吸収し、安全に動くフィジカルAIを実現。

「守りながら、つながり続ける」
三菱電機Serendie® × Nozomi Networks 対談

ステージでは、三菱電機 執行役員 DXイノベーションセンター センター長の朝日 宣雄氏と、Nozomi Networks 最高経営責任者(CEO)兼共同創業者のアンドレア・カルカーノ氏による対談が行われました。

朝日氏はまず、三菱電機が100年以上続けてきたハードウエアビジネスを振り返ります。機器は、ものによっては数十年にわたって使われます。

納入後も、保守・修理を通じて顧客との関係を築き、長く支えてきました。一方で、機器納入後の利用状況や、顧客の課題の変化を継続的に捉え、それに応じた解決策を届けることには難しさがありました。こうした顧客との関わりをさらに深め、利用データをもとに課題の発見から解決策へとつなげるために用意したのが、デジタル基盤『Serendie®(セレンディ)』です。

製造現場では、設備から得られるデータを活用し、現場の高度化やAI導入を進める動きが広がっています。それに関連して、工場やインフラを取り巻くサイバーリスクへの対応も、これまで以上に重要になっています。

データを継続的に受け取るには、工場やインフラの機器をネットワークにつなぎ続けることになり、つなぐほど外部から狙われる経路も増えます。

(左)三菱電機 朝日 宣雄氏
(右)Nozomi Networks アンドレア・カルカーノ氏

カルカーノ氏によると、経営層のサイバーセキュリティに対する認識は大きく変化しています。2年前までは課題の一つと捉えられていましたが、現在ではAI導入を阻む最大の障壁と認識されており、ある調査によると40%の経営層がサイバーセキュリティを最も重要な課題として挙げています。

AIの普及により、攻撃者も高度なAIを活用して脆弱性調査や攻撃の自動化を行えるようになっています。AIモデルそのものは誰でも利用できる時代になりつつあり、差別化の鍵となるのは現場で蓄積されたデータと運用コンテキストです。Nozomi Networksは世界12,000以上の施設と1億1,500万台以上の機器を継続的に監視し、設備の稼働状態や、設備間の通信状況を把握しています。

カルカーノ氏は「AIの活用が産業分野にも広がる中、現場固有のデータや運用状況を踏まえたセキュリティ対策の重要性は、今後さらに高まっていきます。安全性を確保しながらフィジカルAIの活用を進めることが、製造業にとって重要なテーマとなります。」と話しました。

三菱電機の長年の知見を集約したデジタル基盤Serendieと、Nozomi Networksの強力なパートナーシップは、フィジカルAI時代の頼もしいインフラとなっていくはずです。

3. PICK UP

AIが工場全体を最適化する
「無人化工場」構想

三菱電機が目指す無人化工場は、人を減らすための工場ではなく、AIと人がともに成長しながら自律的に運用される「知能化された自律運用工場」です。三菱電機では、ものづくりの成熟度を6段階の「自律化成熟レベル」として整理し、その理想形をフィジカルAIが人の作業までも担う「無人化」と位置づけています。一方で、人がいながらも自律的に運用が行われる「自律化」も、重要な価値として定義しています。これらを支えるのが、長年培ってきた生産技術ナレッジと現場データ、そして複雑な判断を最適化するAIオーケストレーション。デジタルとフィジカルが絶え間なく連動しつづけ、現場や工場全体が成長していくというコンセプトです。

三菱電機が目指す無人化工場の3つの価値「生産革新」「レジリエント経営」「人的創造性向上」と、自律化成熟レベルがLevel 0のLEAN化からLevel 4の自律化へ段階的に進化することを示した図。
デジタル空間の工場統括AIエージェントとフィジカル空間のフィールド統括エージェントが連携し、製造ナレッジやリアルタイムデータ、デジタルツインを活用して、自律改善サイクルを実現する工場の概念図。

工程単位では、ねじ締め実証AIが実機で動いていました。従来は部品を固定してプログラムを組んでも、部品ごとの寸法のばらつきが原因となり、ねじ山をつぶしてしまうことが一定割合あったといいます。

担当者は「ねじ締めは定型的な作業に思われるかもしれませんが、実は人間は手の感覚で微妙なずれを補正しながら締めています。その点、プログラムどおりに動くロボットは、0.1ミリでもずれがあると正しく締められなくなってしまう難しさがあります」と話します。

ねじ締めAIの実演の様子。ねじ穴をアームが自律的に追いかけ、正確に締め付ける。

今回のねじ締めAIは、1つのねじ穴につき2,000枚程度の画像を学習させることで、固定用の治具も専門知識も不要に。デモでは、受ける側の部品をわざと動かしても、アームがねじ穴を追いかけ、正確に締めることができていました。

マイク1本から必要な音だけを取り出す
「フィジカルAIの“耳”」

1本のマイクで収録した音から、必要な音だけを取り出す「タスク汎用音源分離技術(TUSS)」。人が音の変化で異常に気づくように、AIが機械の異変を捉えられるよう、さまざまな音が混ざった状態から必要な音だけを取り出します。三菱電機はこの技術を「フィジカルAIの“耳”」と呼んでいます。

TUSSは1つのAIモデルを用いて、オフィスでも製造現場でも使える点が特徴。体験ブースでは、複数の音が重なった状態から音声だけが取り出され、文字起こしまでされていました。

工場の異常音診断では、人の声やアラームが混ざったままだと正常な機器を異常と判定してしまうため、必要な音だけを取り出す技術が役に立ちます。この技術は今回のCEATEC AWARDで総務大臣賞を受賞し、2027年度中のフィジカルAIへの実装と製品適用を目指しています。

複数人の声やノイズ、機械音などを1つのモデルで分離する「タスク汎用音源分離AI」の体験デモ。

エネルギー効率最高水準である
PUE1.1を目指す、
次世代データセンター

生成AIやフィジカルAIの普及でデータセンターは増え続け、電力需要は急増しています。電力を消費するAIの利用はもはや避けられない。ではその電力をどう効率的に運用・削減するか。三菱電機が掲げるのは、エネルギー効率業界最高水準であるPUE1.1です。PUEは電力使用効率の指標で、1.0に近いほど電力効率が高いことを示します。

PUE1.1に近づける手段のひとつが、冷却システムの最適制御です。サーバルームの温度は、通常は管理上限に対して余裕を持って運用されています。三菱電機の技術では、AIが空調機の最適な設定値を提案し、風量を抑えて消費電力を削減します。提案された設定値を使うかどうかは、現状は管理者が判断していますが、最終的には自律制御を目指すとのことです。

実現に向けては、鴻海精密工業やZutaCoreとの協業、NVIDIAとの連携も進めています。

AIを活用した自律制御で冷却効率を最適化し、次世代電源・冷却システムにおけるエネルギー消費量を削減する仕組み。

装置と材料をセットで届ける、
エレファンテックとの協業

CVC(Corporate Venture Capital)を通じて出資した東大発ベンチャー・エレファンテックとの対談も行われました。登壇したのは、同社 代表取締役社長CEOの清水 信哉氏と、三菱電機 産業メカトロニクス製作所 レーザシステム部 部長の横井 茂氏です。

2014年創業のエレファンテックは銅のナノ材料を使った次世代配線材料を手がけ、AIサーバやパッケージの微細化に貢献しています。三菱電機が手がける基板穴あけ用のレーザ加工機と、エレファンテックの配線材料。届け先となる顧客がほぼ重なるため、装置と材料をセットで提案できます。

2026年には追加で40億円を出資し、プリント基板業界での協業に踏み出しました。今後スタートアップと三菱電機のシナジーが生まれることが期待できそうです。

(左)エレファンテック代表取締役社長CEO 清水 信哉氏
(右)三菱電機 産業メカトロニクス製作所 レーザシステム部 部長 横井 茂氏

4. 現場のナレッジをAIへ。
展示から見えた三菱電機の現在地

ねじ1本を狙いどおりに締める工程から、工場全体を自律的に運用する構想まで、ブースには「フィジカルAI」という共通概念のもとに幅広いユースケースが見込める展示が並んでいました。

AIと聞くと、先進的で華やかな印象を抱きがちです。しかし今回見たのは、0.1ミリ単位のずれやロボットの動き一つに、膨大な試行錯誤を積み重ね、製造現場の課題を一つひとつ解消していく地道な取り組みでした。その出発点にあるのは、いずれも現場のナレッジです。100年以上ハードウエアを届けてきた企業が、蓄えてきた知見をデータに置き換え、AIに引き継ごうとしている。そこに腰を据えて取り組む難しさと三菱電機の覚悟が伝わる1日でした。

(ライター:落合 真彩)

※本記事内の製品やサービスの情報は取材時(2026年10月)時点のものです。

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