日本で流通している約6~7割※1の電気の売買取引や需給管理を、あるソフトウェアが裏側で支えています。それは、三菱電機の電力事業者向けシステム「BLEnDer(ブレンダー)※2」です。電力は常に需要と供給を一致させる必要があります。その判断に必要な“いつ・どこで・どれだけの電気が使われ、どれだけ供給できるか”のデータを把握するためには、“データの一元化とリアルタイム連携”が重要です。BLEnDerは2003年の販売開始から20年以上、電力自由化や再生可能エネルギーの導入拡大など、激しく変化する電力業界の中で進化を続け、日本の電力事業を支えてきました。今回、横浜にある三菱電機 電力ICTセンターでBLEnDerの歴史を振り返るイベントを開催。BLEnDerの誕生と成長を支えた7人のエンジニアにより、当時の話や熱い想いが語り尽くされました。多くのビジネスにも活かせる仕事論が盛りだくさん。本記事ではイベントのレポートと次世代を担うエンジニアが描くBLEnDerのこれからについてお伝えします。
※1当社調べ。2024年度の電力量データより算出。小売電気販売電力量において。
※2「Bid Liaison and Energy Dispatcher」の文字を組み合わせた名称で、電力市場における基幹業務を表現しています。
INDEX
BLEnDerを創り上げた
社員たちの再会
逆風をはねのけ続けた20年の軌跡
BLEnDer開発の立役者である塚本氏は、1994年頃より電力制度改革分野でのソフトウェア事業立ち上げを考えていました。1997年にエンジニアのマルミローリ氏が仲間に加わったのち、翌1998年にアメリカで電力制度改革が発表されます。それは独占する送電線を電力会社が他社に開放するという当時の日本では天地がひっくり返る話。1990年代半ばからあった電力事業の世界的変化を注視していた塚本氏は、いずれ日本にも電力自由化の波が来ると確信し、自由化で複雑化するであろう電力需給を最適化するためのシステム(のちのBLEnDer)の開発へ本格的に着手します。一方、社内は必ずしも一枚岩ではなく、従来の事業慣行との調整について慎重な意見が多くありました。しかし塚本氏は「世界の大きな流れには逆らえない」という強い信念で突き進みます。これこそが、BLEnDerの原点でした。
当初はご理解・ご賛同をいただけるお客様は少数でしたが、お客様との共同研究やセミナーなどでの発信を通じて、徐々に賛同者を増やしていきました。分厚い資料を自前で作成し、当時では珍しかったセミナーを開催。新制度への知見を熱弁し、支持を集めていきます。また、お客様との共同研究で市場の動きを検証。連日夜まで議論し、時には飲み明かす泥臭い交流を通じて、信頼関係を育んでいきました。当時、日本にないシステムを仕様決めからゼロイチで開発したマルミローリ氏はこう語ります。「大きな潮流を見抜き賛同いただいた電気事業者に加え、電気事業の新たなプレイヤーであるガスや燃料事業の企業と一丸となっての共同研究。まさにお客様と新たな価値を共創する取り組みでした」。
震災によって一から見直し
初動から苦労を重ねた
スマートメーターシステム事業
BLEnDer成長の転機のひとつに通信機能を持つ新型の電力メーター「スマートメーター」システム事業がありました。これは一般家庭の電力自由化の際に、すべての家庭の電力消費量データをオンラインで確認する必要があったことに端を発するもの。2011年の東日本大震災を受け、電力制度が大きく見直され、限られた期間の中で改めて開発に取り組むことになりました。
「108回目となるお客様とベンダー間の仕様検討会で、大きな方針転換がありました。長く議論を重ねてきた中で、節目となるこの回は印象深いものになりました」と、スマートメーターシステムの立ち上げに大きく関わった井上氏は振り返りました。「様々な困難・挑戦の連続でしたが、部門を超えた多くの方のご支援を得て無事に納品を完遂。みなさんには感謝しかありません」と当時の開発担当、黒澤氏は語ってくれました。
現在では製品数も増加し、関わるメンバーは数百人。もちろんこの7人以外にもBLEnDerを支えた人は数多くいます。その仲間との関わりを、託送運用システム(小売電気事業者/発電事業者の電気調達にかかる料金計算をする仕組み)の対応をしていた永瀬氏はこう語ります。「当時は全員で対話しながら走っていた。今のように規模が大きくなっても、対話があればみんなで生んだシステムになり、きっと辛いことも楽しく思える」。
仲間同士だけでなくお客様とも膝を突き合わせ、とことん議論した話も飛び出しました。「お客様と合宿したこともありました。合宿だとお客様も当社側も本気になる。そうやってすり合わせをすると認識に乖離のないシステムを納められるんです」と立ち上げ当初から関わる塚田氏は話します。
7人のエンジニアの魂を受け継ぎ
需給分野の技術担当者が語る
BLEnDerのこれから
イベントを終え、登壇した7人の想いを受け継いだ多くの現役エンジニアの代表として、需給分野のBLEnDer製品を担当する松村氏と大山氏にも話を伺いました。
三菱電機株式会社
電力システム製作所 電力ICTセンター
エネルギーソリューション開発部
開発第一課 課長
松村 洪作(まつむら こうさく)
2011年の入社以来、一貫してBLEnDer事業に従事している。
──おふたりは、今日のイベントを聞いていかがでしたか
松村:創業メンバーの深いドメイン知識には強く刺激を受けましたね。そして日本の電力事業をよくしたいという想いの強さにとても共感しました。
大山:そうですね、そして制度変更が活発な電力業界において、お客様よりも業務に詳しくあるべきという教えは私たちにも受け継がれています。
──改めてBLEnDerについて説明をお願いします
大山:電気には作りたい人、売りたい人、買いたい人、使いたい人がいます。BLEnDerはそれらをつないでマネージメントする、そんなイメージです。みなさんの家に届いた電気も、BLEnDerが関わっているかもしれません。BLEnDerの使命は誰もが電気をより安く、安定して使うことができる世界を実現すること。それに加えて今後はカーボンニュートラルの実現が求められます。
──BLEnDerがこれだけの信頼を得ている理由は何でしょうか
松村:ひとつは20年以上電力制度の変遷を実直に追ってきた継続性があります。電力制度の動向の機微を捉え、いち早くパッケージへ反映させる力は他社が真似できない強みです。
大山:お客様からは電力事業全域をカバーする標準パッケージを保有している点も強みだと言っていただけます。加えて、長年培ってきた圧倒的なドメイン知識。制度のみならず、業務を熟知しているからこそ、「三菱電機に任せれば安心」という深い信頼をいただいているのではないでしょうか。
──BLEnDerが目指す未来についてお聞かせください
松村:電気を売買したい人にとって最適な市場入札戦略の立案や、太陽光、風力、EV、蓄電池などの分散型電源の運用最適化による収益最大化などを目指しています。また三菱電機の総合力を活かしたシナジーも期待されています。例えば、工場の生産機器やビル管理システム、スマート家電と連携することで、電力の需給バランスをより細かく調整するエネルギーマネジメントが可能になります。
──今後は、BLEnDer2.0としてどのような進化を考えていますか
松村:様々な進化が考えられますが、現在進めている取り組みのひとつに、三菱電機が推進するデータ基盤「Serendie®(セレンディ)」との連携があります。Serendie®は三菱電機の事業を横断して構築されたデジタル基盤。いわば「データのバケツ」とも言えるもので、Serendie®があることで収集・蓄積したデータの分析や学習が可能となります。メリットは20年以上の膨大なデータから新たなビジネス価値を発掘できる点で、データに基づいた攻めのビジネスが可能になります。
三菱電機株式会社
電力システム製作所 電力ICTセンター
エネルギーソリューション開発部
開発第一課 主任
大山 貴央(おおやま たかひさ)
2019年入社。2023年よりBLEnDer事業に従事している。
BLEnDerが受け継いでいくもの
BLEnDerは単なるソフトウェアパッケージではありません。電力自由化の波に立ち向かい、日本の電力事業を支えてきた情熱と泥臭い努力の結晶です。7人のエンジニアが築いたレガシーを守りつつ、最新技術を駆使し、これからも安価で安定的、そして環境負荷の少ない電力供給を維持していきます。また今後はこの知見と技術を武器に、海外パートナーと連携してグローバル展開を加速させ、世界の電力課題解決にも貢献していきます。泥臭い、けれども最先端。BLEnDerの新しい挑戦は、まだ始まったばかりです。
※本記事内の製品やサービス、所属などの情報は2026年4月時点のものです。










