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シナジーコラム

シナジーコラム 電力ビジネス×ICTソリューション これだけは知っておきたい「電力ビジネス」の基礎 ライター市原淳子 三菱電機 電力システム製作所 千貫智幸・木村正憲・松村洪作シナジーコラム 電力ビジネス×ICTソリューション これだけは知っておきたい「電力ビジネス」の基礎 ライター市原淳子 三菱電機 電力システム製作所 千貫智幸・木村正憲・松村洪作

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2016年4月1日に電力の小売全面自由化が始まって3年半。その間に多くの会社が電力ビジネスに新規参入を果たし、再生可能エネルギーが普及するなど、電力業界は大きな変化を遂げた。そして今(2019年12月)、日本の電力事情は再び転換期を迎えつつあるという。なぜ昨今、電力ビジネスはここまで注目されているのか? 今後、日本の電力事情はどう変わっていくのか? 電力ビジネスに精通する3人に聞いた。

千貫智幸さん、木村正憲さん、松村洪作さんの写真
左から:三菱電機株式会社 電力システム製作所 電力ICTセンター 電力ICTシステム部の千貫智幸さん、木村正憲さん、電力ICT技術部の松村洪作さん。

多彩な企業が電力ビジネスに参入

2016年4月1日に電力の小売が全面自由化され、一般家庭や商店でも電気を「どこから」「どんな料金メニュー・サービスで」買うかを選べるようになった。それに伴って、通称「新電力(電気の新しい販売会社)」が次々に電力の小売市場に参入。電力ビジネスは大いに盛り上がっている。

こうした状況について、電力ビジネスの概要や制度にくわしい三菱電機の千貫智幸さんに解説してもらった。

千貫:従来、電力会社は各地域に1社、合計10社しかなく、電力をどの会社から買うか選択することはできませんでした。「電力自由化」とは、新しい事業者が電力の販売事業に参入できるようになることを言いますが、最初に電力自由化が行われたのは20年ほど前。そこから段階的に市場の開放が行われ、2016年の「小売市場全面自由化」をきっかけに、新規参入事業者が一気に増えました。現在の登録事業者数は約600社にものぼっています。

──それほど多くの事業者が電力ビジネスに魅力を見出しているということでしょうか?

千貫:はい。新規参入事業者には電力関連以外の企業も多く、さまざまなサービスと組み合わせてビジネスを展開しています。

例えばガス会社や通信事業者といったインフラに関わる企業は数十万、数百万という顧客基盤をもっていますから、その情報を電力事業にも活用できますし、電気とガス、インターネットとのセット販売など、新しいサービスが展開できます。

また、大手コンビニやガソリンスタンドは「電気料金で○○ポイントが貯まる」などのサービスを提供し、顧客を自社の店舗に誘導する手段としています。旅行会社の中には「うちで電気を買うと特別な旅行パックを通常より早く買える」という特典を打ち出すところもあります。

──電気の売買で利益を上げるだけでなく、本業のサービスに顧客を取り込めるというメリットがあるのですね。他にはどんな事業者が電力ビジネスを始めていますか?

千貫:珍しいところでは、住宅メーカーです。住宅メーカーは電気の小売とともに、自社が建てた戸建住宅に太陽光パネルを取り付け、そこでできた電気を買い取って自社の工場などで使用します。それによって「クリーンエネルギーを使用するエコな企業」としてイメージアップを図れますから。

地方自治体も電力ビジネスに乗り出しています。これは、住民の電気料金を自治体内で循環させようという考え方。さらに、電力ビジネスによって雇用を創出できます。風力発電やバイオマス発電など地域の特徴を生かした発電を行っている事業者もあります。

千貫智幸さんの写真

電力ビジネス 最新の動向

ここで一つ、疑問が湧いてきた。日本の人口は減少傾向で、省エネが推奨されていることを考えると、電力需要は今後、減っていくのではないだろうか。そんな中、電力ビジネスを始めても過当競争に陥るだけでは?

千貫:人口が減少傾向にある一方で、電気自動車(EV)のような新しい電力需要も拡大しています。そういった需要は新たなビジネスチャンスにつながる可能性があるんです。実際に、自動車業界も巻き込み、電気自動車の充放電を電力システムの安定化に活用する実証実験も行われています。

それに電力ビジネスには、電力の売買以外にも利益創出の機会があるのです。例えば、オフィスビルやデパートで「ただいまの電力使用状況」などを示すモニターを見かけますね。

このように、電力をわかりやすく「見える化」する、節電を促す、また、複数の機器を自動でコントロールして電力消費を抑える、など様々なニーズに応えるため日々新たな技術・製品が開発されています。

──電力業界はまだまだ潜在的なビジネスチャンスが数多く残されているんですね。国はこのような電力ビジネスをどうとらえているのでしょうか。

千貫:国は法整備を行なって参入障壁を下げ、多くの事業者が電力ビジネスに参入しやすい環境を整えています。競争によって電気料金が安くなり、サービスの質が向上すれば、私たちはよりよい暮らしを手に入れることができます。また、新しいサービスやビジネスは経済の活性化にもつながりますから。

──そうやって参入してきた新電力に対し、従来の電力会社はどのようにビジネスを展開しているのでしょうか?

千貫:長年の実績・ノウハウという最大の強みを生かして事業を展開しています。電力事業の運用業務は決して簡単ではありませんから。それに加えて、複数の従来企業が共同で燃料調達をしたり、海外で発電所建設を手がけたりするなど、電力事業のエキスパートならではの経験値を生かして収益を上げようとしている会社もあります。

千貫智幸さんの写真
三菱電機株式会社 電力システム製作所
電力ICTセンター 電力ICTシステム部
千貫 智幸さん

大学で電力ビジネスについて学んだ後、三菱電機に入社。現在は電力取引所を担当しながら、国内外の電力に関する制度や現状について学ぶ。「海外、とくにヨーロッパには日本よりも電力制度などが5年、10年先行している国があります。そういった国の制度や現状を調べていくと、日本の電力制度の方向性が見えてくる。電力はとても面白い分野ですよ」。最近の趣味は“体を使うパズル”とも呼ばれるボルダリング。

「需要=供給」が電力ビジネスの絶対ルール

電気は「発電部門」「送配電部門」「小売部門」の3つの部門を経て、私たちのもとに送られてくる。発電部門とは、水力、火力、原子力、太陽光、風力などによって電気を作る部門。送配電部門とは、送電線・配電線のネットワークを管理し、消費者に電気を届けるための部門。小売部門は消費者と契約して、必要な電気を調達する役割を果たす部門だ。

「発電部門」「送配電部門」「小売部門」の説明図
自由化が進んでいるのは小売部門だけではない。発電部門については1995年から自由化がスタート。さらに2020年には「送配電部門の法的分離」が予定されている。これまで発電事業者と小売事業者と同一会社であった送配電部門が分社化され、中立的な立場となることで、発電事業者間の公平性を保つためだ。

電気は24時間365日作られているが、電力は大量には貯蔵できないため、需要(消費)と供給(発電)をつねに一致させるのが大原則だ。その仕組みについて、電力の需給システムにくわしい三菱電機の木村正憲さんに聞いた。

木村:刻々と変動する電力消費量と発電量を一致させるために、各発電事業者は電力需要を想定し、それに合った供給計画を策定し、「広域機関(※) 」に提出します。提出した計画と実際の需要や供給との間に過不足があれば原則として、広域機関に罰金を支払わなければなりません。

※広域機関:電力広域的運営推進機関の略。全ての事業者から電力需要の想定値、供給計画の提出を受け付け、需給バランスの状況を把握する。

──需給バランスが崩れると、どんな問題があるのですか?

木村:電力が不足しても余っても、電気の周波数が基準値(※)からずれてしまい、電気を使用する設備と発電設備の双方に悪影響が生じます。最悪の場合は大規模停電につながるリスクがあります。需要と供給のバランスの維持は、電力の安定供給のために必要なのです。

※東日本では50Hz、西日本では60Hz

木村正憲さんの写真

ICTで需給バランスを見極める

──発電部門はどのように電力の需要予測をしているのですか?

木村:各電力会社は、高精度の需要予測をもとに供給計画を立て、基本的に1ヶ月前、1週間前、前日と複数回提出します。当日も1時間前までならギリギリで微調整が可能です。ちなみに需給計画は30分単位で計算することになっています。

──30分単位! かなり細かいですね。その計画が外れてしまうと、設備の故障や停電という事態に……?

木村:そうならないための手段の一つとして、「日本卸電力取引所(JEPX)」があります。電力事業者はここで作りすぎた電力を売ったり、足りない電力を調達したりして、過不足分の調整をするのです。

──予測が外れたら電気の売買をするのですね。これは最近、電気ビジネスに参入した新電力はもちろん、電力市場に精通した旧電力にもかなり厳しいのでは。

木村:それをサポートするのが「電力需給管理システム」です。私たち三菱電機では、2003年より電力ICTソリューションパッケージ「 BLEnDer®(ブレンダー)」のラインナップの1つとして、独自の電力需給管理システムをパッケージ型ソフトウェア製品として、販売開始しました。

※「BLEnDer®」とは2000年の電力小売自由化に合わせて開発し、2001年に商標登録・販売を開始した電力市場向けのパッケージ型ソフトウェア製品の総称。

電力需給管理システムの説明図
参加事業者の実際の業務の説明図

「BLEnDer®」の「電力需給管理システム」でできること(一例)

  • ● 電力の需給バランスをつねに監視。
  • ● 気象会社から情報を得て、電力需給計画を立てる。
  • ● 電力需給計画を広域機関に申請。
  • ● 発電部門に対しては、「どの発電機をどのように運用すると最も低コストか」を提案。
  • ● 計画が外れた場合は、取引所で電力を自動的に売買して帳尻を合わせる。

──電力事業者はどこも「電力需給管理システム」を導入しているのですか?

木村:何らかの「電力需給管理システム」は利用していると思いますが、ICTソリューションを導入している企業ばかりではありません。ある事業者はExcelを使って手作業で電力需給計画を立てて24時間体制で広域機関への申請を行っているそうです。しかし電力自由化がスタートして3年半が経った現在、手作業に限界を感じて私たちにお問い合わせいただくケースも増えています。

──現在は、どれくらいの企業がBLEnDer®の「電力需給管理システム」を採用していますか?

木村:電力市場の中で、販売電力量の6〜7割がBLEnDer®の「電力需給管理システム」によって運用されています。このシステムを導入すれば電力需給管理にまつわるさまざまな作業を自動化できるため、「作業が楽になり、人件費が削減できた」「深夜や土日の出勤がなくなった」などの声をいただいています。関係会社の「三菱電機プラントエンジニアリング株式会社」新しいウインドウが開きますでは、BLEnDer®による電力需給管理の業務委託を受けています。24時間フルタイムでお引き受けするケースから、深夜だけ、週末だけなど、一部を代行するケースもあります。

──複雑かつ間違いが許されない作業をICTに一任できるのですね。

木村:電力需給管理にはもうひとつ難しい点があります。それは、電力需給管理に関する制度が年に1、2回と頻繁に変わるということ。電力事業者は制度が変わるたびに計画の立て方を見直したり、申請用のフォーマットを修正したりしなければなりません。しかし、BLEnDer®は制度の変更に即時に、柔軟に対応しますから、その点でも業務担当者の負担は減ると思います。

木村正憲さんの写真
三菱電機株式会社 電力システム製作所
電力ICTセンター 電力ICTシステム部
木村 正憲さん

主に新電力の電力需給管理システムを担当。「昔の電話は通話しかできませんでしたが、それが携帯電話になり、今は生活に不可欠な情報端末となっています。電気も将来的に、もっと身近になって、個人がポイントのようにやりとりする時代がくるかもしれない。そんな世の中になったときに自分の考えたシステムやサービスが役に立ったら嬉しいですね」。趣味の草野球ではキャッチャー兼プレイングマネージャーとして司令塔の役割を務める。

再生可能エネルギー 普及の立役者

電力について気になることの一つが「再生可能エネルギー」だ。太陽光、風力、水力、地熱、バイオマスといった再生可能エネルギーは温室効果ガスを排出せず、国内でも生産できることから大きな期待が寄せられている。

現在、電源構成比率の中で再生可能エネルギーの比率は11.7%だが、国は第5次エネルギー基本計画において、2030年までにこの割合を22〜24%まで引き上げることを目標としている。

一次エネルギー国内供給構成の図
資源エネルギー庁「平成30年度(2018年度)総合エネルギー統計」(2019年11月15日発表)

松村:再生可能エネルギーの導入を進める上で大きな課題となるのが「発電量が不安定である」ことです。例えば太陽光発電は、天気がよいと電気がどんどん作られます。一方、天気が悪いと必要な電気を作れない。安定供給という観点から見ると、再生可能エネルギーは使いづらい電源と認識され、導入がなかなか進みません。

こう解説してくれたのは、三菱電機の松村洪作さん。松村さんは、太陽光や風力発電などの「分散型電源(※)」を束ねて管理制御や運用をするためのシステム開発を担当している。

※分散型電源……電力会社による大規模集中発電設備に対して、需要地の近くに分散配置される小規模な発電設備の総称。風力発電、太陽光発電、小水力発電、バイオマス発電、地熱発電などのほか、ヒートポンプ、蓄電池、電気自動車なども分散型電源に含まれる。

松村洪作さんの写真

──太陽光や風力を安定した電源として活用するにはどうしたらよいのでしょうか?

松村:答えの一つは、蓄電池をうまく使うことです。蓄電池を使えば、晴れの日にできた電気を蓄電池に貯めておき、曇りや雨で電気が作れないときには不足分をカバーできます。そうやって不確実な変動幅を調整できれば、再生可能エネルギーを安定的な電源として活用し、電力需給管理計画に組み込めます。蓄電池に対するこのようなニーズは、2012〜13年ごろから徐々に増えてきています。

例えば、北海道釧路町にある大規模な太陽光発電所(メガソーラー)では、大林組様、GSユアサ様、三菱電機が共同開発した蓄電池システムが2016年から稼働しています。この蓄電池システムを使って発電量の変動を緩和することで北海道電力様への売電が可能となりました。

──個人宅のような小規模の太陽光発電設備も、蓄電池をうまく使いこなせれば安定した電源となるのでしょうか。

松村:もちろんです。ただ、今のところ蓄電池はまだまだ高価ですし、個人が蓄電池への電気の出し入れを最適に管理するのは現実的に不可能です。そこで、個々の家庭あるいは企業と電気の販売を契約している電気事業者が、蓄電池と「分散型電源運用システム」を組み合わせてサービスを提供したいというニーズが増えています。このシステムを使うと、さまざまな規模・タイプの分散型電源をまとめて管理・運用できるからです。言うなれば、太陽任せ、風任せではなく、蓄電池+「分散型電源運用システム」がコントロールするというイメージです。

──HEMSやZEHなどでは、EVや蓄電池を使った個人向けソリューションがある様な気がしますが、どこが違うのでしょうか?

松村:分散型電源運用システム」は、個人向けのソリューションを満たすと同時に、もう少し大きな視点(全体)で創出したメリットを共有・還元するというコンセプトとなっています。

例えば、複数のHEMSが蓄電池で個々の家庭内の電力を賄いつつ蓄電池を使っていない時間帯の情報を、「分散電源運用システム」にて共有できれば、対象の時間帯に余った電力を集めて電力を売買できる市場で売ることで得られた利益を、電気を提供した一般家庭に還元する仕組みなどを提供できます。

三菱電機の電力ICTソリューションパッケージ「BLEnDer®」に含まれる「分散型電源運用システム」は、さまざまなメーカーの太陽光パネルや蓄電池などの分散型電源に対応できますから、日本中に散在する再生可能エネルギーを集めて、安定した大きなエネルギー源とすることも考えられます。

BLEnDerの分散型電源運用システムの説明図

「BLEnDer®」の分散型電源運用システムでできること(一例)

  • ● さまざまな分散型電源の情報をまとめて管理できる
  • ● 分散型電源への電気の出入りを束ねて制御できる
  • 電力需給管理システムと接続し、束ねた電気を供給できる

──再生可能エネルギーを電気の需給計画に組み込めるとなれば、電力事業に新たなビジネスチャンスが生まれるかもしれませんね。

松村:小規模の分散電源を大量に管理するのは非常に手間がかかるため、これまでは個人宅や企業が持つ電気を積極的に活用しようとする事業者はあまりいませんでした。しかし、「分散型電源運用システム」が知られるようになってから、新たなビジネスチャンスとして注目する事業者が増えています。

さらに発電部門には、再生可能エネルギーの活用によって化石燃料の調達コストを削減できるというメリットもあります。こうした点からも、今後は蓄電池+「分散型電源運用システム」が普及していくと考えています。

──分散型電源だけで電力ビジネスを始めることは可能でしょうか?

松村:一つ一つの分散型電源はかなり規模が小さいので、それだけでビジネスにするのは難しいでしょう。「分散型電源運用システム」を使って再生可能エネルギーを束ねて、「電力需給管理システム」に組み入れるというのが現実的だと思います。

BLEnDer®シリーズには、「分散型電源運用システム」と「電力需給管理システム」の両方があるのですが、実は1つのメーカーでこの2つを手がけているところはほとんどないんです。共通のシステムを使えば電力の管理が楽になりますし、管理にかかる人件費などのコストを削減できます。

松村洪作さんの写真
三菱電機株式会社 電力システム製作所
電力ICTセンター 電力ICT技術部
松村 洪作さん

大学で電気工学を学び、入社後は蓄電池制御システムを組み上げる設計・プロジェクト管理業務に携わる。昨年4月から分散型電源を管理・運用するシステムの開発を行う。「分散型電源は新しいタイプの電源として注目され、さまざまな意見が寄せられています。そうした声の中から潜在的なニーズをくみ上げ、システムに反映させていく仕事は大きなやりがいを感じます」。休日はテニスをして電気から頭を離し、リフレッシュして月曜日を迎える。

私たちの暮らしや環境に大きな恩恵をもたらす電力小売自由化、そして再生可能エネルギー。賢く取り入れるにはICTの力が欠かせないようだ。電気の世界をスマートに変えていくICTの今後に期待したい。

市原淳子の写真
取材・文/市原淳子
雑誌の編集者・記者を経て独立。食やヘルスケア、医療・介護から最前線のビジネスフィールドまで幅広いジャンルにわたり、Webメディア、雑誌、新聞、また単行本の企画・構成などを手がける。企業人や職人、アーティストへのインタビュー多数。発信者と読者をつなぐ、わかりやすくて面白いメディア作りの達人。
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