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シナジーコラム

シナジーコラム ホームドア×保守点検 トレーニングの現場を拝見! ライター市原淳子 三菱電機プランドエンジニアリング株式会社 原口武久・高島潤シナジーコラム ホームドア×保守点検 トレーニングの現場を拝見! ライター市原淳子 三菱電機プランドエンジニアリング株式会社 原口武久・高島潤

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真夜中に人知れず行われるホームドアの保守点検。真夏の熱帯夜や、氷点下の屋外といった過酷な環境下でも時間内にミッションを完了させることが技術員の至上命題だ。今回はそんな点検や工事の先頭に立つ百戦錬磨のエキスパートが登場。「技術員は始発に乗ってはいけない」「ガラスの裏表の見分け方」など、ホームドア点検の技術員しか知り得ない知識や経験の一端を披露してもらった。

毎日約200回(※1)、1年間に約7万3000回も開閉する駅のホームドアは、利用者の安全を守る頼もしい存在だ。そうであるだけに、もしそれが故障して開かなくなったら……。電車に乗り降りしにくいだけでなく、事故やダイヤ乱れなど、大問題につながるリスクがある。

しかし普段、駅を利用していてホームドアを点検している様子は見たことがない。いったい誰が、いつ点検をしているのか。日本全国にある三菱電機製ホームドアの保守点検を担う三菱電機プラントエンジニアリング株式会社(以下、MPEC/エム・ピー・イーシー)で聞いた。

※1 ホームドアは1日の利用客が10万人以上の駅への設置が進められている。そのような大規模な駅には1ホームあたり毎日約200本程度の電車が発着すると想定されるため、ホームドアの1日あたりの開閉回数を200回とした。

ホームドアの寿命は何年?

MPECは発電所や鉄道、空港、上下水道などの社会インフラからビル、工場などの産業関連まで、さまざまな設備のメンテナンスを行っている。ホームドアの保守点検を担当するのは、長崎事業所 施設・交通システム部の原口武久さんと高島潤さん。

原口:私はホームドアメンテナンスの設計を担当しています。ホームドアは頻繁に開閉するので、どうしても劣化や機械的疲労が進みやすく、そのまま使用を続けると、いずれは故障などを起こす可能性があります。それを防ぐために稼働状況や点検データをもとに部品交換のタイミングを含めた予防保全計画を設計するのが主な仕事です。

高島:原口が立てた計画に沿って発注した部品は予防保全拠点である東京ホームドアテクニカルセンター(以下、東京PSDC※2)に届きます。そのすべてを私の部門で試験して、全国のMPECサービス拠点に送ります。実際に部品交換を行うのは、全国のサービス拠点に配置されたMPEC技術員です。通常のメンテナンスをしていても、使用開始から14~15年を経過したあたりから故障率が高くなってきます。しかし、適切なタイミングで部品交換やオーバーホールをすれば寿命を5~6年以上延ばすことができるのです。

※2 東京PSDC:東京Platform Safety Door Technical Center

ホームドアの使用経過年数と故障率のグラフ
部品の定期交換やオーバーホールは、ホームドアの延命だけでなく、安定稼働にもつながる。

入社以来インバータの試験を担当してきた。長崎事業所に異動後はそのインバータで駆動しているホームドアの担当となった。かつては手動で何万回も開閉し、耐久性試験を行っていたが、それを知った原口さんは労力を減らすために自動で開閉試験する装置を開発したこともある。「問題解決に取り組むのが好きで、原因不明のトラブルがあったと聞くと黙っていられない性分です。自分の分析の結果、問題が解消されると心の中でガッツポーズが出ます」。今話題のアニメ映画に駅のホームのシーンが登場したときは、「三菱電機製のホームドアだ!」とひそかに興奮したそう。

原口武久さんの写真
三菱電機プラントエンジニアリング株式会社
エンジニアリング本部 長崎事業所 施設・交通システム部
原口 武久さん

2007年以降、三菱電機が製造した約8,500開口のホームドアの試験や設置、調整に関わっている。「北は札幌から南は鹿児島までのホームドア調整に関わりました。年末年始や夏休みになると、新幹線の乗車率のニュースが流れますよね。そこにホームドアが映っていれば『これは何駅のどのホームだ』とすぐにわかります」。駅に行くとプライベートのときもホームドアに目が行き、戸先がぴったり合っているか、正しく水平になっているかを思わずチェックしてしまう。

高島潤さんの写真
三菱電機プラントエンジニアリング株式会社
エンジニアリング本部 長崎事業所 施設・交通システム部
高島 潤さん

クモや埃はホームドアの天敵

ホームドアの保守点検には、3ヶ月おきに行う「普通点検」と12ヶ月ごとの「精密点検」がある。この2つの点検はMPECの技術員が行う場合や、MPECが作成した点検マニュアルに基づいて各鉄道会社が行う場合もある。

原口:普通点検ではおもにホームドアの外観をチェックして、すべての機能が正常に働くかどうかをチェックします。例えば、ホームドアには乗降客の挟み込みを防ぐためにセンサーがついているのですが、以前そこにクモが巣を張ったり、埃がついたりしたために誤作動したことがありました。現在では対策されていますが、今後もそういうことがないように確認し、汚れや異物があれば掃除を行います。

精密点検で行う絶縁抵抗測定の様子
精密点検で行う絶縁抵抗測定。絶縁が劣化すると感電する恐れがあるためだ。

「始発に乗ってはいけない」
がルール

このような点検や、部品交換などを行う「修繕工事」は終電が通過した後、始発電車が走り出すまでの夜間に行われる。作業ができるのは朝4時頃までの実質3時間程度。

高島:私は作業責任者を務めることが多いのですが、まだ時間があっても、その作業に時間がかかりそうだと判断したら、ストップの指示を出して翌日に回すこともあります。中途半端な状態ではホームドアを動かすことができず、電車の運行に影響するからです。「その日の仕事はその日のうちに」がこの仕事の絶対条件です。

原口:4時になると撤収作業をして、眠い目をこすりながら始発電車を待ちます。でも、その電車に乗ってはいけないんです。もし、ホームドアに何かトラブルがあったら大至急対応しなければなりませんから。始発電車を迎え、ホームドアが開いて、閉まって、電車が出発する。それを見届けてようやくほっとして、次にきた電車に乗って帰ります。

原口さんと高島さんの写真
「早朝は普通電車が多いので、6時、7時ごろまで急行を待つこともあります。工事の開始も、終電が過ぎるのを待ってから。我々の仕事は待ち時間が多いんです(笑)」と、高島さん。

過酷!深夜の作業

1つのホームに設置されるホームドアの数は平均40開口で、修繕工事などには3日ほどかかる。その現場は、かなり過酷だ。

原口:地上駅の場合、雨の日は辛いですね。用意したブルーシートでホームドアをガバッと包み、我々がその中に入って作業するんです。夏場は蒸し風呂に入っているようなものですからとくに大変で、朝になると汗と汚れで真っ黒になります。

高島:以前、冬の北海道の地上駅で工事をしたときは、気温が氷点下になって、鼻水はたれるし、指はかじかんで動かないし、本当に大変でした。

工事はホームの一方の端から上り線側と下り線側を同時に始め、もう一方の端に向かって進めていく。駅のホームは長いので、そのほうが作業責任者の目配りが行き届き、連絡を取りやすいからだ。

原口:地下鉄の駅では普通に会話ができますが、地上駅の場合は近隣住民のご迷惑にならないよう、トランシーバーで連絡を取り合います。

ホームドア点検や工事は私たちの目に触れない時間帯に行われるだけではない。あえて目立たなくするための心配りもされていたのだ。

ガラスの裏表を判別するコツは

今年1月、MPECではホームドアの保守訓練を行うための東京PSDC(東京ホームドアテクニカルセンター)の運用を開始した。

高島:外から見るとホームドアはどれも同じように見えるかもしれませんが、箱の部分を開けてみると構造にはさまざまな違いがあります。夜、作業できる時間は限られており、短い作業時間で確実に作業を完了させるためにここでホームドアの実機を使って事前にトレーニングを行います。

テクニカルセンターでは、原口さんは取りまとめ役を、高島さんはトレーナーを務めている。実際にどんなトレーニングをするのか、デモンストレーションを見せてもらった。

まず、ホームドアにはめこまれたガラスの交換。

ガラスの交換の様子
「実際に使われていたガラスには、よく見ると汚れや傷がたくさんついています」(原口さん)

一見、縁がついただけのごく普通のガラスに見えるが、表裏や上下の方向は決まっている。

高島:ガラスに触ってみてください。ホーム側が表面で、軌道側が裏面です。一方が冷たくて、もう一方が少し温かいのがわかりますか? 実は、軌道側(裏側)には飛散防止フィルムが貼ってあるのでガラス面に触れたときより温かく感じられるんです。

工場から出荷されたときには表裏の表示があるが、それが正しいかどうかを取り付け前にチェックするのも技術員の仕事だ。

「支障」と「故障」は
ホームドアの基礎用語

ホームドアの実機を使うことで、現場技術員への説明は格段にわかりやすくなる。例えば「支障」と「故障」。この2つはホームドアの基礎用語だが、口頭で教わっただけではわかりにくい。そのため実機を使ってのデモンストレーションが有効なのだ。

では、「支障」とは?

原口:例えばホームドアが閉まる途中で乗客に軽く当たると、ホームドアは一旦開き、再度閉じます。この状態を「支障」と呼びます。「支障」のときはドアの上についたランプがチカチカと点滅します。

支障が起きても、原因(この場合はホームドアに当たった乗客)が解消されればランプの点滅が消えて、電車は出発できます。しかし何回も当たると「故障」状態に変化し、ホームドアからの故障信号によって発車をストップさせます。

原口:例えば、閉じているホームドアを無理に開けようとすると、ホームドアは開くまいと抵抗しますが、一定時間がたつと異常状態のサインを出してホームドアが動かなくなります。これが「故障」です。

故障といってもホームドアが壊れたわけではない。何らかのトラブルに備えて、一時的にホームドアが使えない状態になることを指すのだ。

無理にこじ開けようとする動作に対して、ホームドアはかなり強力に抵抗する。

普段、何の気なしに通過しているホームドアの保守点検がこれほど繊細で大変なものとは知らなかった。蛇足だが、ホームドアの「支障・故障」やガラスの温度、体験したくなるかもしれないが、もし実行してしまうと大事故やダイヤ乱れにつながる恐れがある。けっして試さず、トリビア的知識として知っておくにとどめてください。

市原淳子の写真
取材・文/市原淳子
雑誌の編集者・記者を経て独立。食やヘルスケア、医療・介護から最前線のビジネスフィールドまで幅広いジャンルにわたり、Webメディア、雑誌、新聞、また単行本の企画・構成などを手がける。企業人や職人、アーティストへのインタビュー多数。発信者と読者をつなぐ、わかりやすくて面白いメディア作りの達人。
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