グローバル経済を読み解くためのキーワード「経済安全保障」。この経済安全保障に関して、ビジネスパーソンが身に付けておくポイントを、経済安全保障の日本における第一人者である東京大学公共政策大学院 教授の鈴木一人氏と、経済安全保障を専門とする部署をいち早く立ち上げた三菱電機において執行役員 経済安全保障統括室長を務める伊藤隆氏に議論してもらった内容を紹介するその後編。前編では、現在の国際情勢を踏まえたうえで、経済安全保障が重視されている理由などを明らかにしてもらった。後編ではさらに踏み込み、経済安全保障を鑑みて、日本企業が実践すべき事項などについてのヒントをもらう。

東京大学公共政策大学院 教授、
公益財団法人国際文化会館 地経学研究所長
鈴木 一人(すずき かずと)
2000年英国サセックス大学大学院ヨ-ロッパ研究所現代ヨーロッパ研究専攻博士課程修了。00~08年筑波大学大学院人文社会科学研究科で専任講師・准教授、08~20年北海道大学公共政策大学院で准教授・教授。12~13年プリンストン大学国際地域研究所客員研究員。13~15年国連安保理イラン制裁専門家パネル委員。20年から東京大学公共政策大学院教授、22年から地経学研究所長(ともに現職)。内閣府宇宙政策委員会委員(宇宙安全保障部会長)、日本安全保障貿易学会会長、国際宇宙アカデミー正会員、日本国際問題研究所客員研究員なども兼任。

三菱電機 執行役員 経済安全保障統括室長
伊藤 隆(いとう たかし)
慶應義塾大学法学部卒。1986年三菱電機入社。半導体事業で実務経験を積んだ他、業界再編、M&A、国際カルテル訴訟、通商摩擦等に従事。95~97年社団法人日本経済団体連合会(経団連)に派遣され、主に欧州政財界と日本財界の相互理解の醸成に努める。2020年、民間企業では初となる経済安全保障専門部署を立上げ、当該分野にかかわるリスクマネジメントプロセスを確立。メディア出演やシンポジウムへの登壇を通じて、経験を国内外に広く発信しつつ、民間における経済安全保障活動の質的向上を目指している。
INDEX
社員が肌感覚で捉えられる情報発信が必要
――経済安全保障は、取り組みとしての方向性を見極めるのは経営陣の仕事であり、多くの社員は自分事として捉えていないように感じます。このような状況については、どのようにお感じでしょうか?
伊藤:難しい質問ですが、経済安全保障というものは、経営陣が起点になって考える仕事だと思っています。一般の社員が、「このようなリスクがあるから経営者の皆さんどうしましょうか」とエスカレーションするのに馴染まない仕事ではないでしょうか。三菱電機は経済安全保障の専門部署を設けて活動していますが、その部署で働く私たちの仕事も、経営陣の意思決定をサポートしていく、というのが主です。一方で、経営陣が若い人たちや事業をしている人たちに対して、自分の言葉で経済安全保障について語ることができるようにするためのサポート、すなわち上から下へのデスカレーションに関する仕事も大事だと思っています。
私自身、どのように話せば相手に正しく伝わるのかを四六時中、考えてはいるのですが、重要だからといって、すべての情報を話すわけにもいかないので、情報を削ぎ落とすことになる。すると、経営陣に対してはどうしても、「こういう問題が起こった時に、当社の経営にこの問題が起きて、この事業にいくら位のインパクトがあります。このような手段をとることで、少しインパクトは薄らぎます」と、実際に起こるリスクに焦点を絞った話し方になります。そうすると、経済安全保障からの視点が伝わらず、経営陣もそのまま話を降ろしてしまって、下の人たちにも伝わらないことがあります。だからと言って、極端な情報まで入れてしまうと、経営陣に過度な警戒感が強まってしまい、例えば「中国とのビジネスは止めた方がいい」という話になり、下に広げてしまうこともある。これなどは、デスカレーションの失敗です。
今年の5~7月にかけて、国内10カ所の事業所を回って経済安全保障の話をしてきました。すると、「経済安全保障の専門部署って、去年TBSのドラマであった『VIVANT』のような仕事をしているのですか?」という質問が出たりする。つかみとしては悪くないので、「残念ながら違います」等と答えながら、少しずつ理解を広げているといったところです。
職場の人たちの意識を上げていくには、(1)経営者の意思決定をサポートする、(2)現場で働く人たちに対しても必要な情報を必要な形で届けていく、(3)周辺情報をインテリジェンスとして捉えてもらうためにリテラシーの底上げを図る――この3つの側面で私たちは仕事をしていく必要があると思っています。現状、(1)はある程度できるようになってきたとの自負はありますが、(2)はまだ緒に就いたばかり、(3)はまだ先が長いぞ、というのが実感。相手に伝わる話し方という点で、力不足を感じるとともに、聞く力も必要だと感じています。
鈴木:企業から社員のリテラシーを高めるために経済安全保障の話をしてほしい、という依頼を受けることが結構あります。その席で例えば、中国とどう付き合うべきかを考えることが大事だと説いても、バックグラウンドが分かっていないと、「でも、それはなぜですか?」というクエスチョンマークが皆さんの頭に浮かぶのが分かります。ただ、経済安全保障のリスクは実際起こりうることですので、これを理解するためのリテラシーを、特にこれからの時代を生きる若い人たちに高めてもらうのはとても大事なことです。
とはいえ、人手不足で時間も限られている中、企業を経営する立場からすると、リテラシーを高めるために社員に時間を使わせることにプライオリティはあるのか、という問題にもなるのだろうなということは分かります。感じるのは、「やっぱりこれまずいよね」と肌感覚で思えるようになるコンテンツを出していくことで、日本全体のリテラシーを上げる必要があるということ。企業が若い社員にバックグラウンドを理解してもらうための素材や材料を提供するのが我々の仕事かなと思っています。
伊藤:10カ所の事業所を回った際に会ったのべ1400人の人たちへのアンケートでは、「経済安全保障情勢に関する情報を共有する機会を持ったほうがいいか」という質問に、9割以上から「もっと欲しい」という回答が返ってきました。情報が欲しい、関心がある、興味があるという人が大勢いることが分かって、今までやって来たことは間違いではなかったと勇気づけられましたし、一緒に考えていきましょうという姿勢で勉強していけるとの意を強くしました。
得体の知れないものではないと認識して対応
――経済安全保障を推進するためには、例えばコストは高くてもリスクの少ないサプライヤーから購入するなど、これまでの営利を追求する企業活動とは相いれないことが多く発生します。このように、これまでの常識とは違う対応も多く発生すると思いますが、それを推進するための体制や仕組みはどのように作るのが良いのでしょうか?
伊藤:企業が受ける経済的な規制は、経済安全保障で急に始まった話ではありません。例えばRoHS(ローズ=特定有害物使用制限)指令のように、法律になってしまえば、コンプライアンス(法令遵守)の問題になりますので当然守らなければならない規制であり、企業はこれを管理するための部署を設けて対処してきた経緯があります。
ところが、経済安全保障は法律になっておらず、リスクという非常に漠然とした形で存在していたり、あるいは法律がある国とない国とがあって、どこの国の法律に従えばいいのか判断が難しい、あるいは法律そのものが矛盾している状態で放置されていたりする。そこに対して、「自分たちの会社が守る基準はここだよ」ということを示して、それに基づいて動くという意味では、経済安全保障への対処も、これまでやってきたことと大きくは変わりません。また、そう考えないと、まるで得体の知れない大きなものにやみくもに対処しなければならない、というようなことになり、身動きが取れなくなってしまいます。
私たち三菱電機の経済安全保障の専門部も、手掛ける業務は多岐にわたっています。サプライチェーンの問題も動かしていますし、情報漏洩に対する管理の問題や人権問題、さらにはインフラを提供するというようなこともやります。いずれにせよ、守るべき基準、重点化するべき基準を1つひとつ決めて、それを社内で展開しています。
その過程では、やらなくていいことはやらない、ということになることもあります。これについて私がよく例に出すのは、2023年7月の中国における改正反スパイ法です。中国政府自身が日本政府や企業は日本人に対して十分に注意を促すべきだと言っている通り、我々なりに対処の仕方を考えましたが、今年3月に、反スパイ法をもう少し上書きするような国家秘密保護法が出てきました。これを見て我々が思ったのは、「今まで中国の当局が実際にやっていたことを法律にしただけだ」ということ。その意味では、「法治国家」を自認する中国からの「きちんと法律にしますよ」というメッセージだったわけで、この法律ができたからといって、改めて社内で注意喚起をすると、皆が過剰に萎縮するだけだと判断し、再度の注意喚起はしませんでした。
三菱電機は中国でも米国でもそれなりにビジネスのポーションを持って活動している会社であり、技術で社会課題に応えていく会社です。そして、社会課題に応える先の社会体制がどうなっているか、政治体制がどうなっているかについては、過度に意識するべきことではないと思うのです。もちろん、外為法をはじめとする法律は守らなければなりませんが、社会課題を解決していく会社である以上、どの国に対しても、自分たちがやっているリスクマネジメントの体制をきちんと説明できるような仕組みが必要だと思います。そういう意味で当社は、経済安全保障の専門部署を起こしましたが、ビジネスの大きさやコミットの仕方によって、専門部署を起こさず委員会型でやる企業もあるでしょう。経済安全保障の問題は、「正しい解は何か」を求めるよりはむしろ、経営者が自分の会社にとって何が望ましい姿かを考えればいいのだろうと感じています。
鈴木:企業から見て経済安全保障がすごくやりにくいだろうなと思うのは、コンプライアンスの問題ではないということです。コンプライアンスの問題であれば、例えばこの企業から買えばもっと安く買えるけれども、法律で禁じられているのであれば仕方がないというように、法制度が自分たちの利益構造やビジネスの構造そのものを決めているわけです。ところが経済安全保障は、「やるなとは言いません。ただそこにはリスクがあります。リスクを取るべきなのか避けるべきなのかは、あなたたち企業が判断してください。もしリスクを取るのであれば、それはそれでご自由に。ただ国の安全保障上のリスクがあるということで避けるのであれば、国が支援しますよ」という考え方です。企業とすれば、商売をするにあたって今まで採用してきた損得勘定や判断基準を当てはめきれない部分があるのでしょう。
ただその判断基準や常識は、過去40年近く続いた自由貿易とグローバル化の時代のやり方。新たな時代に適合したやり方を、新たな常識として作っていくことが必要です。自分たちの判断基準をきちんと持ち、こういうところから調達するのはまずいから、値段は高いけれども別のところで調達するべきだと、ある程度割り切ることが必要になってくるのかなと思います。そうしていくことで、コスト意識よりも自分たちの行動がより合理的なものとして認知されていくようになると思います。
伊藤:中国のことで付け加えるとするならば、三菱電機は中国のビジネスのポーションを意図的に下げましょうというようなことはしていませんし、する必要もないと思っています。安全保障上の課題になるようなビジネスを中国でしているわけではないと考えているからです。新興市場と言われた中国に進出して30~40年で、事業規模や利益はそれなりの形に育ちました。成長が鈍化するとはいえ市場は巨大ですので、そこはきちんとコミットしておけばいいと思っています。
ただ、中国だけにこだわっているのではなく、次に出てくる新興市場に対するコミットもしていかなければなりません。それがインドなのか他の国なのかというのは、事業によって異なってくるでしょうが、その結果、ビジネス全体に占める中国のシェアや依存度は下がっていくかもしれません。ただ、経済安全保障の要があるから、中国のビジネスを意図的に引き下げましょうというのは、間違ったメッセージだと思います。
関連情報は発信するからこそ返ってくる
――国際情勢は常に変化し、各国が課す規制もめまぐるしく変化します。これらの情報をいち早く入手し、経済安全保障の戦略に盛り込む必要があると思いますが、情報収集を効率的に行うにはどうしたら良いでしょうか?
伊藤:鈴木先生の地経学研究所に行って話を聞いてくればそれだけでOKということではありません(笑)。私も社外で講演する際、「この会場の扉を開けて外に出た瞬間に、今の話の7割は忘れてしまいますよ」と申し上げるのですが、話を聞いて理解し定着させるには、普段から情報収集してリテラシーを高めることが必要です。そのためには、『日本経済新聞』や『フィナンシャル・タイムズ』、『エコノミスト』等オープンソースを使った情報収集が基本中の基本になります。これらをきちんと読み込むことを続けていくと、最初のうちは分からなかったものの構造が分かってきて、1つの規制が及ぼす効果のようなものを想像できるようになっていきます。
もう1つ大事なのは、社外とのコミュニケーションです。経済安全保障の問題は、社内に答えがない分野なので、社外の知見のある人たちとコミュニケーションを取ることが極めて大事です。そのためにはまず、自分たちが収集したうえで考えた情報を、きちんと仮説化して社外に出す。すると、地経学研究所のようなアカデミアの方々は、我々が考えた具体的なリスクを、普遍化したり抽象化したりして戻してくださる。それを私たちは再び具体化し直してみるという作業ができます。
一方で、政府の方々とは政策の方向性についての会話をする。財界の方々とは、「経済安全保障のような問題は、財界の共通認識としてうねりを起こしていこうじゃないか」というような話をする。さらに、企業同士の会話では、他社が実際にやろうとしているリスク制御の施策を学び、そこから自社の対処の仕方を導き出すことにつなげるということをします。先ほど話に出た中国の改正反スパイ法への対応にしても、他社と意見交換を繰り返す中で、三菱電機なりの対処の仕方を決めました。
そして、社外とのコミュニケーションで大事なのは、発信するというスタイルを絶対に崩してはならない、ということ。発信し続けることによって、集まるものも非常に多くなってくるということを実感しています。
鈴木:発信しないと入ってこないというのは非常によく分かります。地経学研究所では伊藤さんのような企業人や実業家の皆さんにご参加いただいて情報交換をしていますが、それが様々な気付きにつながっています。研究室に1人で籠もって新聞を読んでいても、得られるものは限られてしまいます。
とはいえ、私も自腹で20誌程度を購読しています。メディアによって分野の得意不得意があるし立場や癖もありますから、そのぐらいの量で情報に接していかないと、実際のところが分からないのです。
さらに、伊藤さんのおっしゃられた「仮説を立てる」のは極めて大事なことですね。つまり、世の中はこうなっている、こういう理由で動いているのだということを理解する時に、できるだけ密に情報収集をして、現実に近い仮説を持つことが、解決への一番近い方法です。この時に大事なのは、立てた仮説を常に検証すること。自分たちの仮説が間違っているかもしれないと常に思って、新しい情報によってアップデートすることで、仮説が確かなものになっていきます。情報を集めて分析し、仮説を立て、その仮説を修正していくというこの作業が、アカデミックの世界だけでなく、経済安全保障に関わる一般の方々にも求められる、そういう時代なのだろうなと思います。
膨大なデータが必須に、収集や扱いには苦心が伴う
――三菱電機は2020年10月に専門部署を設置するなど、経済安全保障にいち早く取り組んできました。これまでにどのような苦労があり、そしてそれをどのように乗り越えてきたのでしょうか?
伊藤:最初の頃はやはり、経済安全保障というものについて、経営層の理解をどう促していくかというところですごく苦労しました。2018年8月、米国で2019会計年度の国防授権法に盛り込まれる形で輸出管理改革法(ECRA)が成立しましたが、「国防授権法ができました、経済安全保障は大事です、さあどうしましょう」と伝えても、誰も考えてくれないし通じもしないのです。
そこで、「ECRAによって当社が中国の特定のお客様と取引ができなくなり、それが該当する工場の年間売上高の3分の1に及ぶ。こういう事態が迫っていますが、米国政府に対してどういう形で再輸出許可の申請を出しましょうか」というように、数字を出して具体的に示していかないと、どの程度の影響なのかが理解してもらえません。法律を剥き出しで示しても、「それで何だ?」で終わってしまうのですね。最初はその繰り返しでした。
また、経済安全保障に関心が集まることで注目されるようになったレアアースにしても、ある時、「電動機で大事な磁石を作るのに必要なレアアースはどこから買っていたんだっけ?」と、割と漠然とした問題意識から調査をしてみたのです。すると、会社のデータベースが散逸していたり、データを集めるためのコード体系もバラバラだったりすることが分かった。つまり、それまでレアアースの調達について、体系立ててデータを集めて管理することが重要だという認識がなかったので、必要なデータ体系などどこにもないわけです。
今後は必要になるので、データのバケツリレーと称するようにメールにエクセルのシートを乗せて回覧してデータを入力してもらい、それを大勢が集まって集計してまた回覧する、という作業を繰り返しました。ただ、入力してくれる人たちの熱意にも濃淡があるので集まってくるデータの確からしさも実証できないし、「こんなデータ集めて何の役に立つんだ」という拒絶反応や、「こういう調査をするということは、どこそこの国からの素材は買うなということだな」のような過剰反応も出る。こういう反応をどうやって解きほぐしていくのかと悩むことを繰り返しながらの4年間でした。それを克服できたかといえば多分できていないし、これからも簡単なことではないと思っています。
鈴木:状況は変わるときには非常に速いスピードで変わりますから、ある日突然リスクが降ってきたというような事態に直面することもありますし、中にはかわしきれないリスクもあるでしょう。それでも、三菱電機がやられているように、経営陣に理解を促し、データベースを作るというような作業を通じて経済安全保障の基礎体力を培い、頭の体操をしておけば、リスクに対する予測可能性を導き出すことができ、柔軟な対応につなげることができるでしょう。
地経学研究所にも、「経済安全保障部を作ったのですが、どう運用、活用したらいいのか分からない」といった企業の相談をたくさんいただきます。インフラは整備したけれども、社員のリテラシーを上げたり、リスクを言語化し顕在化してある程度目に見えるものにしたりしていく作業がないと、せっかく作った部署が機能しないということ。その点、企業による経済安全保障の取り組みの先駆けである三菱電機はさすがだとお話を伺いながら思いました。
伊藤:3年ほど前、膨大なデータを扱わなければならないようなケースに突き当たり、これ以上はもう人間の力では無理だなと思ったタイミングがありました。そこで、電機メーカーなのだからテクノロジーに頼ろうということで、いまでは5種類の業務にAI(人工知能)を活用しています。もちろんAIにも限界があります。AIがある程度導いてくれた答えに基づいて我々なりの解釈を加えて社内に提供しています。
サプライチェーン見直しで「信頼」は最大の武器に
――経済安全保障の取り組みは、リスクを洗い出したうえでその対応を行うなど、どうしても守りの面が多くなってしまいます。経済安全保障を利用して攻めに転じるためには、どのような取り組みが必要でしょうか?
伊藤:鈴木先生も指摘されましたが、経済安全保障が仮にコンプライアンスの問題なのだとしたら、攻めにはならず、守りにしかなりません。ただ経済安全保障はリスクマネジメントですので、守るだけでなく攻めにも行けると思います。例えば三菱電機の製品やサービスを生産、構成する課程で、リスクフリーにはできなくても、リスクミニマム、あるいはコントロールできるリスクの範囲内に落ち着かせることができれば、レジリエンスがある製品・サービスだとアピールできるということ。
残念ながらいまはまだ、気持ちの上でもデフレの時代から目覚めていないので、消費者も経済合理性や安いものに関心・評価が行きがちですが、製品やサービスの持続性を高めることに価値を見出す社会は今後、必ず来ます。そこに三菱電機の勝機があるし、攻めの機会にもなります。今は、スタートラインに立ち、そろそろピストルが鳴らないかな、と思っているところです。
鈴木:攻めという観点からいうと、日本をはじめ世界中が経済安全保障に対しての感度が高くなっていて、とりわけサプライチェーンの強靭化、レジリエンスを高めることが重視されている。具体的には中国に対する依存を減らし、いわゆるフレンドショアリング、信頼できる相手とのビジネスを重視しようという時代になります。こうしてサプライチェーンの組み直しが始まっている中、今までは「安ければ買う」だったのが、今後は「信頼できるから買う」になっていく。つまり、信頼できるが付加価値になり、売れるようになっていくというのがポイントになります。








